1 / 77
お飾り嫁は本当は美人な勇者でチートな転生者
しおりを挟む
フィッシュ伯爵家は、取るに足らない貧乏伯爵家のはずだった。
傾いたはずの伯爵家は、今では持ち直し、領地は領民の笑顔で溢れている。
本邸で女を侍らして、これっぽっちも領民のために働かない顔だけの伯爵に見切りをつけ、書類だけの婚姻で離れに押し込められたお飾り嫁の僕が領地のために働いた成果だ。
あいつは、僕の顔を見たこともない。
全く好都合だけどね!
僕は、ベッドの脇の執務机に座り、領地経営の書類を眺めた。
艶やかで柔らかい黒髪がカーテンの隙間からそよいだ風に揺れ、光を透かす。
黒い瞳は黒曜石のようで、その瞳を彩る長い睫毛。
皆が美しいと評する僕の容姿だ。
机の側には年老いた家令と、若い侍従が控える。
僕は、王家に近しいバード公爵家の子で、オメガの男だった。
この世界には、男女の別の他に、アルファ・ベータ・オメガという性別がある。
アルファは優秀な人が多く、ベータは普通。オメガは発情期があるが、アルファと番えば優秀なアルファが生まれやすく、オメガであれば男性でも子どもを産める。
そして、この国は女性でも家を継げるけど、オメガは継げない。
発情期で何週間も使い物にならなくなるオメガは当主には向かない、という理屈だ。
僕が5歳の頃、相次いで入り婿でオメガの父とアルファで女公爵の母が亡くなった。
流行り病のようで、原因は不明だった。
遺された子どもはオメガの僕一人。
だから、母の妹夫婦が公爵家を継いだ。
母の妹のマドンナはベータだけど、夫がアルファだった。
公爵家で雇われていた者は、全員よそへ行った。
屋敷は叔母夫婦が都合のいいように変わっていった。
僕は、離れに追いやられた。
僕はそれまで王家と交流があり、特に同い年の第三王子のカナリア殿下とは幼馴染でとても仲がよかったけれど、もうお城へ上がることはできなかった。
僕の代わりに叔母の娘のマチルダが城に上がるようになったらしかった。
陛下は僕をカナリア殿下の妃候補にと考えてらっしゃったみたいだけど、マチルダはとても可愛い娘でオメガらしいから、きっと僕の代わりにマチルダが妃になるのかもしれない、と思う。
心がちくっと、今でも痛い。
年頃になり、僕は叔母に売られた。
まだ学園に通って、学生をしてもおかしくない若さだったけど、借金するのに公爵家の箔が欲しい、ただそれだけを求めている貧乏伯爵の下へ。
「どうぞ、ミリオン様。お茶です。」
「ありがとう。」
茶色の髪に瞳の侍従兼相棒のアリカが、スッとお茶を出してくれる。
彼は、僕と同い年で、僕があの家の離れで暮らすことになってから、ずっと一緒の使用人だ。
ありふれた色合いではあるけれど、なかなかカッコいい顔立ちをしていると思う。
学校にも行かせてもらえなかった僕だけど、彼が離れにこっそり教師を連れてきてくれたおかげで、一通り学ぶことができた。
本当に有能な侍従だ。
僕たちはともにマナーやダンス、算術や歴史、剣術に至るまでともに学んだ。
「あ。セバスチャン。そういえば、これ、今日の分ね。」
お茶を一口飲んで、傍に控えていた老齢の家令に声をかける。
「ありがとうございます!」
この伯爵家の家令のセバスチャンは、白髪のオールバックで片眼鏡のザ・執事って感じの人。
この家に嫁いでから、僕は真っ先にセバスチャンを仲間に引き入れた。
革袋に詰まった金貨は、僕の個人資産から分けている。
実は僕は、結婚前からアリカと冒険者をしているのだ。
「本当に……、ミリオン様にはなんと感謝すればいいのか。あんな阿婆擦れよりもずっとミリオン様が美しく、素晴らしいのに!なんとも口惜しい!本当にどうして、あんな絵姿を送ったのですか!本当の姿なら――――」
「言わないで!だって僕に関心を持たれたらいやなんだもの。3年間白い結婚なら婚姻無効で別れられるんだ。もうすぐ3年なんだから。でもね、心配しないで。君たちの退職金は僕が出すし、紹介状だって書くからね。この家から出たい人がいるなら、まとめておいてね。」
僕の嫁ぎ先を決めるために叔母(一応戸籍的には義母になっているけど)に絵姿を求められた時、よいご縁ではないのは分かっていたから、絵師にお金を握らせて、わざと不細工に描いてもらった。
叔母夫婦は一切離れに来なかったから、僕がどんな風に成長したかなんて知らないし、もし僕の『真実』が知られたなら、僕を利用しようとするに違いなかったから。
ふふふ。16歳で嫁いでもう19歳。もうすぐ3年。
待ち遠しいなあ。
叔母は、僕が貧乏伯爵家でお飾り嫁として虐げられて、しみったれた生活をすることをお望みだったのだろうけどね。
僕は実は、転生者なんだよね!
前世の僕は、多趣味で、アニメもラノベもゲームも大好き!
ゲーム実況や料理系のYouTuberも副業でやってた。
オメガバース物も嗜んではいたけど、実際に自分の身に降りかかるのでは違う。
たとえオメガだからって男に抱かれるのは御免だと思う。
ゲームは何でもしたよ。シュミレーションものも結構した。
前世チートを活用して、二毛作を取り入れたり、土地改良工事かましたり、道路保全したり、領民に教育を施しまくった結果、僕が何もしなくても自分たちで考えて、稼げるようになってくれた。
技術を鍛えたから、もしこの地でやっていけなくなったとしても、彼らならどの領地でも引く手あまただろうから、僕がいなくなっても安心だ!
出典がゲームの知識だったのは本当に申し訳ないけど、うまくいってよかった。
でも、僕が一番やったゲームは、やっぱりロールプレイングゲーム!!
4PC使ってプレイして、対人戦は大会で優勝したこともある。
せっかく魔法と剣のファンタジー世界なんだから。
モンスターも出るんだから。
ゲーマーならやっぱ、戦うでしょ!
――――――――――そう、僕。ミリオン=フィッシュは、『勇者』の称号を得ている冒険者なのである。
オメガだからか小柄だけど、強いんだから!
「ねえ、アリカ。今日は何か依頼ある?」
「丁度、陛下から出ていますよ。行きますか?」
「OK。アリカも一緒に行くでしょ?」
「もちろんです。」
さぁ、稼ぎ時だ。
僕はペロッと舌を出して、『勇者』として、モンスタ―討伐に向かうのだ。
傾いたはずの伯爵家は、今では持ち直し、領地は領民の笑顔で溢れている。
本邸で女を侍らして、これっぽっちも領民のために働かない顔だけの伯爵に見切りをつけ、書類だけの婚姻で離れに押し込められたお飾り嫁の僕が領地のために働いた成果だ。
あいつは、僕の顔を見たこともない。
全く好都合だけどね!
僕は、ベッドの脇の執務机に座り、領地経営の書類を眺めた。
艶やかで柔らかい黒髪がカーテンの隙間からそよいだ風に揺れ、光を透かす。
黒い瞳は黒曜石のようで、その瞳を彩る長い睫毛。
皆が美しいと評する僕の容姿だ。
机の側には年老いた家令と、若い侍従が控える。
僕は、王家に近しいバード公爵家の子で、オメガの男だった。
この世界には、男女の別の他に、アルファ・ベータ・オメガという性別がある。
アルファは優秀な人が多く、ベータは普通。オメガは発情期があるが、アルファと番えば優秀なアルファが生まれやすく、オメガであれば男性でも子どもを産める。
そして、この国は女性でも家を継げるけど、オメガは継げない。
発情期で何週間も使い物にならなくなるオメガは当主には向かない、という理屈だ。
僕が5歳の頃、相次いで入り婿でオメガの父とアルファで女公爵の母が亡くなった。
流行り病のようで、原因は不明だった。
遺された子どもはオメガの僕一人。
だから、母の妹夫婦が公爵家を継いだ。
母の妹のマドンナはベータだけど、夫がアルファだった。
公爵家で雇われていた者は、全員よそへ行った。
屋敷は叔母夫婦が都合のいいように変わっていった。
僕は、離れに追いやられた。
僕はそれまで王家と交流があり、特に同い年の第三王子のカナリア殿下とは幼馴染でとても仲がよかったけれど、もうお城へ上がることはできなかった。
僕の代わりに叔母の娘のマチルダが城に上がるようになったらしかった。
陛下は僕をカナリア殿下の妃候補にと考えてらっしゃったみたいだけど、マチルダはとても可愛い娘でオメガらしいから、きっと僕の代わりにマチルダが妃になるのかもしれない、と思う。
心がちくっと、今でも痛い。
年頃になり、僕は叔母に売られた。
まだ学園に通って、学生をしてもおかしくない若さだったけど、借金するのに公爵家の箔が欲しい、ただそれだけを求めている貧乏伯爵の下へ。
「どうぞ、ミリオン様。お茶です。」
「ありがとう。」
茶色の髪に瞳の侍従兼相棒のアリカが、スッとお茶を出してくれる。
彼は、僕と同い年で、僕があの家の離れで暮らすことになってから、ずっと一緒の使用人だ。
ありふれた色合いではあるけれど、なかなかカッコいい顔立ちをしていると思う。
学校にも行かせてもらえなかった僕だけど、彼が離れにこっそり教師を連れてきてくれたおかげで、一通り学ぶことができた。
本当に有能な侍従だ。
僕たちはともにマナーやダンス、算術や歴史、剣術に至るまでともに学んだ。
「あ。セバスチャン。そういえば、これ、今日の分ね。」
お茶を一口飲んで、傍に控えていた老齢の家令に声をかける。
「ありがとうございます!」
この伯爵家の家令のセバスチャンは、白髪のオールバックで片眼鏡のザ・執事って感じの人。
この家に嫁いでから、僕は真っ先にセバスチャンを仲間に引き入れた。
革袋に詰まった金貨は、僕の個人資産から分けている。
実は僕は、結婚前からアリカと冒険者をしているのだ。
「本当に……、ミリオン様にはなんと感謝すればいいのか。あんな阿婆擦れよりもずっとミリオン様が美しく、素晴らしいのに!なんとも口惜しい!本当にどうして、あんな絵姿を送ったのですか!本当の姿なら――――」
「言わないで!だって僕に関心を持たれたらいやなんだもの。3年間白い結婚なら婚姻無効で別れられるんだ。もうすぐ3年なんだから。でもね、心配しないで。君たちの退職金は僕が出すし、紹介状だって書くからね。この家から出たい人がいるなら、まとめておいてね。」
僕の嫁ぎ先を決めるために叔母(一応戸籍的には義母になっているけど)に絵姿を求められた時、よいご縁ではないのは分かっていたから、絵師にお金を握らせて、わざと不細工に描いてもらった。
叔母夫婦は一切離れに来なかったから、僕がどんな風に成長したかなんて知らないし、もし僕の『真実』が知られたなら、僕を利用しようとするに違いなかったから。
ふふふ。16歳で嫁いでもう19歳。もうすぐ3年。
待ち遠しいなあ。
叔母は、僕が貧乏伯爵家でお飾り嫁として虐げられて、しみったれた生活をすることをお望みだったのだろうけどね。
僕は実は、転生者なんだよね!
前世の僕は、多趣味で、アニメもラノベもゲームも大好き!
ゲーム実況や料理系のYouTuberも副業でやってた。
オメガバース物も嗜んではいたけど、実際に自分の身に降りかかるのでは違う。
たとえオメガだからって男に抱かれるのは御免だと思う。
ゲームは何でもしたよ。シュミレーションものも結構した。
前世チートを活用して、二毛作を取り入れたり、土地改良工事かましたり、道路保全したり、領民に教育を施しまくった結果、僕が何もしなくても自分たちで考えて、稼げるようになってくれた。
技術を鍛えたから、もしこの地でやっていけなくなったとしても、彼らならどの領地でも引く手あまただろうから、僕がいなくなっても安心だ!
出典がゲームの知識だったのは本当に申し訳ないけど、うまくいってよかった。
でも、僕が一番やったゲームは、やっぱりロールプレイングゲーム!!
4PC使ってプレイして、対人戦は大会で優勝したこともある。
せっかく魔法と剣のファンタジー世界なんだから。
モンスターも出るんだから。
ゲーマーならやっぱ、戦うでしょ!
――――――――――そう、僕。ミリオン=フィッシュは、『勇者』の称号を得ている冒険者なのである。
オメガだからか小柄だけど、強いんだから!
「ねえ、アリカ。今日は何か依頼ある?」
「丁度、陛下から出ていますよ。行きますか?」
「OK。アリカも一緒に行くでしょ?」
「もちろんです。」
さぁ、稼ぎ時だ。
僕はペロッと舌を出して、『勇者』として、モンスタ―討伐に向かうのだ。
81
お気に入りに追加
1,896
あなたにおすすめの小説
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
王の運命は後宮で王妃候補の護衛をしていました。
カヅキハルカ
BL
騎士候補生内での事件により、苦労して切り開いてきた初のΩの騎士という道を閉ざされてしまったエヴァン。
王妃候補が後宮に上がるのをきっかけに、後宮の護衛を任じられる事になった。
三人の王妃候補達は皆同じΩという事もあるのかエヴァンと気軽に接してくれ、護衛であるはずなのに何故か定例お茶会に毎回招待されてしまう日々が続いていた。
ある日、王が長い間運命を探しているという話が出て────。
王(α)×後宮護衛官(Ω)
ファンタジー世界のオメガバース。
最後までお付き合い下さると嬉しいです。
お気に入り・感想等頂けましたら、今後の励みになります。
よろしくお願い致します。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる