わんこな庶務は魔王な生徒会長に憧れる

竜鳴躍

文字の大きさ
上 下
39 / 40
熟年編

釣り

しおりを挟む
ヒューズ様はまだまだオリエにべったりながらも、ケイとグレイには心を許したようだ。

みんなで釣り場に向かいながら、子どもたちは三人固まって歌を歌っている。



この島の人はあまり釣りをしないようで、現地の人に教えてもらったあまり人の来ない、岩が多めの海岸で釣りをする。

こちらの波はそれほど荒くはないけれど、念のために腕に小さな浮き輪や水に浮くジャケットをつけて、潮が引いている時間帯に出かけた。

浜辺に荷物を置いて、釣り竿に餌をつけた。



「なんかぐろい。こわい。僕、荷物番してるから……っ。」

餌をみて驚いたケイは、一瞬で断念したようだ。

それを見てシュヴァリエは、ケイに好きな道に進ませて正解だったと思った。

武門の家の子だからといって、みんながみんな剣が得意だったり、血が平気なわけじゃない。

努力や慣れでどうにかなる場合もあるが、そうではない者もいるし、その場合、苦痛な人生を歩んだうえ、あまりぱっとしない人生を送ることになる。


ケイにはやっぱり剣や戦いは向いていなかったんだな。



グレイは、ケイの手前いいカッコをしたいのだろう。
指が震えているし、内心は嫌なんだろうけど、おそるおそる餌をつまんで釣り竿に刺している。



意外だったのはヒューズ様だ。

手際よく餌を掴んで竿にセットしている。




「お父様と釣りをなさったんですか?」


「はい!」

ゼロが尋ねると、元気いっぱいな返事が返って来た。


「釣りと言っても、敷地の庭にある釣り堀のようなところですけど。お父様のために魚が定期的に補充されていました。お父様は湖だっていってましたけど、今ならあれは釣り堀だったって分かります。」


前陛下は、ヒューズ様をデュラン様と間違えたり、陛下と間違えたりはしょっちゅうだったそうだ。

誰と間違えてるのか分からなかったヒューズは、今ではそれをよくわかっていた。



「たぶん、お父様は、僕が物心つく前から。心が過去にとんだままになってしまってたんだと思う。亡くなった奥さんのことが本当に大好きで、ショックで、信じたくなくて。僕のお母様、もしかしてどこか奥さんに似てたとかで間違えたんじゃないかって…。」


想い出の中で生きていたお父様。

それで、僕のお母様は不幸になってしまったけど、お父様を憎めない。


「誰も、お父様のご病気は…?」

ヒューズは首をふった。


「たぶん、誰も気づいていなかったんだと思うよ。お父様が生きていらっしゃったときは、離れに侍女もたくさんいたけど、最低限の仕事をしたら関わろうとはしなかったし、僕を小さい子みたいにいつまでもそばに置いている以外は、どこもおかしいところはなかったから。……ずっと見ていないと気づかないじゃない、そういうのは。」



随分立派に話をされるようになったことに関心する一方で、なぜ、前陛下が侍女に手をだしてヒューズを産ませたのか、そしてなぜ、その侍女の処遇をケアできず、ヒューズを幼子のように扱ったのか。
在りし日の前陛下を少なからず知っている者としては、甚だ疑問だったものが、すっと胸におちた。


不幸に不幸が重なり、誰を責めたらいいのか分からない。



「ゼロさま、たくさん釣りましょうね!僕、得意なんですよ。」

「ふふ、私も得意なんですよ。競争ですね?負けませんよ?」



ハタ科の魚がたくさん採れて、シュヴァリエが採って来たシャコガイとあわせると、結構な大量だった。



オリエにおいしく料理してもらうか。


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...