わんこな庶務は魔王な生徒会長に憧れる

竜鳴躍

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シュヴァリエ先生

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中間テストが終わり、私はゼロ先輩の家から寮に戻った。

ゼロ先輩は『ずっとウチにいてくれても構わないんだよ?』って言ってくださったけれど、さすがにそれは厚かましすぎると思う。

オリエも迎えに来てくれたし、ありがとうございます!ってにっこり笑ってさよならした。



オリエが手配した迎えの馬車に乗って、学校へ向かう。
早朝の風が心地よい。

本格的な夏になり、新緑の匂いが濃くなっているのを感じる。

生命力に満ち溢れた季節だ。

全ての教科書と着替えを詰めた荷物は重たいけど、それほどじゃない。

ただ、かさばって邪魔になるから、学校が終わるまでは、ガナッシュのコネで学園長室に置かせてもらえることになっている。



「そういえば、お前が剣術指南の教師になったのは知ってるけど。一年生で教師なんて、お前だって授業を受けないといけないのにどうするんだ?今日からだろう。実際に教えるのは。」


「それが、先輩がいいアイディアを思いついて。先生方に交渉してくれたんだよ。」







「――――――――というのが、これか。」

オリエは心の中で悪態をついた。

1年生から3年生までのすべての男子生徒が一堂に集められている。


なるほどな。授業を一つまとめにしちゃえば、シュヴァリエの負担も少ない。



それに…。



オリエはちらっと赤い髪の男を見た。


ゼロ先輩…。そうですね、これならシュヴァリエの状況を監視できますもんね。



「はじめまして!はじめましてではない方はおはようございます!不肖ながら、本日から剣術の授業を受け持つことになりました。シュヴァリエ=リッシュと申します。よろしくお願いいたします。」

ニッコリほほ笑むシュヴァリエは、まるで天使のように笑顔が輝いている。


この中の何人が、この笑顔を穢したいと思ってることやら。

せんせえ~☆剣の振り方を教えて欲しいのぉ~☆みたいなことを言いながら、ボディタッチの隙を窺っていると踏んでいる。


「2年生、3年生の方は基礎は出来ていると思いますし。1年生をフォローしながら、皆さんで私を倒してみてください。観察したいので、5人1チーム。今までの成績を考えて、組んでみましたのでどうぞ。」



おお、ちゃんとしているな。

ゼロ先輩が意外な一面をみたかのような表情をしている。


……まあ、それもそうだ。こいつは戦い関係のことだったら、指南役も慣れている。

辺境を預かる辺境伯の一人息子で、将来の跡取りで。
物心つく前から剣を鍛えられ。

10歳くらいでは当主や辺境領の騎士たちと一緒に魔物狩りに出かけているし、12歳くらいからは確か領地に配属された新人騎士の教育もこいつがやっていたはずだ。


慣れてるよな~。

優しく上手に教えるし、褒め上手だから、気が付くとこいつのファンになってるんだよなー。


その相手の恋心を自覚のないうちにきれいさっぱりへし折るのは俺の役目なんだが。



何人の騎士を女の子とセッティングさせられたんだと思ってるんだよ。

自分の婚約者もまだなのに!

ちきしょう!





「ギーグ様は、振りが大振りですね。もう少し脇を締めれば、無駄なく早く剣が振れて、対象にあてやすくなるでしょう。マルク様は力みすぎです。大丈夫、緊張しなくても十分できています。もう少し自分に自信をもって?」

「はい!」


5対1でも圧倒的過ぎて、これはよかったのかもしれない。
集団でも敵わないということが刷り込まれば、余計なことをしようとする輩も減って、心の中で想うくらいでとどめてくれるかも。


全員との模擬試合が終わり、へとへとになって倒れこむ輩が多い。
俺は、ガナッシュの背中をさすってやりながら、周囲の様子を見渡した。

「……うえ、僕、もうだめ……っ。」


小柄な上に細身で華奢なガナッシュは、剣術と言わず、運動全般があまり得意じゃないようだ。



「……男のくせに、いざという時戦えないって、恥ずかしいな。」


どこかのだれかの声が聞こえて、ガナッシュはうるうる目に一杯涙をためている。




「今、発言したのは誰か分からないが、最低の発言だ。ガナッシュは確かに『剣』は向かないかもしれない。だが、彼には彼のやり方で戦うことは充分可能だ。武器は何も剣だけじゃない。動物だって、小さい生き物も、何かしら武器を持っている。これから、自分の武器を見つければいいんだ。」

シュヴァリエは明らかに怒っている。


朗らかなシュヴァリエの怒りに、しーんと静まり返った。



静寂を破ったのは赤毛の魔王様だ。


パチパチパチ。大きく拍手して、立ち上がる。

「さすがうちの庶務だ!そのとおり!何も武器は剣だけじゃない。」




ゼロ先輩に褒められ、シュヴァリエははにかんだ。






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