15 / 40
シュヴァリエ先生
しおりを挟む
中間テストが終わり、私はゼロ先輩の家から寮に戻った。
ゼロ先輩は『ずっとウチにいてくれても構わないんだよ?』って言ってくださったけれど、さすがにそれは厚かましすぎると思う。
オリエも迎えに来てくれたし、ありがとうございます!ってにっこり笑ってさよならした。
オリエが手配した迎えの馬車に乗って、学校へ向かう。
早朝の風が心地よい。
本格的な夏になり、新緑の匂いが濃くなっているのを感じる。
生命力に満ち溢れた季節だ。
全ての教科書と着替えを詰めた荷物は重たいけど、それほどじゃない。
ただ、かさばって邪魔になるから、学校が終わるまでは、ガナッシュのコネで学園長室に置かせてもらえることになっている。
「そういえば、お前が剣術指南の教師になったのは知ってるけど。一年生で教師なんて、お前だって授業を受けないといけないのにどうするんだ?今日からだろう。実際に教えるのは。」
「それが、先輩がいいアイディアを思いついて。先生方に交渉してくれたんだよ。」
「――――――――というのが、これか。」
オリエは心の中で悪態をついた。
1年生から3年生までのすべての男子生徒が一堂に集められている。
なるほどな。授業を一つまとめにしちゃえば、シュヴァリエの負担も少ない。
それに…。
オリエはちらっと赤い髪の男を見た。
ゼロ先輩…。そうですね、これならシュヴァリエの状況を監視できますもんね。
「はじめまして!はじめましてではない方はおはようございます!不肖ながら、本日から剣術の授業を受け持つことになりました。シュヴァリエ=リッシュと申します。よろしくお願いいたします。」
ニッコリほほ笑むシュヴァリエは、まるで天使のように笑顔が輝いている。
この中の何人が、この笑顔を穢したいと思ってることやら。
せんせえ~☆剣の振り方を教えて欲しいのぉ~☆みたいなことを言いながら、ボディタッチの隙を窺っていると踏んでいる。
「2年生、3年生の方は基礎は出来ていると思いますし。1年生をフォローしながら、皆さんで私を倒してみてください。観察したいので、5人1チーム。今までの成績を考えて、組んでみましたのでどうぞ。」
おお、ちゃんとしているな。
ゼロ先輩が意外な一面をみたかのような表情をしている。
……まあ、それもそうだ。こいつは戦い関係のことだったら、指南役も慣れている。
辺境を預かる辺境伯の一人息子で、将来の跡取りで。
物心つく前から剣を鍛えられ。
10歳くらいでは当主や辺境領の騎士たちと一緒に魔物狩りに出かけているし、12歳くらいからは確か領地に配属された新人騎士の教育もこいつがやっていたはずだ。
慣れてるよな~。
優しく上手に教えるし、褒め上手だから、気が付くとこいつのファンになってるんだよなー。
その相手の恋心を自覚のないうちにきれいさっぱりへし折るのは俺の役目なんだが。
何人の騎士を女の子とセッティングさせられたんだと思ってるんだよ。
自分の婚約者もまだなのに!
ちきしょう!
「ギーグ様は、振りが大振りですね。もう少し脇を締めれば、無駄なく早く剣が振れて、対象にあてやすくなるでしょう。マルク様は力みすぎです。大丈夫、緊張しなくても十分できています。もう少し自分に自信をもって?」
「はい!」
5対1でも圧倒的過ぎて、これはよかったのかもしれない。
集団でも敵わないということが刷り込まれば、余計なことをしようとする輩も減って、心の中で想うくらいでとどめてくれるかも。
全員との模擬試合が終わり、へとへとになって倒れこむ輩が多い。
俺は、ガナッシュの背中をさすってやりながら、周囲の様子を見渡した。
「……うえ、僕、もうだめ……っ。」
小柄な上に細身で華奢なガナッシュは、剣術と言わず、運動全般があまり得意じゃないようだ。
「……男のくせに、いざという時戦えないって、恥ずかしいな。」
どこかのだれかの声が聞こえて、ガナッシュはうるうる目に一杯涙をためている。
「今、発言したのは誰か分からないが、最低の発言だ。ガナッシュは確かに『剣』は向かないかもしれない。だが、彼には彼のやり方で戦うことは充分可能だ。武器は何も剣だけじゃない。動物だって、小さい生き物も、何かしら武器を持っている。これから、自分の武器を見つければいいんだ。」
シュヴァリエは明らかに怒っている。
朗らかなシュヴァリエの怒りに、しーんと静まり返った。
静寂を破ったのは赤毛の魔王様だ。
パチパチパチ。大きく拍手して、立ち上がる。
「さすがうちの庶務だ!そのとおり!何も武器は剣だけじゃない。」
ゼロ先輩に褒められ、シュヴァリエははにかんだ。
ゼロ先輩は『ずっとウチにいてくれても構わないんだよ?』って言ってくださったけれど、さすがにそれは厚かましすぎると思う。
オリエも迎えに来てくれたし、ありがとうございます!ってにっこり笑ってさよならした。
オリエが手配した迎えの馬車に乗って、学校へ向かう。
早朝の風が心地よい。
本格的な夏になり、新緑の匂いが濃くなっているのを感じる。
生命力に満ち溢れた季節だ。
全ての教科書と着替えを詰めた荷物は重たいけど、それほどじゃない。
ただ、かさばって邪魔になるから、学校が終わるまでは、ガナッシュのコネで学園長室に置かせてもらえることになっている。
「そういえば、お前が剣術指南の教師になったのは知ってるけど。一年生で教師なんて、お前だって授業を受けないといけないのにどうするんだ?今日からだろう。実際に教えるのは。」
「それが、先輩がいいアイディアを思いついて。先生方に交渉してくれたんだよ。」
「――――――――というのが、これか。」
オリエは心の中で悪態をついた。
1年生から3年生までのすべての男子生徒が一堂に集められている。
なるほどな。授業を一つまとめにしちゃえば、シュヴァリエの負担も少ない。
それに…。
オリエはちらっと赤い髪の男を見た。
ゼロ先輩…。そうですね、これならシュヴァリエの状況を監視できますもんね。
「はじめまして!はじめましてではない方はおはようございます!不肖ながら、本日から剣術の授業を受け持つことになりました。シュヴァリエ=リッシュと申します。よろしくお願いいたします。」
ニッコリほほ笑むシュヴァリエは、まるで天使のように笑顔が輝いている。
この中の何人が、この笑顔を穢したいと思ってることやら。
せんせえ~☆剣の振り方を教えて欲しいのぉ~☆みたいなことを言いながら、ボディタッチの隙を窺っていると踏んでいる。
「2年生、3年生の方は基礎は出来ていると思いますし。1年生をフォローしながら、皆さんで私を倒してみてください。観察したいので、5人1チーム。今までの成績を考えて、組んでみましたのでどうぞ。」
おお、ちゃんとしているな。
ゼロ先輩が意外な一面をみたかのような表情をしている。
……まあ、それもそうだ。こいつは戦い関係のことだったら、指南役も慣れている。
辺境を預かる辺境伯の一人息子で、将来の跡取りで。
物心つく前から剣を鍛えられ。
10歳くらいでは当主や辺境領の騎士たちと一緒に魔物狩りに出かけているし、12歳くらいからは確か領地に配属された新人騎士の教育もこいつがやっていたはずだ。
慣れてるよな~。
優しく上手に教えるし、褒め上手だから、気が付くとこいつのファンになってるんだよなー。
その相手の恋心を自覚のないうちにきれいさっぱりへし折るのは俺の役目なんだが。
何人の騎士を女の子とセッティングさせられたんだと思ってるんだよ。
自分の婚約者もまだなのに!
ちきしょう!
「ギーグ様は、振りが大振りですね。もう少し脇を締めれば、無駄なく早く剣が振れて、対象にあてやすくなるでしょう。マルク様は力みすぎです。大丈夫、緊張しなくても十分できています。もう少し自分に自信をもって?」
「はい!」
5対1でも圧倒的過ぎて、これはよかったのかもしれない。
集団でも敵わないということが刷り込まれば、余計なことをしようとする輩も減って、心の中で想うくらいでとどめてくれるかも。
全員との模擬試合が終わり、へとへとになって倒れこむ輩が多い。
俺は、ガナッシュの背中をさすってやりながら、周囲の様子を見渡した。
「……うえ、僕、もうだめ……っ。」
小柄な上に細身で華奢なガナッシュは、剣術と言わず、運動全般があまり得意じゃないようだ。
「……男のくせに、いざという時戦えないって、恥ずかしいな。」
どこかのだれかの声が聞こえて、ガナッシュはうるうる目に一杯涙をためている。
「今、発言したのは誰か分からないが、最低の発言だ。ガナッシュは確かに『剣』は向かないかもしれない。だが、彼には彼のやり方で戦うことは充分可能だ。武器は何も剣だけじゃない。動物だって、小さい生き物も、何かしら武器を持っている。これから、自分の武器を見つければいいんだ。」
シュヴァリエは明らかに怒っている。
朗らかなシュヴァリエの怒りに、しーんと静まり返った。
静寂を破ったのは赤毛の魔王様だ。
パチパチパチ。大きく拍手して、立ち上がる。
「さすがうちの庶務だ!そのとおり!何も武器は剣だけじゃない。」
ゼロ先輩に褒められ、シュヴァリエははにかんだ。
10
お気に入りに追加
318
あなたにおすすめの小説
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる