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運命の人
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「いよいよ俺たちも王立ロザリア学園の生徒かぁ~。」
春うらら。
どうして春はウキウキするんだろう。
ピンクの花びらが可憐に咲き乱れるから?
日差しが優しくて包み込んでくれるようだから?
真新しい制服が、新しい出会いを期待させるからだろうか。
自分より濃い焦げ茶色の髪と目の男は、凛々しい顔立ちで、オリエ=ペンタゴン。
ペンタゴン伯爵の一人息子で、お茶会で何気なく知り合って、そのままなあなあと一緒にいる。
独りぼっちも寂しいので、なんとなく一緒にいるんだけど、それって彼には悪いかなぁと思いつつ、それでも一緒にいる私は偽善者だなと思っている。
辺境伯の一人息子として生まれて、剣の腕は磨いてきたけど、勉強はからっきしで、すれすれで学園に入学できたのは、奇跡でしかない。
自分にはあまり、欲というものがない。
美味しいものは美味しいと思うし、きれいなものは綺麗だと思うけど、それを何としても手に入れたいと思うかというとどうでもいい。
剣は半ば強制的だったからあれだけど、勉強が身につかないのも、そういうとこなんだろうか。
「それにしても馬子にも衣装、だよなー。シュヴァリエはやっぱカッコいいわ。背も高いし、鍛えてるからスタイルいいもん。」
「そんなことないだろ。色だって普通だし、地味だし。」
「いやあ、なかなか整った顔をしてらっしゃると思いますけれども。シュヴァリエ=リッシュ辺境伯令息殿?在学中にどっちが早く婚約者見つけられるか、競争な!」
「おい!ちょっと待て!」
馬車通学の学生も多いが、私とオリエは辺境の領地の子なので、学園の寮から通学だ。
学園の門に向かって走り出したオリエを追って、私は走った。
オリエより私の方が足が速いから、すぐに追いつく。
門のほうで、オリエは立ち止まっていた。
「オリエ?どうしたんだ?」
オリエが指さす方で、高位貴族同士でなにかもめているようだ。
「お前みたいな陰険女とは婚約破棄だ!!下級貴族だからって、可愛いルリちゃんを虐めただろう!」
「…なっ!わたくし、そんなことしませんわ!」
男にくっついてる女の子はいかにも庇護欲を掻き立てられるような小柄な子で、一方的に女性が男性に虐げられている。
なのに、なんでみんな虐げられている方の女の子を悪女だというのか。
双方に話を聞いてみないと分からないじゃないか。
だいたい、こんなところで婚約破棄だなんて…。
「見てられない!なんでみんな何もしないんだ!」
私は、その場へ飛び出した。
「やめたまえ!」
オリエが集団の中で、あちゃーという顔をしている。
「いかなる理由があろうと、このような場で、一方的に女性を責め立てるなど!婚約破棄だって、家と家のことなのだから、ここでする話じゃないだろう!」
「なんだ、お前。……はああ、お前、こいつと浮気してたんだな!」
「初対面よ!」
「私はシュヴァリエ=リッシュ!リッシュ辺境伯の息子だ!今日からこの学園に入学する、よって面識はない!」
「面識がないならひっこんでろ!」
「きゃあああああああああ!」
私を無視して、女性を蹴り上げようとする。
思わず、身を挺して女性を庇った。
「シュヴァリエ様!? そんなっ私のためにっ…!」
「……何の騒ぎだ。」
耳もとで、威厳のあるバリトンボイス。
見上げると、情熱的に真っ赤な髪の、眼鏡の男子学生。
(会長…)
(サンダルフォン会長だ!)
「……この男が、その傍らの女性を彼女が苛めたといい、彼女はそのような覚えはないと。なのに一方的に婚約破棄するとこの場でいい、あまつさえ手をあげようとしたのです。」
まぶしい彼に目を奪われながら、私は私の知る限りの顛末を伝えた。
「……ほう。」
眼鏡の奥の瞳がきらりと光る。
「この男を連行、彼女を保護。関係者を確保。どちらの言い分が正当か、生徒会室で聞こうじゃないか。生徒会権限で、学園内の監視カメラの映像もあわせてみることとしようか。いじめているのが事実であれば、何かしらうつっているはずだからな。」
ひぃ…と、婚約破棄男の傍らの女が青い顔で声を漏らした。
サンダルフォン会長は、私のところへやってきて、手を差し出した。
「君は勇敢だな。だが、もう少し立ち回りを覚えるといい。」
「………かっこいい。」
「ん?」
「いえ、なんでもないです!」
のちの夫夫、シュヴァリエ=リッシュがゼロ=サンダルフォンに堕ちた瞬間である。
春うらら。
どうして春はウキウキするんだろう。
ピンクの花びらが可憐に咲き乱れるから?
日差しが優しくて包み込んでくれるようだから?
真新しい制服が、新しい出会いを期待させるからだろうか。
自分より濃い焦げ茶色の髪と目の男は、凛々しい顔立ちで、オリエ=ペンタゴン。
ペンタゴン伯爵の一人息子で、お茶会で何気なく知り合って、そのままなあなあと一緒にいる。
独りぼっちも寂しいので、なんとなく一緒にいるんだけど、それって彼には悪いかなぁと思いつつ、それでも一緒にいる私は偽善者だなと思っている。
辺境伯の一人息子として生まれて、剣の腕は磨いてきたけど、勉強はからっきしで、すれすれで学園に入学できたのは、奇跡でしかない。
自分にはあまり、欲というものがない。
美味しいものは美味しいと思うし、きれいなものは綺麗だと思うけど、それを何としても手に入れたいと思うかというとどうでもいい。
剣は半ば強制的だったからあれだけど、勉強が身につかないのも、そういうとこなんだろうか。
「それにしても馬子にも衣装、だよなー。シュヴァリエはやっぱカッコいいわ。背も高いし、鍛えてるからスタイルいいもん。」
「そんなことないだろ。色だって普通だし、地味だし。」
「いやあ、なかなか整った顔をしてらっしゃると思いますけれども。シュヴァリエ=リッシュ辺境伯令息殿?在学中にどっちが早く婚約者見つけられるか、競争な!」
「おい!ちょっと待て!」
馬車通学の学生も多いが、私とオリエは辺境の領地の子なので、学園の寮から通学だ。
学園の門に向かって走り出したオリエを追って、私は走った。
オリエより私の方が足が速いから、すぐに追いつく。
門のほうで、オリエは立ち止まっていた。
「オリエ?どうしたんだ?」
オリエが指さす方で、高位貴族同士でなにかもめているようだ。
「お前みたいな陰険女とは婚約破棄だ!!下級貴族だからって、可愛いルリちゃんを虐めただろう!」
「…なっ!わたくし、そんなことしませんわ!」
男にくっついてる女の子はいかにも庇護欲を掻き立てられるような小柄な子で、一方的に女性が男性に虐げられている。
なのに、なんでみんな虐げられている方の女の子を悪女だというのか。
双方に話を聞いてみないと分からないじゃないか。
だいたい、こんなところで婚約破棄だなんて…。
「見てられない!なんでみんな何もしないんだ!」
私は、その場へ飛び出した。
「やめたまえ!」
オリエが集団の中で、あちゃーという顔をしている。
「いかなる理由があろうと、このような場で、一方的に女性を責め立てるなど!婚約破棄だって、家と家のことなのだから、ここでする話じゃないだろう!」
「なんだ、お前。……はああ、お前、こいつと浮気してたんだな!」
「初対面よ!」
「私はシュヴァリエ=リッシュ!リッシュ辺境伯の息子だ!今日からこの学園に入学する、よって面識はない!」
「面識がないならひっこんでろ!」
「きゃあああああああああ!」
私を無視して、女性を蹴り上げようとする。
思わず、身を挺して女性を庇った。
「シュヴァリエ様!? そんなっ私のためにっ…!」
「……何の騒ぎだ。」
耳もとで、威厳のあるバリトンボイス。
見上げると、情熱的に真っ赤な髪の、眼鏡の男子学生。
(会長…)
(サンダルフォン会長だ!)
「……この男が、その傍らの女性を彼女が苛めたといい、彼女はそのような覚えはないと。なのに一方的に婚約破棄するとこの場でいい、あまつさえ手をあげようとしたのです。」
まぶしい彼に目を奪われながら、私は私の知る限りの顛末を伝えた。
「……ほう。」
眼鏡の奥の瞳がきらりと光る。
「この男を連行、彼女を保護。関係者を確保。どちらの言い分が正当か、生徒会室で聞こうじゃないか。生徒会権限で、学園内の監視カメラの映像もあわせてみることとしようか。いじめているのが事実であれば、何かしらうつっているはずだからな。」
ひぃ…と、婚約破棄男の傍らの女が青い顔で声を漏らした。
サンダルフォン会長は、私のところへやってきて、手を差し出した。
「君は勇敢だな。だが、もう少し立ち回りを覚えるといい。」
「………かっこいい。」
「ん?」
「いえ、なんでもないです!」
のちの夫夫、シュヴァリエ=リッシュがゼロ=サンダルフォンに堕ちた瞬間である。
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