上 下
2 / 40

運命の人

しおりを挟む
「いよいよ俺たちも王立ロザリア学園の生徒かぁ~。」


春うらら。

どうして春はウキウキするんだろう。

ピンクの花びらが可憐に咲き乱れるから?

日差しが優しくて包み込んでくれるようだから?


真新しい制服が、新しい出会いを期待させるからだろうか。



自分より濃い焦げ茶色の髪と目の男は、凛々しい顔立ちで、オリエ=ペンタゴン。

ペンタゴン伯爵の一人息子で、お茶会で何気なく知り合って、そのままなあなあと一緒にいる。

独りぼっちも寂しいので、なんとなく一緒にいるんだけど、それって彼には悪いかなぁと思いつつ、それでも一緒にいる私は偽善者だなと思っている。


辺境伯の一人息子として生まれて、剣の腕は磨いてきたけど、勉強はからっきしで、すれすれで学園に入学できたのは、奇跡でしかない。


自分にはあまり、欲というものがない。

美味しいものは美味しいと思うし、きれいなものは綺麗だと思うけど、それを何としても手に入れたいと思うかというとどうでもいい。

剣は半ば強制的だったからあれだけど、勉強が身につかないのも、そういうとこなんだろうか。



「それにしても馬子にも衣装、だよなー。シュヴァリエはやっぱカッコいいわ。背も高いし、鍛えてるからスタイルいいもん。」


「そんなことないだろ。色だって普通だし、地味だし。」

「いやあ、なかなか整った顔をしてらっしゃると思いますけれども。シュヴァリエ=リッシュ辺境伯令息殿?在学中にどっちが早く婚約者見つけられるか、競争な!」


「おい!ちょっと待て!」

馬車通学の学生も多いが、私とオリエは辺境の領地の子なので、学園の寮から通学だ。

学園の門に向かって走り出したオリエを追って、私は走った。


オリエより私の方が足が速いから、すぐに追いつく。




門のほうで、オリエは立ち止まっていた。


「オリエ?どうしたんだ?」

オリエが指さす方で、高位貴族同士でなにかもめているようだ。





「お前みたいな陰険女とは婚約破棄だ!!下級貴族だからって、可愛いルリちゃんを虐めただろう!」

「…なっ!わたくし、そんなことしませんわ!」


男にくっついてる女の子はいかにも庇護欲を掻き立てられるような小柄な子で、一方的に女性が男性に虐げられている。

なのに、なんでみんな虐げられている方の女の子を悪女だというのか。

双方に話を聞いてみないと分からないじゃないか。

だいたい、こんなところで婚約破棄だなんて…。




「見てられない!なんでみんな何もしないんだ!」


私は、その場へ飛び出した。




「やめたまえ!」

オリエが集団の中で、あちゃーという顔をしている。



「いかなる理由があろうと、このような場で、一方的に女性を責め立てるなど!婚約破棄だって、家と家のことなのだから、ここでする話じゃないだろう!」


「なんだ、お前。……はああ、お前、こいつと浮気してたんだな!」

「初対面よ!」

「私はシュヴァリエ=リッシュ!リッシュ辺境伯の息子だ!今日からこの学園に入学する、よって面識はない!」

「面識がないならひっこんでろ!」


「きゃあああああああああ!」


私を無視して、女性を蹴り上げようとする。

思わず、身を挺して女性を庇った。


「シュヴァリエ様!? そんなっ私のためにっ…!」





「……何の騒ぎだ。」




耳もとで、威厳のあるバリトンボイス。




見上げると、情熱的に真っ赤な髪の、眼鏡の男子学生。




(会長…)

(サンダルフォン会長だ!)




「……この男が、その傍らの女性を彼女が苛めたといい、彼女はそのような覚えはないと。なのに一方的に婚約破棄するとこの場でいい、あまつさえ手をあげようとしたのです。」


まぶしい彼に目を奪われながら、私は私の知る限りの顛末を伝えた。



「……ほう。」


眼鏡の奥の瞳がきらりと光る。




「この男を連行、彼女を保護。関係者を確保。どちらの言い分が正当か、生徒会室で聞こうじゃないか。生徒会権限で、学園内の監視カメラの映像もあわせてみることとしようか。いじめているのが事実であれば、何かしらうつっているはずだからな。」


ひぃ…と、婚約破棄男の傍らの女が青い顔で声を漏らした。




サンダルフォン会長は、私のところへやってきて、手を差し出した。

「君は勇敢だな。だが、もう少し立ち回りを覚えるといい。」


「………かっこいい。」



「ん?」


「いえ、なんでもないです!」





のちの夫夫、シュヴァリエ=リッシュがゼロ=サンダルフォンに堕ちた瞬間である。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家の中で空気扱いされて、メンタルボロボロな男の子

こじらせた処女
BL
学歴主義の家庭で育った周音(あまね)は、両親の期待に応えられず、受験に失敗してしまう。試験そのものがトラウマになってしまった周音の成績は右肩下がりに落ちていき、いつしか両親は彼を居ないものとして扱う様になる。  そんな彼とは裏腹に、弟の亜季は優秀で、両親はますます周音への態度が冷たくなっていき、彼は家に居るのが辛くなり、毎週末、いとこの慶の家にご飯を食べに行く様になる。  慶の家に行くことがストレスの捌け口になっていた周音であるが、どんどん精神的に参ってしまい、夜尿をしてしまうほどに追い詰められてしまう。ストレス発散のために慶の財布からお金を盗むようになるが、それもバレてしまい…?

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

処理中です...