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新章 溺愛編
毒
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王室のお茶会に、安定期に入ったお母さまが出るというので、ザオラルを従者役として連れて行ってもらうことになった。
こういう時にお父様が同席できたらいいのだけど、女同士のお茶会に男は参加できない。
ハッキリ言って不安でしかない。
お母さまを助けるのが、なぜお父様でないのか。
たぶん、お父様やお母さまの立場では、僕を将来の王に欲しいと交渉されたときに、断ることができないからだ。
親戚とはいえ、家臣にあたる立場では、王家からの申し出は断れない。
お母さまにしても、王太子の側近という立場では断れないだろう。
基本的にあの二人は真面目だし、貴族らしく上下関係が染みついているのだ。
その点僕はまだ成人していないし、欲しいと言われている当の本人なのだから、王家相手でもハッキリと物が言えた。
だから、アレで、もう事件は起きない。
そう思いたい。
けれど、胸騒ぎがしてならない。
毒を盛るのは誰だ?
公爵家にはお母さまに毒を盛るような人間もいない。
昔、僕の誘拐事件があってから、出入りの業者にも気を付けていて、なじみの信頼できる者しかいないから除外する。
盛られるとしたら、パーティやお茶会だ。
特に、男性が付き添えず、急な事態への対応が遅れがちになるお茶会が怪しい。
お母さまは女性ではないし、ほかに媚を売らなければならない立場でもないから、さほどお茶会には出席しない。
アレクサンドラ様のところか、ケイト様のところか、王宮か。
「お父様、僕お母さまのところへ今から行ってまいります。」
「クリス、何か忘れものでもしたか?」
「ええ、そうですね。おなかが冷えるといけないので、ショールを届けようかと。」
「わかった、気を付けて行って来いよ。なるべく目立たないようにな。」
「いらっしゃいませ、公爵夫人。」
「お招きありがとうございます、王妃殿下、王太子妃殿下、ミレニア様。」
「王太子妃殿下なんておやめください。以前のようにアンジュ様と。」
「公式の場ではちゃんとさせてください。」
大きなおなかは動きづらい。ぺったんこの靴を履いて、ゆっくり歩く。
ザオラルが上手にエスコートしてくれた。
「まあ、かわいらしい執事さんだこと。」
ミレニアさまがザオラルを見て目を細める。
「以前、アリス君と一緒に子どものお茶会に参加した子ですね。」
マリー妃は覚えていたようだ。
「きれいな子でしょう。この子もアリスの婚約者なんです。俺がすぐお腹のことを忘れて暴れるから、アリスが心配して貸してくれたんですよ。」
「はじめまして、ザオラルと言います。今日はマナーを覚えに来ました。よろしくお願いいたします。」
「妃殿下様方、お茶の準備がご用意できました。」
現れたメイドに、俺ははっとなった。
君はアイリス=クリムゾンじゃないか。
俺にラブレターをくれた子爵令嬢の。
「久しぶりですね、アイリス。」
アイリスは学生時代のように、愛嬌のある笑顔を見せず、若干声を掛けられたことに驚きはしたものの、淡々と答えた。
「ご無沙汰しております。私は下級貴族の娘ですので、卒業後は侍女として花嫁修業をしております。あのときは、『公爵夫人』とは知らず、たいへん失礼いたしました。今は、陛下やマリー妃という素晴らしい方々に仕えられて、たいへん光栄に思いながら、日々精進しております。」
仕事中に声をかけて申し訳なかった。
一言、詫びをいれる。
彼女は本当に王家に傾倒しているらしい。
目線が違う。
俺に告白してきたときも、これだ!と思ったら周りが見えなくなるタイプに見えたが、やっぱりそうなのかもしれない。
「公爵夫人は、紅茶はお砂糖を入れますか?妃殿下や王太子妃殿下、ミレニア様は、最近、お砂糖は入れられないのです。」
「恥ずかしながら、ドレスが合わなくなってきちゃったのよ。」
と笑う三人。
俺はあってもなくてもどっちでもいいんだけど。
せっかく俺が使うかも、って用意してくれたんだったら、使おうかな。
「じゃあ、俺はもらおうかな。」
お砂糖を紅茶のカップに入れる。
いい、においがする。
こういう時にお父様が同席できたらいいのだけど、女同士のお茶会に男は参加できない。
ハッキリ言って不安でしかない。
お母さまを助けるのが、なぜお父様でないのか。
たぶん、お父様やお母さまの立場では、僕を将来の王に欲しいと交渉されたときに、断ることができないからだ。
親戚とはいえ、家臣にあたる立場では、王家からの申し出は断れない。
お母さまにしても、王太子の側近という立場では断れないだろう。
基本的にあの二人は真面目だし、貴族らしく上下関係が染みついているのだ。
その点僕はまだ成人していないし、欲しいと言われている当の本人なのだから、王家相手でもハッキリと物が言えた。
だから、アレで、もう事件は起きない。
そう思いたい。
けれど、胸騒ぎがしてならない。
毒を盛るのは誰だ?
公爵家にはお母さまに毒を盛るような人間もいない。
昔、僕の誘拐事件があってから、出入りの業者にも気を付けていて、なじみの信頼できる者しかいないから除外する。
盛られるとしたら、パーティやお茶会だ。
特に、男性が付き添えず、急な事態への対応が遅れがちになるお茶会が怪しい。
お母さまは女性ではないし、ほかに媚を売らなければならない立場でもないから、さほどお茶会には出席しない。
アレクサンドラ様のところか、ケイト様のところか、王宮か。
「お父様、僕お母さまのところへ今から行ってまいります。」
「クリス、何か忘れものでもしたか?」
「ええ、そうですね。おなかが冷えるといけないので、ショールを届けようかと。」
「わかった、気を付けて行って来いよ。なるべく目立たないようにな。」
「いらっしゃいませ、公爵夫人。」
「お招きありがとうございます、王妃殿下、王太子妃殿下、ミレニア様。」
「王太子妃殿下なんておやめください。以前のようにアンジュ様と。」
「公式の場ではちゃんとさせてください。」
大きなおなかは動きづらい。ぺったんこの靴を履いて、ゆっくり歩く。
ザオラルが上手にエスコートしてくれた。
「まあ、かわいらしい執事さんだこと。」
ミレニアさまがザオラルを見て目を細める。
「以前、アリス君と一緒に子どものお茶会に参加した子ですね。」
マリー妃は覚えていたようだ。
「きれいな子でしょう。この子もアリスの婚約者なんです。俺がすぐお腹のことを忘れて暴れるから、アリスが心配して貸してくれたんですよ。」
「はじめまして、ザオラルと言います。今日はマナーを覚えに来ました。よろしくお願いいたします。」
「妃殿下様方、お茶の準備がご用意できました。」
現れたメイドに、俺ははっとなった。
君はアイリス=クリムゾンじゃないか。
俺にラブレターをくれた子爵令嬢の。
「久しぶりですね、アイリス。」
アイリスは学生時代のように、愛嬌のある笑顔を見せず、若干声を掛けられたことに驚きはしたものの、淡々と答えた。
「ご無沙汰しております。私は下級貴族の娘ですので、卒業後は侍女として花嫁修業をしております。あのときは、『公爵夫人』とは知らず、たいへん失礼いたしました。今は、陛下やマリー妃という素晴らしい方々に仕えられて、たいへん光栄に思いながら、日々精進しております。」
仕事中に声をかけて申し訳なかった。
一言、詫びをいれる。
彼女は本当に王家に傾倒しているらしい。
目線が違う。
俺に告白してきたときも、これだ!と思ったら周りが見えなくなるタイプに見えたが、やっぱりそうなのかもしれない。
「公爵夫人は、紅茶はお砂糖を入れますか?妃殿下や王太子妃殿下、ミレニア様は、最近、お砂糖は入れられないのです。」
「恥ずかしながら、ドレスが合わなくなってきちゃったのよ。」
と笑う三人。
俺はあってもなくてもどっちでもいいんだけど。
せっかく俺が使うかも、って用意してくれたんだったら、使おうかな。
「じゃあ、俺はもらおうかな。」
お砂糖を紅茶のカップに入れる。
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