上 下
113 / 415
番外編3 アッシュフォード家

しおりを挟む
俺はキリス=アッシュフォード。

アッシュフォード男爵家の長男だ。

4つ下の弟は、本当に可愛くて。
幼い頃、何をするにも俺の真似をして、後からちょこちょこついてくる様子が、たまらなかった。

弟のすぐ下の妹の方は全く可愛く思えなかったのだが。

なんでそんなに、早くから勉強も剣も頑張ろうとするのか聞くと、

『ぼくはおとうとだから、しょうらいいえをでてもだいじょうぶにしたいの!
 おにいさまのやくにたつりっぱなひとになりたいから。』

と言われて、健気さに愛おしく感じた。

だが、時が経つに連れ、弟の優秀さが目立ち始めると、親戚は影で弟を跡取りにすべきではないかと両親に進言するし、己の凡人さに俺は卑屈になり、弟と距離を置き始めた。

弟にきた高位貴族からの婿養子の話を両親が全部断っているのを知って、両親は本当にあいつに継がすつもりだと、嫉妬の塊のようになった。

全く醜い。

「手が止まっているよ、キリス君。」

義理の弟になったクレイソン公爵が俺をたしなめる。

俺は、クリスが騎士団にでかけている間に、公爵家で領地経営の手ほどきを受けていた。

「…出来が悪くてすみませんね。」

また、卑屈になってしまう。

付き合わされている公爵は、呆れているに違いない。

「悪くはないと思うが。平均的なだけだろう。」


弟が公爵の妻になってしまったのだから、俺が跡取りとして頑張らねば。
弟の方がよかったと言われたくない。

ーーー公爵の妻の実家として、恥ずかしくないようになりたい。

「人と比べるな。領主は自分自身が天才である必要はない。」

若くして家を継いだ公爵は、俺に言った。

当たり前のことができればそれでいいし、もっとよくまわしたいなら、自分でできなければ、人を使えばいいんだ。

大事なのは、人の気持ちを分かり、物事を見極め、選択できる力だよ。



じっと公爵を見る。

弟は、よい夫をもったらしい。

「大事な弟なので、あなたが夫でよかった。俺はろくでもない兄だったので、いっぱいあいつを傷つけたでしょう。
あまり、これまで幸せでなかったかもしれないので、今までの分もどうか幸せにしてやってください。」


お礼を言うと、目を丸くして。

大事な弟だというなら、もっとそのようにクリスに接してやればいいのに。

と困ったような顔をされた。

今更、そんなの、難しいじゃないか。




今日も数時間、滞在してクリスの兄は帰っていった。

兄弟仲はあまりよくないと聞いていたし、あまりよい評判を聞いていなかったが、クリスの実家のためと受け入れて、領地経営のノウハウを教えてやっていた。

まあこれは、クリスには内緒だ。

黒髪によくある青い目の彼は、わずかにクリスと似たところもあるが、男らしい顔立ちで、おそらく父親似なのだろう。
ごくごく、平凡な男だった。

でも、ほのかに見せる弟への想いを隠しきれず、つついてやると、ツンツンしているところが、そっくりだなぁ、やはり血がつながってるんだなぁと面白い。

元々、仲の良い兄弟だったらしいから、いつかわだかまりが解ければいいのに。

キリスを見送りながら、いつも、そう思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの
BL
オメガで生まれなければよかった…そしたら人の人生が狂うことも、それに翻弄されて生きることもなかったのに…絶対に僕の人生も違っていただろう。やっぱりオメガになんて生まれなければよかった… 今度、生まれ変わったら、バース性のない世界に生まれたい。そして今度こそ、今度こそ幸せになりたい。  幸せになりたいと願ったオメガと辛い過去を引きずって生きてるアルファ…ある場所で出会い幸せを掴むまでのお話。 R18の場面には*を付けます。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...