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ある騎士のモヤモヤ

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私の名前はパラダイス王国騎士団副団長、マイア=ミーア。

燃えるような真っ赤な髪に緑色の瞳の、麗しくもたくましい第三王子は、私より年下だが騎士団を率いる団長を拝命している。
父君である陛下の若い頃そっくりの美丈夫は、剣の天才と言われているが、王子であるがため、滅多なことでは騎士団には来ない。


天から与えられた類まれな才能はあったとしても、碌に修練をしないのでは果たして今の実力では……、とは思うが不敬になるので口には出さない。


なので、騎士団のことは実質私に一任されている。





――――――――――最近、急に魔物が増えた。


もちろんその討伐も騎士団の仕事である。
危険な任務に王子は来ない。
きっと、きても役立たずだろう。来ないほうがいい。



ふと、先月森に送っていったレジデュー殿下を思い出す。

我儘でバカで、マナーもなっていなくて、魔力もなく、剣の才能もなく、全ての教師がさじを投げ、学園に通うことすらできなかった愚か者の王子。

蛮族のところに婿に出す――――――つまり、体のいい厄介払いで送られた彼は、蛮族に受け入れてもらえたのだろうか。

もしかしたら、あの森で野垂れ死んでしまったかもしれない。
森の中で草花や木の実をとって、生きながらえてくれていたらいいのだが。
そして隣国に逃れてくれていたら、なおいい。あちらに逃れたとしても、誰も何も言わないから。


道中、私を気遣ってくれる優しい人だった。
立ち居振る舞いも洗練されていたし、あの体は細身だけれどしっかりと鍛えられていて、体幹も悪くなかった。
私が剣の師範であれば、すくなくても『才能がない』と見捨てはしない。


今の王妃は宰相の娘。
よもやと思うが、正妃様が長く子を持てなかったのは……。

そして、第4王子の評判とは、全てうそだったのではないだろうか。

陛下も騙されていたのではないか。



だが、後の祭りだ。

今更、そんなふうに思ったって。



「副団長、っ、やっと、もう少しですっ。」

騎士たちは満身創痍だったが、やっとだ。

国境沿いに沸いたスタンピード。
騎士団と魔法師団が合同で出向き、何千もの個体をやっと残りわずかにまで追い詰めた。


「マイア。」

魔法師団副団長のマジー=ロンドが髪を振り乱して現れた。

魔法は髪に宿るからと手入れをかかさない自慢の長い黒髪が、ところどころチリチリになっている。

お互いにボロボロだ。顔や衣類に血や土の汚れがついているし、魔物の体液で酷い匂い。

「マジ―、どうした。」


「私たちのトップがこちらに向かっているそうだ。出迎えろと。最後のとどめは王子達がやるらしい。」

「ハ。」

乾いた笑いしか出てこない。


役立たずの王子どもが。





「ははは、ご苦労だった。私がきたからにはもう安心だ。」
真っ赤な髪に緑の瞳の毛皮のローブを着てごちゃごちゃとアクセサリーを身に着けた男―――――――魔法師団団長のエクセレント殿下は神輿の上から偉そうだ。

「それで?とどめを刺すのはどこだ?」
同じ色の我が団長。
宝石がごちゃごちゃついた柄の剣が、腰にぶら下がっている。


「あちらにございます。」
あなたたちの目には、包帯だらけの騎士や魔法師が見えないんですね。
野営テントから聞こえるうめき声も。

邪魔なんだよ、今更!
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