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せいせいしたわ!

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「……これで儂もゆくゆくは国王の祖父か…。」

「そうよ、私も国王の母…。」


茶色の髪と瞳の色のありきたりな色の宰相、ガルシア=エンドランは、厳つい顔に生えたあごひげを撫でながら、娘の部屋でほくそ笑んだ。


足に包帯を巻いた侍女がワインとチーズにクラッカーを乗せた台車を押してくる。


「おやおや。怪我人は休ませておくのではなかったのかな?」

?」

侍女は微笑んで、ワインをサーブすると、恭しく礼をし、見事なターンで下がっていく。



「長かったが、これでようやくあるべき形になる…。」

「ええ、そうですわ。うふふ…。せいせいしたわ!」


「パラダイス家の者たちめ。能無しのくせに初代国王の直系というだけで玉座にふんぞり返って。何が民を第一にだ!民草は我々のために存在するのだ!………うまくすべて根絶やしにできたと思っていたのに…。ふん。エントラスト伯爵家なぞが出張るとは…、」

「仕方ありませんわ、それはお父様の落ち度でしょう?エントラスト伯爵家の入り婿は先々代の王弟殿下ですもの。実際はどうだかわかりませんけど、正式な書類上は『血』だけなら一応直系とも言えなくもないわ。」

「王家の色を一切継がなかった、一番家柄の低い伯爵家出身の側妃との間に生まれた末王子のことなど覚えておれんわ。私を差し置いて王位についたのもけしからんが、私のベラを差し置いて隣国に嫁いだ王女の娘を息子にあてがうとは……まったく要らぬ邪魔だったわ。」

ぐいっとワインを飲み干す。

「まあ終わりよければ全てよし、か…。」


先代は長い時間をかけて微弱な毒で毒殺した。
今代はベラが『幼馴染』として得た信頼でコントロールできている。
年をとってもう孕まぬだろうと油断して、避妊薬を切らした隙に思わず正妃が妊娠出産してしまったが、正妃は出産と引き換えにうまく儚くなってくれた。
父子の交流を妨げ、残された王子に教育を一切施さず、表に出さず、劣等感を与え……。
王宮の使用人を可能な限り息のかかった者にすげ替え。
王子に悪評を立て、出来損ないの印象を与えることができた。


あの王は正妃との子を次代の王にとこだわっていたが、さすがにそのような王子に後を継がせることはできないと判断した…。


「うふふ、今頃あの王子は蛮族に受け入れてもらえたかしら?それとも殺されたかしら?原始人の生活があれにはお似合いだわ。私の王子たちより見栄えがいいなんて許せないもの。原始的な生活で肌を焼いて苦労するといいわ、そうすれば容色もすぐに色あせるというもの。落ち着いたころに夫婦で招待してあげようかしら。ふふ、いい見世物になるわ。」

それはいい考えだ、と父親はうなずき、親子でグラスを傾けあう…。




「それはそうと、王宮に置いているアレの偽物はどうする?」


ぽつりとこぼした父親のつぶやきに、ベラ王妃は思い出したようにワインを飲み干すとグラスを置いた。


陛下とレジデューの接触を阻み、『ろくでもない王子』にするために見繕った下等な人間の子ども。
自分は『本物の王子』だと信じて疑わず、わざと横暴になるように育てた偽王子。
部屋に引きこもり、贅沢を享受するしか知らない愚図。
とある娼館で、『高品質の商品』を産むために、貴族崩れの美貌の娼婦と男娼を交らわせて生まれた赤子の顔立ちがレジデューに似ていたことから、男子が生まれてガッカリしていた娼館主から買い取ったのだ。

『本物』と瓜二つというわけではないから、ほとんど部屋の中から出てこない。
『本物』を知らない貴族にレジデューの無能さを知らしめるためだけに育てた子どもの存在を、私たち以外は誰も知らない。

今日も部屋で楽しく過ごしていたようだが、『本物』は追い出せたことだし、もう不要だ。

むしろ城にいられては困る。


「そうね、早く始末してしまいたいところだけれど…、せっかくお金をかけて育てたんだし、性格は兎も角見目は一級品だしね………。どうせならお金にしたいわ。きちんと一生閉じ込めてくれるところはないかしら。」

「流石私の娘だ。抜け目がない。遠い外国の変態にでも売りつけよう。」


「ふふふ。あの顔、私大嫌い。」

「まったくだ。」




夜のとばりの中。

親子は誰よりも、何よりも、闇に染まる。
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