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蛮族とは…

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「では、私どもはこれで。殿下、末永くお幸せに。」

「ありがとう。」


花婿道具といっても、持っていた僅かな衣類や日用品だけを詰め込んだトランク1つ。

見送りの騎士に礼をいうと、騎士はなぜか挙動不審になり、去っていった。


「さてと…。」



振り向くと、森の入口。

外側から覗いただけでも、どれだけ奥深いのか分からない。
すぐ先は真っ暗で鬱蒼としている。

鳥が羽ばたく音が聞こえる。



もしかしたら人を食べる獣や魔物もいるかも………。



入口にある樹齢何年だろうという立派な巨木にぶら下がっている大きな鈴。
鈴についている紐(綱に近い)をひっぱって鳴らす。

こうやって、必要な時は彼らと話をしているらしいから。


太い縄のような薄汚れたそれはしなって、森に大きな福音を立てた。



ザザザっと森が揺れ、突然の強風に腕で顔を隠し、身をかがめる。

「おぅ。お前何の用だよ、行商ってわけじゃねえみたいだが。」

使いの者が現れたらしい。

粗暴な言葉遣いに、『蛮族』という言葉が頭をよぎった。

目を開けてみれば、プラチナブロンドの毛髪を肩まで無造作に伸ばした男がいつの間にか現れた。
彼は、木の上から飛び降りてこちらへ来る。

小柄な体だが、鍛えられた見事な肉体美だ。
筋肉自慢の格闘家のような目に見える筋肉ではないが、実用的なしなやかな筋肉。

猫……いや、豹のような野生の体。

上半身は裸で下半身を獣の皮で飾っており、顔には獅子を模した仮面。

手には槍を持っている。

この槍で狩りをして生計を立てているのだろうか。

声は少し高い。

少年?青年かもしれないが、若そうだ。

私のすぐ傍に近寄り、じろじろと眺めている。


「これは失礼しました、私はレジデュー=エントラスト=パラダイス。パラダイス王国の第4王子です。そちらの部族長のご令嬢の婿に行くようにとの王命で、婿入りにきたところです。」

「婿入り?こっちに令嬢なんていないぜ。それに、そっちも失礼だよな、こっちに何の打診もなく勝手に婿送り付けるなんて。」

なんていうことだ。婿入り先なんてなかった。

「………打診がなかったのですか。それは失礼いたしました。そうしましたら、勝手なお願いで恐縮ですが、婿ではなく、使用人として私を受け入れていただけないでしょうか。私は、そちらと王国の懸け橋になる様にと寄越されました。国にはもう居場所がないのです…。奴隷でも構いません!ですが、何卒我が国との国交樹立を考えていただきたいのです。長様にお目通しいただけないでしょうか…」


「う、う~ん…、なんていうか。お前たちは。そっちとうちとは国交樹立も何もないんだが…。よし分かった。お前は受け入れてやろう。ただし、もう二度と向こうには返せない。うちの人間になってもらう。分かったな。」

「もちろんです。多少は鍛えているので上半身が裸でも大丈夫です!郷に入りては郷に従え、毛皮の下履きだって着こなして見せます!」

「お前、ちょっと変わったやつだな。一応、『王子』なんだろ?……まあいいや。じゃ―――――――

仮面の男が私の脇から腕を入れる。


背中から白い翼が生えて。


「えっ。」


「国に案内する。しがみついていろ!」

「えぇええええええ!!!?」


空高く私たちは飛んだ。





森は、あくまで玄関でしかなかった。

彼らの国は、天上にあったのだ。





彼らを蛮族と、誰が言ったのか。

天上に上がった彼は、毛皮を脱いで、仕立ての良い白い服に着替えた。

騎士の隊服や正装に似ている気がするが、厚手の上着にフリルのないシャツ、細身のタイ。

そして、仮面をとった顔は美女ともいえるような顔。
ぼさぼさのままでは無造作に伸ばしただけに見えた髪は、整えると毛先に行くにしたがってシャギーが入っており、洗練された髪型で、ピンクペリドットの瞳がよく似合っている。
どこか猫を思わせるような華やかな美貌だ。

「なに?おかしい?あれは、地上に行くときの伝統的な衣類なの。民族衣装とか、お祭りでだけ着る衣装みたいなアレ。日常ではあんな恰好しねえよ。」

「…………日ごろからこの姿であれば少なくとも…。」

「『蛮族』って言われねえのにって?知ってる知ってる。いいんだよ、言いたいやつには言わせておけば。誤解させておいた方が都合がいいのさ。さあ、お待ちかね。いよいよ国に入るぞ。ここは入国管理局的な場所だから。大統領にもあわせてやろう。」


魔法だろうか。

白い空間だったところに、目の前がぱあっと開ける。

眼前に広がるそこは、野蛮な未開発地ではなかった。

それどころか――――――――――


空を突き抜けるような巨大な建物。

馬がいないのに走っている箱。

大勢の行き交う人々。

巨大な絵の中で人が動き、どこからともなく声が聞こえる。



彼らは私たちよりよほど文明的で、高度な技術を持っている。
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