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ゲインとアカ

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みんなが旅館で寛いでいたころ。
城の中ではゲインとアカが向かい合っていた。


「ずっと……。3歳の時に婚約したのはアオだと思っていた。花のような笑顔で、屈託なく、俺がカッコいいとほめてくれた。ダークエルフだからって嫌悪しなかったエルフの子に、俺は一目ぼれをしたんだ。婚約者に一目ぼれできるなんて、なんて幸せだろうって。でも、だんだん、『婚約者』の様子は変わっていった。それは、成長のせいだろうって思ってた。最初は、名前もアカ、って呼んだんだ。でも、アオも妖精の王も最初からアオだって。俺たちの聞き間違いだって。教えてくれ、俺が本当に愛したのは君じゃないのか?どうして婚約者が変わったんだ?どうして今まで姿を見せてくれなかった……。」


「本当に、本当に僕のことが……。僕はこのとおり、妖精にしては図体が大きくて、醜いんです。背が伸びだして、周囲からは醜い、醜いと言われてきました。だから、こんなに醜くなった僕をあなたに見せたくなかったんです。代わりにアオが婚約者になって、僕は外に出るなと言われました。でも、いつも影からあなたを見ていました。結ばれなくてもいい、幸せになってくれるなら。それで。でも、アオはあなたをあっさりと捨てて…。あなたは嫉妬で歪んでしまい、僕は悲しくて…。」


「………辛い思いをさせて、すまない…っ。俺が、俺がすぐに気づくべきだったのに…!あんなのは、アトランの王子にさっさとくれてやって、君を迎えに行くべきだった!全部、全部俺が悪かった…!!!」

「離してください、俺は醜い、あなたにはもう相応しくない。だって、あなたはあの時よりもっともっと、かっこいい!」


ここに来たのは、貴方が悪いことをしてしまったのなら、止めたい、ただしたいと思ったからです。

自ら踏みとどまってくれていたのなら、僕の出番なんかありません。

それに、あの頃のあなたはまだ4歳ですよ。
妖精王たちがそういうのなら、信じてしまってもしかたありません。あなたは悪くない!


「やり直してくれないか、俺と。君たちが入れ替わってても分からないような愚か者だった俺だけど、もう二度と過ちは起こさない。きっと、君を大事にするから…!ずっと、君だけが欲しかったんだ!!アオやアクアに求めたのは君の幻影。勘違い。愛しているのは、君なんだ!」


「……でもっ!」


「君は醜いものか!そんなのは、妖精の間だけでの価値観だ!世界中に聞いてみようか、ほとんどの者が君の方が美しいというだろう!でも、たとえ君が醜くとも関係ない、俺は君が好きなんだ!」



月に照らされる中で、ゲインはアカに向かって膝をついた。

「アカ。俺の愛しい人。どうか、この愚かな男を許して、俺の妻になってくれませんか。もう一度だけ、チャンスを与えてほしい。」


「ああ、ゲイン。」

ゲインが魔力を込めると、美しい黒真珠が手のひらに生まれる。
それを、自分の嵌めていた銀の指輪を材料にして、世界に一つだけの指輪を、彼は作った。


アカは、その指輪を細い、けれど生活するために荒れた指にはめることを許した。







ダークエルフの国は、アクアたちが国に戻ってのち、各国の要人ご愛用の保養地として栄えていく。

神秘的な霧と結界に守られた国は、外敵に襲われる心配がない。

さらに、真の精霊王が妃となったことで、冬の保養地の良さは残しながら、春には様々な恵が得られるような、楽園へと生まれ変わる。

温泉以外にも清らかな湖が湧き、魚が跳ね、生命が育まれ、花は咲き乱れ。

世界屈指の観光立国として、潤っていくのだ。



それに対して、真の妖精王を追い出した妖精の国は、泉が枯れ、腐り、妖精の住めない状態となった。

こんな状態では、いくらアトランからの支援があっても意味がない。

ダークエルフの国の隆盛が伝わり、王妃が自分たちが追い出したアカであり、真の妖精王だったことを知ると、妖精たちは王を糾弾して、王や王妃、アオの弟であり王太子であったミドの羽をむしりとり、アカにダークエルフの国に入れてほしいと懇願するに至った。

優しいアカは、妖精たちや羽をむしられてしまった家族たちを受け入れたいと言ったが、ゲインはアカに対する仕打ちを許せず、入国させたとしても、特別に限られた区域の中からは出られないよう、結界で区切った場所でしか生活できないようにした。
それでも、元居たヘドロのような場所よりはずいぶんマシで、妖精たちは謝罪と感謝を毎日のように唱えるのが日課となり、元の王家族はじめじめした隅の方でひっそりと貧しい暮らしをするようになったという。





――――――そして、アオは。

「信じられない!信じられない!!どうしてあんなダークエルフの国が今ではお金持ちの国になってるわけ!?アトランよりもお金持ちだってどういうこと!?しかも、妃はアカ!??妖精王!???なんで、アカのくせにっ!!!」

王妃の寝室で、枕にやつあたりをしたため、羽があちこちに舞う。

足元には、ダークエルフの新しい王、ゲインと王妃のアカの写真入りの新聞がくしゃくしゃになって転がっている。
豪華な服を身にまとい、きれいなお城で幸せそうに手を振る二人。
新聞では、アカの美貌と心の美しさが称賛されている。

実際に、きれいな服を身にまとい、身づくろいを整えたアカは、キラキラと輝いていた。

アカが美しいのは分かっていた。
妖精の美醜の感覚からはかけ離れているけど、神々しくも美しい。
だからこそ悔しくて、服を切り裂き、いつも汚していた。
その煌めきが、だれにも分からないように。

いつも、自分が一番でいたかったから。


「父さんも母さんもミドも、今や平民以下の暮らしをしてるって言うし…。こんなことなら、クルシュなんかを誑かすんじゃなかった。ゲインの方がハンサムだったし、紳士だったからあんなに毎日ケダモノのように襲われることもなくて楽だったのに。」


ぎぃぃ……と、ゆっくりとドアが開く。



そういえば、最近は忙しいのかクルシュは自分を求めてこなくなった。
久しぶりに相手をしなければならないのか、とうんざりしながらも可憐な笑顔を貼り付けて、振り返ると、クルシュの後ろにはスッとした綺麗な若い男が立っている。

確か、クルシュの側近で、ご学友とかいう公爵家の次男だった気がする。

夫婦の寝室まで来たことはないのに。


「ごめんなさい、悪い虫が出たからびっくりしちゃって。枕をだめにしちゃった。最近、来てくれなかったから寂しかった…。今日は、一緒に寝られるの?でも、その人がいたら、僕、恥ずかしい…♡」


「俺はケダモノだから嫌なんだろう?」


「……エッ。」



視線に甘さが消え、汚いものを見るような目で、クルシュが僕を見ている。

なんで…!


「条件のいい男から男へ。まるで娼婦だな。お前が腹違いとはいえ実の兄にどんな仕打ちをしたのか、お前の裏の顔はもう全部知っているんだよ。安心しろ、もうお前に俺は勃たん。」


「は!なにそれ!!今更分かってももう遅いよ!僕は妃だよ?そう簡単に離婚なんかできないよ。そうでしょう?」

「幸いにもまだ子はできていない。相性が悪かったのか、それともお前は不妊なのか。まあ、好みの男を引っ張り込んで俺の目を盗んでよろしくやっていたようだし?妖精の国にいたときからそうだったんだろ。そういう性活をしていれば不妊にもなるか。俺にとっては好都合だ。お前との子なんて、どんな性悪が生まれるか分からないからな。子の祖父母だからといってたかられても困るし。そうそう、もうお前の実家に支援することもないだろう。」


「………なっ!!」


「お前は、塔に幽閉する。一生、そこで暮らし、名ばかりの王妃となるがいい。年老いて、その色があせる頃は出してやってもいいが、そのころには俺が愛する側妃と俺の子や孫が幸せに暮らしている。そんな中、一人ぼっちで、誰からも見向きされない老人も辛いだろうから、心優しい俺は、死ぬまでそこにいることをお勧めするぞ。」


「側妃????一体だれを!!」


「いるだろう、目の前に。」

「サンド公爵家の次男、オアシスです。以後、お見知りおきを。」

まっすぐした黒い髪が腰まで伸び、どこかアカに似ている男が、にっこりとほほ笑む。


「……ふふふ、真実の愛は灯台下暗しとはよく言ったものだ。妃の真実を知り、憤る俺を支えてくれたのはオアシスだった。身近にこんなに俺のことを想ってくれていることを知らなかったなんて、俺は罰当たりだ。」

オアシスの腰に、手を伸ばす。

「あっ…。クルシュさまっ。おやめください。したくなったら、困ります…っ。だって、今は……。ネッ。」

「そうだった。ここには、大事な大事なややがいるんだ。今は、エッチも我慢しないとな。」

「口や手でなら…ご奉仕いたします♡素股でも…それでもよかったら♡」


「なっ……。」



うあああああああああああああ!!!!!!!



部屋を締め、カギを掛ける。

内側からは開けらないが、トイレも風呂も中にはあるし、大丈夫だろう。
それに、次にこの扉が開くときは、食事の前。
塔へ移される時だ。




「クルシュ様、やりすぎじゃないですか?」

オアシスは後ろを振り返った。

「いいんだ。それだけのことをあれはやった。それに、あれだけ罵られたんだ。」
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