上 下
12 / 42

あいつが幸せになるなんて許さない

しおりを挟む
あいつが幸せになるなんて許さない。


実家も裕福で、家族に愛されて。頭もよくて一流大学、顔だっていい。

挫折なんてしたことないんだろう。

女だってよりどりみどりなんだろう?



俺はイケメンが大嫌いだ。

正論をいうヤツが大嫌いだ。



正論だけでわたっていけるほど、世の中は甘くないんだよ。

それが正義だというやつらは、幸せな人生しか送ってこなかった、おめでたいヤツなんだろう。




俺の実家は貧しくて、奨学金で大学に入った。

本当はそんなに頭はよくなかったが、どうにかして貧しさから抜け出そうと思ったら、いい大学を出なければならない。

奨学金を得るためには、成績優秀である必要がある。


塾に通うお金なんてない。

だから毎日遅くまで血反吐を吐くような思いで、勉強にかじりついた。



死ぬほど頑張って、優秀な成績で卒業はできたけど、そこまでだった。

俺は本当は価値のない人間なんだと思い知らされた。

就職ができない。

だから、仕方なく政治家の秘書になった。

世の中綺麗事じゃない。


清濁併せ呑む俺は、政治家に気に入られて婿養子になった。

地盤を継いだ。

カネで汚いことをしているのは俺だけじゃないんだよ!

政治家だけじゃない、多かれ少なかれ皆理想と戦いながら、グレーゾーンなこともやってんだろう!?

何故、俺だけが責められる。

俺は、勝ち続けなきゃいけなかったんだよ!



皆に尻尾を切られて見捨てられ、離縁されて、居場所をなくした。


一ノ瀬のせいだ。


花木のせいだ。


転生して、幸せに?


許せない。



 


ビルから落ちて闇の中、俺は泥の中で産まれた。



「ただいま。」



王家も通う格式高い教会。


「おかえり、フィナンシェ。」



一見温和で柔らかそうに、ニヤリと笑う父親。


この聖なる場所に魔が巣食っているとは、誰も思うまい。

司祭である父親の影は大きく歪み、黒い翼を映す。



俺は悪魔の子。



2歳の頃、あいつを見つけた。

第二王子。

女神の祝福を受け、輝くばかりに美しく、幸福な人生を約束されている。

許せない。


家族の中で1人だけオメガだから、距離を置かれてはいたが、愛されていないわけではない。

そのうちお姫様は素敵な王子様と結ばれるのだろう。



ふと、宰相があいつの母親を熱く見つめるのに気づいた。


面白い。



王である兄と比べ、美貌も才覚も劣り、初恋の幼なじみもとられて、諦めきれない男。


「ねぇ……。」

声をかけ、誘導した。幼いあいつにいたずらしようとして、王妃に見つかり、王妃は教会に相談する。


俺はまんまとあいつから美貌を奪った。


惨めに生きればいい。

国をめちゃくちゃにしてやる。


面白いことに花木も見つけた。

こいつもイケメンで気に入らない。

二人仲良く娼館送りにしてやった。


あいつの魔法はとけたらしいが、後の祭りだろう。

花木は最下層の娼妓で、毎日元同僚に輪姦されているらしい。

出る杭を気に入らないと思っていたのだろう。

いい気味だ。


「くくく、フィナンシェよ。かわいい俺の愛し子。人間は面白いな。次はどうする?」


父である魔王が嗤う。


「そうですね。この国は周囲を他国に囲まれているから、戦争でも起こしましょうかね。」


ケンカしたらこんな国、生きていけないから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

「ひみつの巣作り」

BL / 連載中 24h.ポイント:7,817pt お気に入り:3,249

【完結】【R18BL】夏休みに落ちた恋【オメガバース】

BL / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:115

優しい幽霊話、はじめました。

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

巻き戻り令息の脱・悪役計画

BL / 連載中 24h.ポイント:78,962pt お気に入り:3,813

処理中です...