冷徹茨の騎士団長は心に乙女を飼っているが僕たちだけの秘密である

竜鳴躍

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あれ……っ?

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第二王子は苦手だった。

私は騎士団長の長男に生まれたけれども、本当は外で剣を振るうよりも家で刺繍をしている方が好きだし、男同士でやるちゃんばらや水遊び、遠駆けや狩りなどより、いい香りのする庭園でおしゃれなカップでお茶会をしていたかった。
お父様と訓練したり、王子達とそういった外遊びに興じるよりも、お母様と一緒に御菓子を作ったり可愛い小物をこしらえていたかったのに、年が同じの公爵家令息という立場では、将来の側近候補という名のご学友の群れに入らざるを得ず。

ぐいぐい連れまわすこの人が苦手で。

もう、そっとしてくれないかなあ。
どうせ王子が決めるんだし、外でなんか遊びたくないし、どうでもいいんだから、何をして遊びたいかなんてどうして聞いてくるのかなあ?
といつも思っていた。

遊ぶ時間が早く終わらないだろうか、家に帰ったら今日は何を作ろうかとそういうことばかり考えていたから、表情は無表情だったかもしれない。

父は私に執拗に男らしさを求め、私は就寝前にしか趣味のかわいい物作りをすることができず。
騎士団だって好きでやってる仕事ではないが、その職に就いたからには国民の安全を守るため全力を尽くしているだけだ。

仕事だから血濡れにもなるし、倒すべき相手に情けはかけないし、多少の自己判断はしてるとはいっても、国民のため陛下のために働いているだけなのに、いつの間にか『冷徹茨』だなんていわれるし。


自分の心はちぐはぐなのだ。


だけどもうどうしようもないし、両親に幻滅されたくないからこっそり趣味に興じていたのに。



薔薇を摘んでいるところをこの王子に見られてしまった。


王家の庭で勝手に薔薇を摘んでいるのは、やっぱり叱られるだろうか…。






「……騎士団長、何を?」

若干震えた、動揺したような声色でジニアル王子が言葉を紡いだ。

「申し訳ございません。あまりに美しくかぐわしいもので、少し戴いてしまいました…。」


「薔薇などたくさん咲いているのだから庭師に言って花束にして持っていけばいいだろうに、なぜ花だけを摘んでいるのだ…?」



「……ローズティーやポプリを………その……作りたくて……。」


やっぱり、お父様みたいに『変だ』と罵られるのだろうか。

男のくせにって。


そう思っていたら、王子の腕が私の腕を掴んだ。


「勝手に摘んで、罰せられますよね。」


「騎士団長は、我が国に多大に貢献しているのだから、庭で過分な薔薇を摘むくらいなんでもない。許す。いつでも摘むがいい。ただし、頻度や量が増えるようなら庭師に相談してほしい。ローズティーやポプリを作るなら、もう少し量があったほうがいいだろう。」


こちらへおいで、と引かれた手は温かくて。

私のように剣だこはないけどペンだこがあって。

思っていたより力強く、自分の嗜好を受け入れられたことが嬉しくて、顔がほころんだ。


もっと早く自分の嗜好を自分で言っていればよかったのかもしれない。

子どもの頃だって、つまらないならつまらないと。

そうすれば、本当に親しく、気心の知れた仲にもなれたのかも。


「ありがとうございます!」


そういうと、照れくさいのか王子の顔は赤らんだ。





優しすぎる王子。

学生の頃、王子をとりあって女性貴族同士での罵り合いがエスカレートし、とっくみあいの傷害事案が発生した。
それを見た王子はぶっ倒れたのだ。

それからだ。
王太子は勉学に勤しみ、弟王子も外国語をマスターし、それぞれ特技を活かして頭角を現した。
何でもこなすけど突出していない王子は、後継者争いから脱落したけど、それは精神的な面で王位につくのは厳しいと二人が王子を守るために頑張ったからに他ならない。

あの頃まではこんなふうに誰か女性をエスコートすることもあったっけ。



そう思いながら、私は薔薇園を歩いた。
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