2 / 96
あれ……っ?
しおりを挟む
第二王子は苦手だった。
私は騎士団長の長男に生まれたけれども、本当は外で剣を振るうよりも家で刺繍をしている方が好きだし、男同士でやるちゃんばらや水遊び、遠駆けや狩りなどより、いい香りのする庭園でおしゃれなカップでお茶会をしていたかった。
お父様と訓練したり、王子達とそういった外遊びに興じるよりも、お母様と一緒に御菓子を作ったり可愛い小物をこしらえていたかったのに、年が同じの公爵家令息という立場では、将来の側近候補という名のご学友の群れに入らざるを得ず。
ぐいぐい連れまわすこの人が苦手で。
もう、そっとしてくれないかなあ。
どうせ王子が決めるんだし、外でなんか遊びたくないし、どうでもいいんだから、何をして遊びたいかなんてどうして聞いてくるのかなあ?
といつも思っていた。
遊ぶ時間が早く終わらないだろうか、家に帰ったら今日は何を作ろうかとそういうことばかり考えていたから、表情は無表情だったかもしれない。
父は私に執拗に男らしさを求め、私は就寝前にしか趣味のかわいい物作りをすることができず。
騎士団だって好きでやってる仕事ではないが、その職に就いたからには国民の安全を守るため全力を尽くしているだけだ。
仕事だから血濡れにもなるし、倒すべき相手に情けはかけないし、多少の自己判断はしてるとはいっても、国民のため陛下のために働いているだけなのに、いつの間にか『冷徹茨』だなんていわれるし。
自分の心はちぐはぐなのだ。
だけどもうどうしようもないし、両親に幻滅されたくないからこっそり趣味に興じていたのに。
薔薇を摘んでいるところをこの王子に見られてしまった。
王家の庭で勝手に薔薇を摘んでいるのは、やっぱり叱られるだろうか…。
「……騎士団長、何を?」
若干震えた、動揺したような声色でジニアル王子が言葉を紡いだ。
「申し訳ございません。あまりに美しくかぐわしいもので、少し戴いてしまいました…。」
「薔薇などたくさん咲いているのだから庭師に言って花束にして持っていけばいいだろうに、なぜ花だけを摘んでいるのだ…?」
「……ローズティーやポプリを………その……作りたくて……。」
やっぱり、お父様みたいに『変だ』と罵られるのだろうか。
男のくせにって。
そう思っていたら、王子の腕が私の腕を掴んだ。
「勝手に摘んで、罰せられますよね。」
「騎士団長は、我が国に多大に貢献しているのだから、庭で過分な薔薇を摘むくらいなんでもない。許す。いつでも摘むがいい。ただし、頻度や量が増えるようなら庭師に相談してほしい。ローズティーやポプリを作るなら、もう少し量があったほうがいいだろう。」
こちらへおいで、と引かれた手は温かくて。
私のように剣だこはないけどペンだこがあって。
思っていたより力強く、自分の嗜好を受け入れられたことが嬉しくて、顔がほころんだ。
もっと早く自分の嗜好を自分で言っていればよかったのかもしれない。
子どもの頃だって、つまらないならつまらないと。
そうすれば、本当に親しく、気心の知れた仲にもなれたのかも。
「ありがとうございます!」
そういうと、照れくさいのか王子の顔は赤らんだ。
優しすぎる王子。
学生の頃、王子をとりあって女性貴族同士での罵り合いがエスカレートし、とっくみあいの傷害事案が発生した。
それを見た王子はぶっ倒れたのだ。
それからだ。
王太子は勉学に勤しみ、弟王子も外国語をマスターし、それぞれ特技を活かして頭角を現した。
何でもこなすけど突出していない王子は、後継者争いから脱落したけど、それは精神的な面で王位につくのは厳しいと二人が王子を守るために頑張ったからに他ならない。
あの頃まではこんなふうに誰か女性をエスコートすることもあったっけ。
そう思いながら、私は薔薇園を歩いた。
私は騎士団長の長男に生まれたけれども、本当は外で剣を振るうよりも家で刺繍をしている方が好きだし、男同士でやるちゃんばらや水遊び、遠駆けや狩りなどより、いい香りのする庭園でおしゃれなカップでお茶会をしていたかった。
お父様と訓練したり、王子達とそういった外遊びに興じるよりも、お母様と一緒に御菓子を作ったり可愛い小物をこしらえていたかったのに、年が同じの公爵家令息という立場では、将来の側近候補という名のご学友の群れに入らざるを得ず。
ぐいぐい連れまわすこの人が苦手で。
もう、そっとしてくれないかなあ。
どうせ王子が決めるんだし、外でなんか遊びたくないし、どうでもいいんだから、何をして遊びたいかなんてどうして聞いてくるのかなあ?
といつも思っていた。
遊ぶ時間が早く終わらないだろうか、家に帰ったら今日は何を作ろうかとそういうことばかり考えていたから、表情は無表情だったかもしれない。
父は私に執拗に男らしさを求め、私は就寝前にしか趣味のかわいい物作りをすることができず。
騎士団だって好きでやってる仕事ではないが、その職に就いたからには国民の安全を守るため全力を尽くしているだけだ。
仕事だから血濡れにもなるし、倒すべき相手に情けはかけないし、多少の自己判断はしてるとはいっても、国民のため陛下のために働いているだけなのに、いつの間にか『冷徹茨』だなんていわれるし。
自分の心はちぐはぐなのだ。
だけどもうどうしようもないし、両親に幻滅されたくないからこっそり趣味に興じていたのに。
薔薇を摘んでいるところをこの王子に見られてしまった。
王家の庭で勝手に薔薇を摘んでいるのは、やっぱり叱られるだろうか…。
「……騎士団長、何を?」
若干震えた、動揺したような声色でジニアル王子が言葉を紡いだ。
「申し訳ございません。あまりに美しくかぐわしいもので、少し戴いてしまいました…。」
「薔薇などたくさん咲いているのだから庭師に言って花束にして持っていけばいいだろうに、なぜ花だけを摘んでいるのだ…?」
「……ローズティーやポプリを………その……作りたくて……。」
やっぱり、お父様みたいに『変だ』と罵られるのだろうか。
男のくせにって。
そう思っていたら、王子の腕が私の腕を掴んだ。
「勝手に摘んで、罰せられますよね。」
「騎士団長は、我が国に多大に貢献しているのだから、庭で過分な薔薇を摘むくらいなんでもない。許す。いつでも摘むがいい。ただし、頻度や量が増えるようなら庭師に相談してほしい。ローズティーやポプリを作るなら、もう少し量があったほうがいいだろう。」
こちらへおいで、と引かれた手は温かくて。
私のように剣だこはないけどペンだこがあって。
思っていたより力強く、自分の嗜好を受け入れられたことが嬉しくて、顔がほころんだ。
もっと早く自分の嗜好を自分で言っていればよかったのかもしれない。
子どもの頃だって、つまらないならつまらないと。
そうすれば、本当に親しく、気心の知れた仲にもなれたのかも。
「ありがとうございます!」
そういうと、照れくさいのか王子の顔は赤らんだ。
優しすぎる王子。
学生の頃、王子をとりあって女性貴族同士での罵り合いがエスカレートし、とっくみあいの傷害事案が発生した。
それを見た王子はぶっ倒れたのだ。
それからだ。
王太子は勉学に勤しみ、弟王子も外国語をマスターし、それぞれ特技を活かして頭角を現した。
何でもこなすけど突出していない王子は、後継者争いから脱落したけど、それは精神的な面で王位につくのは厳しいと二人が王子を守るために頑張ったからに他ならない。
あの頃まではこんなふうに誰か女性をエスコートすることもあったっけ。
そう思いながら、私は薔薇園を歩いた。
23
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる