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施設に来る舅
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ミカエル=ホーリーランド子爵は、この国の騎士団長を務め、先日、妻のハデスとともに引退した。
サザエル=ホーリーランドの父親だ。
サザエルは父親似で、若い頃は美女と見紛う程の麗人だった彼は、還暦を迎えようとする今でも、その名残が垣間見える。
波を打ったような金髪は、少し色が抜け、以前は腰まで長くのばしていたものを、今では短く襟足で切りそろえ、ぱっちりした目元には皺も出てきたが、年を重ねた魅力があった。
元々実家の子爵家の三男で、母親似の美人に生まれたせいで、嫁に行かせるつもりで娘として育てられたために、しぐさや喋り方も女性らしいが、中身はそうではない。
マナの母親であるクリスとは幼少からの幼馴染で、危なっかしい彼を、時には母のように父のように姉のように兄のように、妻となった男爵家四男のハデスとともに見守って来た。
当時は、体格のせいで騎士団の採用試験に落ちたクリスを慰めて、弓師として彼やハデスとともに冒険者となり、その後、腕を買われて騎士団に入ってからは、クリスの下でずっと一緒で。
斥候部隊だった頃は、傍らに鷹を連れ、任務にあわせて化粧と演技で別人となり、世界を股にかけて活躍したものだ。
クリスが二刀流の神速の騎士として、「神速のクリス」と呼ばれたように、彼もまた、「変幻自在のミカエル」と呼ばれていた。
因みにキャッツアイの変装の師匠でもある。(彼の場合は特殊メイクも使って変装する)
そんな彼は、クリスの長子・アリスからの情報で息子の運営する教育施設の前に足を踏み入れようとしていた。
全ては、息子とマナのために。
「行くわよ、ハデス!元斥候部隊の腕の見せ所よ!」
振り返るそこには、彼の愛しの妻―――彼より大柄で、筋肉質の髪を短く切った男、ハデスがいる。
「お父様、お母様!お見えになるのでしたら言ってくださればよかったのに…!」
突然の両親の訪問に、慌てたサザエルがやってくる。
施設職員は、なんだろうと遠巻きにこちらの様子をうかがっていた。
それを、ミカエルとハデスは目の端で確認する。
「ほら、私たちもこの間退官したじゃない?余裕が出てきたから、可愛い息子の運営する施設を見てみたくなったのよ。」
「…ですが、お父様はコスメショップの経営がお忙しいのでは?」
ミカエルは退官後、自分の趣味を活かしてコスメショップの経営を始めている。ミカエル自身も、メイクアップアーティストだ。
「何言ってるのよ。騎士団長の時よりは余裕あるわよ。むしろ、むこうの仕事はこれから忙しくなるから、今のうちにと思ってね。」
「…そうですか。」
マナに愛を捧げようにも距離を取られて、どうしようか考えあぐねている様子の息子の顔に、ミカエルは触れた。
「かわいそうに。大好きなマナが顔を見せてくれなくなったから、こんなに意気消沈して。でも、あなたが頑張らなくてどうするの?あれほどマナと結婚したい、ってあなたから求愛したのに。」
「そうだぞ、お前を評価して、爵位は下だが、お前なら任せられると、せっかく公爵家が許してくれたんだから。」
「分かりました。お父様、お母様。返事がもらえなくても、手紙を書き続けます。あってもらえなくても、毎日会いに行きます!」
サザエルは、決意を新たにした。
そして、執務室に戻る息子を見送って、ミカエルたちは、職員のところへ向かった。
職員たちは、先ほどの話を聞いている。
さあ、とどめを刺そうじゃないか。
「ねぇ、あの子ったら本当に婚約者に昔から夢中なのよ。成人を待って、やっと結婚できるの。マリッジブルーなのかもしれないけど、早く仲直りできるといいと思わない?だってあれほどお互いに必要としあってるのよ。」
「……そ、そうですね…。」
「もし、二人を引き裂くようなこと、たとえば、マナは愛されていないとか、うちが爵位が下だから押し付けられただけだとか、そういった出まかせを言われたり、苛められてのことだったら、私は許せないわ。施設職員に限っていないとは思うけれど、もしいたのだとしたら退職させた後で路頭に迷うように追い詰めたいくらいよ?」
ウフフフ。
と、華のように笑うミカエルと対峙する職員たちは、冷や汗をかいていて。
「だって、あの子は何も教えてくれないから何があったか分からないけど、ストレスで発作を起こして、下手をしたら死んでたかもしれないのよ。あなたも、許せないって思うわよねえ?」
「……ストレスで!」
「そうなの。私たち、前公爵夫人とは幼馴染で親友だから、爵位関係なく気兼ねない間柄なんだけど、一般にはわからないでしょ?うちが爵位が低いから、そういう空想をして、意地悪を言う人がいるみたいなのよ。あなた方で守っていただけると助かるわ。」
職員たちは、ミカエルたちに施設を案内する間、生きた心地がしなかった。
そんな…。
全て自分たちの勝手な思い込みで…。
なんてことを…。
サザエル=ホーリーランドの父親だ。
サザエルは父親似で、若い頃は美女と見紛う程の麗人だった彼は、還暦を迎えようとする今でも、その名残が垣間見える。
波を打ったような金髪は、少し色が抜け、以前は腰まで長くのばしていたものを、今では短く襟足で切りそろえ、ぱっちりした目元には皺も出てきたが、年を重ねた魅力があった。
元々実家の子爵家の三男で、母親似の美人に生まれたせいで、嫁に行かせるつもりで娘として育てられたために、しぐさや喋り方も女性らしいが、中身はそうではない。
マナの母親であるクリスとは幼少からの幼馴染で、危なっかしい彼を、時には母のように父のように姉のように兄のように、妻となった男爵家四男のハデスとともに見守って来た。
当時は、体格のせいで騎士団の採用試験に落ちたクリスを慰めて、弓師として彼やハデスとともに冒険者となり、その後、腕を買われて騎士団に入ってからは、クリスの下でずっと一緒で。
斥候部隊だった頃は、傍らに鷹を連れ、任務にあわせて化粧と演技で別人となり、世界を股にかけて活躍したものだ。
クリスが二刀流の神速の騎士として、「神速のクリス」と呼ばれたように、彼もまた、「変幻自在のミカエル」と呼ばれていた。
因みにキャッツアイの変装の師匠でもある。(彼の場合は特殊メイクも使って変装する)
そんな彼は、クリスの長子・アリスからの情報で息子の運営する教育施設の前に足を踏み入れようとしていた。
全ては、息子とマナのために。
「行くわよ、ハデス!元斥候部隊の腕の見せ所よ!」
振り返るそこには、彼の愛しの妻―――彼より大柄で、筋肉質の髪を短く切った男、ハデスがいる。
「お父様、お母様!お見えになるのでしたら言ってくださればよかったのに…!」
突然の両親の訪問に、慌てたサザエルがやってくる。
施設職員は、なんだろうと遠巻きにこちらの様子をうかがっていた。
それを、ミカエルとハデスは目の端で確認する。
「ほら、私たちもこの間退官したじゃない?余裕が出てきたから、可愛い息子の運営する施設を見てみたくなったのよ。」
「…ですが、お父様はコスメショップの経営がお忙しいのでは?」
ミカエルは退官後、自分の趣味を活かしてコスメショップの経営を始めている。ミカエル自身も、メイクアップアーティストだ。
「何言ってるのよ。騎士団長の時よりは余裕あるわよ。むしろ、むこうの仕事はこれから忙しくなるから、今のうちにと思ってね。」
「…そうですか。」
マナに愛を捧げようにも距離を取られて、どうしようか考えあぐねている様子の息子の顔に、ミカエルは触れた。
「かわいそうに。大好きなマナが顔を見せてくれなくなったから、こんなに意気消沈して。でも、あなたが頑張らなくてどうするの?あれほどマナと結婚したい、ってあなたから求愛したのに。」
「そうだぞ、お前を評価して、爵位は下だが、お前なら任せられると、せっかく公爵家が許してくれたんだから。」
「分かりました。お父様、お母様。返事がもらえなくても、手紙を書き続けます。あってもらえなくても、毎日会いに行きます!」
サザエルは、決意を新たにした。
そして、執務室に戻る息子を見送って、ミカエルたちは、職員のところへ向かった。
職員たちは、先ほどの話を聞いている。
さあ、とどめを刺そうじゃないか。
「ねぇ、あの子ったら本当に婚約者に昔から夢中なのよ。成人を待って、やっと結婚できるの。マリッジブルーなのかもしれないけど、早く仲直りできるといいと思わない?だってあれほどお互いに必要としあってるのよ。」
「……そ、そうですね…。」
「もし、二人を引き裂くようなこと、たとえば、マナは愛されていないとか、うちが爵位が下だから押し付けられただけだとか、そういった出まかせを言われたり、苛められてのことだったら、私は許せないわ。施設職員に限っていないとは思うけれど、もしいたのだとしたら退職させた後で路頭に迷うように追い詰めたいくらいよ?」
ウフフフ。
と、華のように笑うミカエルと対峙する職員たちは、冷や汗をかいていて。
「だって、あの子は何も教えてくれないから何があったか分からないけど、ストレスで発作を起こして、下手をしたら死んでたかもしれないのよ。あなたも、許せないって思うわよねえ?」
「……ストレスで!」
「そうなの。私たち、前公爵夫人とは幼馴染で親友だから、爵位関係なく気兼ねない間柄なんだけど、一般にはわからないでしょ?うちが爵位が低いから、そういう空想をして、意地悪を言う人がいるみたいなのよ。あなた方で守っていただけると助かるわ。」
職員たちは、ミカエルたちに施設を案内する間、生きた心地がしなかった。
そんな…。
全て自分たちの勝手な思い込みで…。
なんてことを…。
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