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あの子最近来なくなったわね
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「あの子最近来なくなったわね。」
「全くいい気味よ!」
「この調子で婚約解消にならないかしら。」
「優しくて素敵なサザエルさまには、ミシャ様がお似合いだと思わない!」
「「思う~~~~~~!」」
施設の職員は、お茶室でアハハと笑いながら休憩している。
当のサザエルは、施設長室で大きなため息をついているのだが…。
「なるほどね。」
施設の天井裏から、彼女たちを眺めている一人の男がいた。
ふわふわの金髪に、青い目。
細身の甘いルックスの30代半ばの男。
キャッツアイ=ブライト伯爵。
この国の宰相で、マナの兄であるアヴニールの夫である。
キャッツアイは、元々騎士団で斥候部隊長をしていたが、王太子自らのヘッドハンティングで宰相になった男だ。
斥候部隊時代は、ワイヤーを駆使し、どこぞのスパイ映画のヒーローのような活動をしていた。
だから、屋根裏に忍び込んで、様子を探るなどはお手の物だ。
こんな手法は、きっとキャッツアイしかできないだろう。
宰相になった今、自らこのような探りを入れる必要はないのだが、事件でもなんでもなくプライベート。
騎士団や部下を使うわけにはいかない。
だけれど、愛しい妻に頼まれれば仕方ない。妻の家族のためならばえんやこら。
キャッツアイは城に戻って、愛する妻と王太子の待つ部屋へ向かった。
「どうだった?」
部屋へ入ると、近衛部隊の白い軍服を着たアヴニールが、キャッツアイの胸に飛び込んできた。
目の前には、赤い皮に金の装飾のついた椅子に腰かけたクレイソン公爵家の長兄で王太子のアリスが腕を組んで報告を待ち構えている。
3人の妻を持つ美丈夫は、30代になって、ますます迫力を増した。
「マナ様が距離を取られた理由は、施設職員の陰口でした。どうやら、こう言われていたようです。」
――――――公爵家の力で、優しいサザエルがマナを押し付けられた。 と。
ぴくっと、アリスの片眉があがった。
マナは、ただでさえ自分の体が弱いことや、耳が聞こえない、話せないことを引け目に思っている。
それなのに、そんなことを言われたのか…!
「アリスさま。ただし、これは面と向かって言われたわけではありません。女性職員同士の会話です。彼女たちは平民ですからね、公爵家の令息であるマナ様には面と向かって言いませんよ。ですが、マナ様は、最近、読唇術をマスターしていたようです。彼女たち同士の会話を、唇を読んで知ってしまったのでしょう。」
「……なるほどな。まいったな、これは動きづらい…。」
下手に王家や公爵家が動けば、彼女たちの空想を裏付けたように見えてしまう。
彼女たちは本気で、二人が愛し合って婚約しているのではなく、『お荷物』のマナを公爵家が恩を売って子爵家に押し付けていると、そう思っているのだから。
自慢の主人の幸せを願っているのだ。
見当違いなだけで…。
そうじゃないんですよーとウチから言っても説得力はまるでない。
「お兄さま、アイ。俺の方は、公爵家の周りをちょろちょろしてた男爵令嬢を調べてみたよ。」
「で、どうだった?」
アヴニールは肩をすぼめる。
「彼女の方は、二人が本当に愛し合ってるって気づいたみたいで、反省していたよ。まさか、マナが発作を起こしたとは思わなくて、謝ってた。体の弱いマナでは、女主は務まらないのに、サザエルがかわいそうって思ってたみたい。彼女の方も、それほど悪ってわけではないんだよ。」
「……まあ、事実は事実として状況は両家の親には報告したほうがいいだろう。どっちも荒れそうだなあ。この場合、何にぶつけていいかもわからないからなあ。」
アリスはひとしきり考えて。
ちょっといいアイディアを思いついた。
「全くいい気味よ!」
「この調子で婚約解消にならないかしら。」
「優しくて素敵なサザエルさまには、ミシャ様がお似合いだと思わない!」
「「思う~~~~~~!」」
施設の職員は、お茶室でアハハと笑いながら休憩している。
当のサザエルは、施設長室で大きなため息をついているのだが…。
「なるほどね。」
施設の天井裏から、彼女たちを眺めている一人の男がいた。
ふわふわの金髪に、青い目。
細身の甘いルックスの30代半ばの男。
キャッツアイ=ブライト伯爵。
この国の宰相で、マナの兄であるアヴニールの夫である。
キャッツアイは、元々騎士団で斥候部隊長をしていたが、王太子自らのヘッドハンティングで宰相になった男だ。
斥候部隊時代は、ワイヤーを駆使し、どこぞのスパイ映画のヒーローのような活動をしていた。
だから、屋根裏に忍び込んで、様子を探るなどはお手の物だ。
こんな手法は、きっとキャッツアイしかできないだろう。
宰相になった今、自らこのような探りを入れる必要はないのだが、事件でもなんでもなくプライベート。
騎士団や部下を使うわけにはいかない。
だけれど、愛しい妻に頼まれれば仕方ない。妻の家族のためならばえんやこら。
キャッツアイは城に戻って、愛する妻と王太子の待つ部屋へ向かった。
「どうだった?」
部屋へ入ると、近衛部隊の白い軍服を着たアヴニールが、キャッツアイの胸に飛び込んできた。
目の前には、赤い皮に金の装飾のついた椅子に腰かけたクレイソン公爵家の長兄で王太子のアリスが腕を組んで報告を待ち構えている。
3人の妻を持つ美丈夫は、30代になって、ますます迫力を増した。
「マナ様が距離を取られた理由は、施設職員の陰口でした。どうやら、こう言われていたようです。」
――――――公爵家の力で、優しいサザエルがマナを押し付けられた。 と。
ぴくっと、アリスの片眉があがった。
マナは、ただでさえ自分の体が弱いことや、耳が聞こえない、話せないことを引け目に思っている。
それなのに、そんなことを言われたのか…!
「アリスさま。ただし、これは面と向かって言われたわけではありません。女性職員同士の会話です。彼女たちは平民ですからね、公爵家の令息であるマナ様には面と向かって言いませんよ。ですが、マナ様は、最近、読唇術をマスターしていたようです。彼女たち同士の会話を、唇を読んで知ってしまったのでしょう。」
「……なるほどな。まいったな、これは動きづらい…。」
下手に王家や公爵家が動けば、彼女たちの空想を裏付けたように見えてしまう。
彼女たちは本気で、二人が愛し合って婚約しているのではなく、『お荷物』のマナを公爵家が恩を売って子爵家に押し付けていると、そう思っているのだから。
自慢の主人の幸せを願っているのだ。
見当違いなだけで…。
そうじゃないんですよーとウチから言っても説得力はまるでない。
「お兄さま、アイ。俺の方は、公爵家の周りをちょろちょろしてた男爵令嬢を調べてみたよ。」
「で、どうだった?」
アヴニールは肩をすぼめる。
「彼女の方は、二人が本当に愛し合ってるって気づいたみたいで、反省していたよ。まさか、マナが発作を起こしたとは思わなくて、謝ってた。体の弱いマナでは、女主は務まらないのに、サザエルがかわいそうって思ってたみたい。彼女の方も、それほど悪ってわけではないんだよ。」
「……まあ、事実は事実として状況は両家の親には報告したほうがいいだろう。どっちも荒れそうだなあ。この場合、何にぶつけていいかもわからないからなあ。」
アリスはひとしきり考えて。
ちょっといいアイディアを思いついた。
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