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5. ケシュタクについて
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蜘蛛の巣のように張り巡らされた車道に行列を作る車から鳴る、不機嫌なクラクションの応酬は、決して止まず、歩道を行き交うビジネスマンの、定型文を不規則に並べただけの表層的な電話のやりとりは、昼夜絶えることはなく、森林に茂る木々のように立ち並ぶビル群のどこかでは、常に地を掘るドリルや、クレーンのきしむ音が聞こえてくるものでございます。
ケシュタクの喧騒が止んだことは一度もございません。街が設立されて以来一度もです。
しかし、その騒々しい音の数々に本質などは存在いたしません。重苦しい渋滞を超えた先に車が向かうのは、また異なる車道の異なる終着地へ向かっているように見せかけた、牛歩の行列の一員に加わり、死体を揺り起こすが如く無意味なクラクションを鳴らし、前方の哀れな仇を煽り立てること自体を主体とした、また別の交通渋滞の最後尾であり、耳にスマートフォンを当てながら、にこやかな顔と声色で、心なき音の羅列を発信する紺のスーツを纏ったビジネスマンの群れは、筒に閉じ込められた昆虫が、円の空間を行き来しながら触角で壁をつつき回るかのように、街の同じ区間を何度も往来することによって、街の活気とやらをただ演出しているに過ぎないのでございます。
また、ケシュタクでは骸骨のような姿をした建設途中のビルがよく見られます。しかし、これらのビルが完成することはございません。黄色い蛍光ベストを着、白いヘルメットを被った作業員が、肩に細長いパイプを担いだり、得体の知れぬ機械を操作していたり、巨人の腕のようなクレーンを操作し、何十トンもあるであろう鉄骨を吊り下げたりなど、ビルを建てるためのれっきとした手順を踏んでいるはずなのですが、一向にテープカットまでにこぎつける様子が見られないのです。まるで、ある一定の高さまで築き上げた後に、建てては解体をする徒労を何年、いやはては何十年も延々と繰り返しているかのようでございます。
ある日、私がホテルにて新たな地へ旅立つための荷造りをしていたところ、外で車の大きなスリップ音が聞こえました。
何事だと窓から顔を出し、ホテルの下の道を覗いてみたところ、そこには歩道に乗り出した車と、近くでうつ伏せになって倒れているサラリーマンの姿がありました。どうやら接触事故が起こったようでございました。
しばらくすると、けたたましいサイレン音とともに救急車が到着し、救急隊員が事故現場をブルーシートで覆いました。
私は撥ねられた男の行末が気になりましたが、もう出発の時間でしたのでやむなくホテルを出、ブルーシートと、それに群がりスマートフォンを向ける人々を尻目に、新たな国へと向かいました。
きっと男を乗せた救急車は、街の喧騒に新たにサイレンの音と点滅を加え、永久にケシュタクを彷徨い続けるのでしょう。
ケシュタクの喧騒が止んだことは一度もございません。街が設立されて以来一度もです。
しかし、その騒々しい音の数々に本質などは存在いたしません。重苦しい渋滞を超えた先に車が向かうのは、また異なる車道の異なる終着地へ向かっているように見せかけた、牛歩の行列の一員に加わり、死体を揺り起こすが如く無意味なクラクションを鳴らし、前方の哀れな仇を煽り立てること自体を主体とした、また別の交通渋滞の最後尾であり、耳にスマートフォンを当てながら、にこやかな顔と声色で、心なき音の羅列を発信する紺のスーツを纏ったビジネスマンの群れは、筒に閉じ込められた昆虫が、円の空間を行き来しながら触角で壁をつつき回るかのように、街の同じ区間を何度も往来することによって、街の活気とやらをただ演出しているに過ぎないのでございます。
また、ケシュタクでは骸骨のような姿をした建設途中のビルがよく見られます。しかし、これらのビルが完成することはございません。黄色い蛍光ベストを着、白いヘルメットを被った作業員が、肩に細長いパイプを担いだり、得体の知れぬ機械を操作していたり、巨人の腕のようなクレーンを操作し、何十トンもあるであろう鉄骨を吊り下げたりなど、ビルを建てるためのれっきとした手順を踏んでいるはずなのですが、一向にテープカットまでにこぎつける様子が見られないのです。まるで、ある一定の高さまで築き上げた後に、建てては解体をする徒労を何年、いやはては何十年も延々と繰り返しているかのようでございます。
ある日、私がホテルにて新たな地へ旅立つための荷造りをしていたところ、外で車の大きなスリップ音が聞こえました。
何事だと窓から顔を出し、ホテルの下の道を覗いてみたところ、そこには歩道に乗り出した車と、近くでうつ伏せになって倒れているサラリーマンの姿がありました。どうやら接触事故が起こったようでございました。
しばらくすると、けたたましいサイレン音とともに救急車が到着し、救急隊員が事故現場をブルーシートで覆いました。
私は撥ねられた男の行末が気になりましたが、もう出発の時間でしたのでやむなくホテルを出、ブルーシートと、それに群がりスマートフォンを向ける人々を尻目に、新たな国へと向かいました。
きっと男を乗せた救急車は、街の喧騒に新たにサイレンの音と点滅を加え、永久にケシュタクを彷徨い続けるのでしょう。
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