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第3章

舞踏会と尾ひれ 3

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 抱きしめられたお姉様。
 彼女を抱きしめるのは、王子様だ。

「この国は、王位継承できなかった王子は、辺境に送られるのよ。過酷な場所ばかりだわ」
「ああ。だが、海に囲まれた島になるよう、手は回してある」
「人魚は王子とは」
「ああ。俺は、もう王子ではない」

 大変なことになっている。
 王子様って、辞められるものなのだろうか。
 ルクス殿下は、いい王様になりそうな気がするのに。

「…………魔法。誰に頼んだの」
「ああ、魔術で手を尽くしても、ナティアを手に入れるどころか、見つけることすら叶わなかったから」
「今の魔法で、あんなに強かった、あなたの魔力がほとんどなくなってるわ」
「そうだな。魔力の強さが、王位継承権に大きく関係するこの国で、俺の王位継承はもうあり得ない」

 ……お姉様が、絆されてしまう。逃げていながらも、たぶんお姉様は、陸に上がっては、ルクス殿下のことを見ていたに違いない。

「どうして、そんなことをするの。王位継承権だけで済むかなんて、誰にもわからないのよ。魔法の対価は」

 きっと、それがわかっているから、お姉様は王子に二度と会わないと決めたのだ。
 けれど、それでも恋しくて。

 そして、私を迎えに来て、見つけられてしまった。
 溺れかけた王子様は、人魚姫に助けられて、恋に溺れてしまった。
 人魚は、溺れた王子様を助けたつもりで、自分が恋に溺れてしまった。

 それは、物語の因果なのだろうか。
 人魚姫には、幸せになれる物語は、ないのだろうか。

「まあ、今はまだ、誰にも知られていないから、問題ない。それに、クラウスのためにも、もう少しだけ王子を演じるさ」

 人魚が海の中で息をするのは、自然の摂理。
 一方、自然の摂理を外れた魔法には代償が必要だ。

「君の、妹の幸せのためにも。わかるだろう?」
「ずるい人だわ」

 お姉様は、騎士服がよく似合う。
 認識阻害が消えてしまったから、水色の髪の毛は鮮やかに輝いて、結い上げられた髪、男装の麗人という言葉がよく似合う。

「……何を引き換えにしたって、ナティア、君を手に入れる」

 巻き込まれたらしい、妹人魚姫。
 ……でも、クラウス様のためにって?

 クラウス様は、難しい顔をしている。
 でも、クラウス様のためといったら、一つしかないよね。
 そう、王族の命令に逆らうことができないクラウス様。その原因も、理由も、まだ教えてもらっていないけれど。

「王子と人魚が幸せになれないのなら、違う形を選べばいい」
「俺には、そのつもりは」
「あはは。その、持って生まれた魔力量のせいで、生まれながらに誓約魔法をかけられた、王家の忌子。その縛めから逃れるには、一つしか方法がない。わかっているくせに」

 完全に王家のお家騒動に巻き込まれた予感。
 それは、現実で。話を要約すれば。

「こちらも王子。どうして、妹まで運命に巻き込まれているの」

 お姉様の言葉には、全力で同意したい。
 しかも、私の髪色は、聖女を表す桜貝の色で。
 これは、嵐が来る前にいつも感じる、細やかな海水の振動と同じだ。

「俺は、王子の地位を捨てて、恋しい人魚に愛を請う。お前はどうするんだ、クラウス?」

 物語は動き出す。それは、二組の人魚姫と王子様の物語なのだ。
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