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幸せな家族 2
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食事会が終わると、アルベルトは私のことを散歩に誘った。
夜風に軽く肩をふるわせると、アルベルトはマントを外して私の肩にかけてくれた。
残されたわずかな体温が幸せな気持ちにさせてくれる。
そこで私は先ほどの話について、アルベルトに聞いてみることにした。
「アルベルト」
「さっきの話か……」
「そうよ。一体どういうことなの?」
アルベルトは少しだけ視線を彷徨わせ、そのあと星空を眺めた。
答えを急かすのはやめて、私も一緒に星空を眺める。
美しい星々は白く、青く、時に赤く輝いている。
「……そうだな。感情が完全になかったわけではないんだ」
「……うん」
「ただ、魔術だけが目の前にいつもあっただけで」
「そう」
アルベルトは幼いころから神童、そして魔術の天才だと言われていたという。
フール様があまりにも長くその席にいるから過去のこととして忘れられているけれど、歴代の筆頭魔術師たちは変わり者がとても多い。
魔術にしか興味がない彼らが起こした事件は数多く、禁止された魔法を使おうとした者、実験の果て多数の命を奪った者、強大すぎる力に溺れてしまった者も多くいた。
それでも、筆頭魔術師達の功績は計り知れず、彼らがいなければこの王国の繁栄はなかったに違いない。
初代筆頭魔術師の兄弟はそれぞれが王家、デルフィーノ公爵家、ローランド侯爵家の始祖となった。
それぞれが強い魔力を持ち、とくにデルフィーノ公爵家とローランド侯爵家は交互に筆頭魔術師の人についていた。
(……アルベルトも強い魔力を持って生まれたのよね)
「俺より強い魔力を持つ人間は周囲にいなかったし、幼いころから筆頭魔術師になると疑っていなかった」
「そうね。アルベルトならなれるわよね」
まっすぐ見つめていると、アルベルトが口元を軽く緩めて微笑んだ。
「悪名高い筆頭魔術師になっただろう」
「……アルベルトが?」
「そう、君がいなければ人の心なんて持たずにいただろうから」
「……そうかしら」
確かに私が切っ掛けになったのかもしれないけれど、魔力を制御できれば感情を取り戻す子どもが多いと聞いたことがある。
たまたま私と出会った時期がその時期と重なっただけという可能性が高いだろう。
(なるほど。どうしてアルベルトが魔力だけが取り柄の地味な私なんかを好きになったのか、わかってしまったわね……)
偶然が重なったのだ。感情を失うほど大きな魔力を持っていたアルベルトがそれを制御したとき、たまたま目の前にいたのが私だったというわけだ。
アルベルトは初めて感情を取り戻したときに、目の前にいた私のことを好きだと認識してしまったのだろう。
(雛が初めて見た物を親と認識してしまうようなものかしら……)
「何か勘違いしているようだが、俺は君のことを……」
「ふふ。構わないわ」
「え……?」
「運命であり、必然だったということにすれば良いと思うから」
「……」
もちろん、それがきっかけという考えは間違いないだろう。
偶然が重なって、私たちは恋に落ちたのだ。
だから、あのときアルベルトの前に他の女生徒がいたなら、なんて考える必要はないだろう。
もしも、魔力だけが自分の価値だと思っていた、魔力を失う前の私がその事実を知ったなら同じ考えには至らなかっただろうとしても……。
「綺麗な星空ね」
「ああ、君と一緒に見る星空は美しいな」
「そうね。私もそう思うわ……。アルベルトと一緒に見ると、いつもよりも星空が美しく思えるの」
それは幸せな時間だ。
手と手を取り合って空を見上げれば、いつもよりも美しく見える。
なんて素敵なことだろうか。
「ずっといっしょにいてほしい」
「ええ、喜んで」
「結婚してほしい」
「いいわよ」
「えっ……」
なぜ、この場面で驚くのだろうか。
ずっと一緒にいるなら、結婚というのは一つの答えに違いないのに。
ガサガサと音がして視線を向ければ、ジルベルト様が草の影に隠れてこちらに親指を立てていた。
一緒に聞いていたのだろう。ミラベル様がジルベルト様の首根っこを掴んで引きずっていった。
「……く、ふふ」
「あいつら……」
アルベルトがため息をついた。
そっと腕を絡めれば、甘い口づけが落ちてくる。
星空の下で私たちが交した結婚の約束。
それは幸せな日々を約束しているようだった。
夜風に軽く肩をふるわせると、アルベルトはマントを外して私の肩にかけてくれた。
残されたわずかな体温が幸せな気持ちにさせてくれる。
そこで私は先ほどの話について、アルベルトに聞いてみることにした。
「アルベルト」
「さっきの話か……」
「そうよ。一体どういうことなの?」
アルベルトは少しだけ視線を彷徨わせ、そのあと星空を眺めた。
答えを急かすのはやめて、私も一緒に星空を眺める。
美しい星々は白く、青く、時に赤く輝いている。
「……そうだな。感情が完全になかったわけではないんだ」
「……うん」
「ただ、魔術だけが目の前にいつもあっただけで」
「そう」
アルベルトは幼いころから神童、そして魔術の天才だと言われていたという。
フール様があまりにも長くその席にいるから過去のこととして忘れられているけれど、歴代の筆頭魔術師たちは変わり者がとても多い。
魔術にしか興味がない彼らが起こした事件は数多く、禁止された魔法を使おうとした者、実験の果て多数の命を奪った者、強大すぎる力に溺れてしまった者も多くいた。
それでも、筆頭魔術師達の功績は計り知れず、彼らがいなければこの王国の繁栄はなかったに違いない。
初代筆頭魔術師の兄弟はそれぞれが王家、デルフィーノ公爵家、ローランド侯爵家の始祖となった。
それぞれが強い魔力を持ち、とくにデルフィーノ公爵家とローランド侯爵家は交互に筆頭魔術師の人についていた。
(……アルベルトも強い魔力を持って生まれたのよね)
「俺より強い魔力を持つ人間は周囲にいなかったし、幼いころから筆頭魔術師になると疑っていなかった」
「そうね。アルベルトならなれるわよね」
まっすぐ見つめていると、アルベルトが口元を軽く緩めて微笑んだ。
「悪名高い筆頭魔術師になっただろう」
「……アルベルトが?」
「そう、君がいなければ人の心なんて持たずにいただろうから」
「……そうかしら」
確かに私が切っ掛けになったのかもしれないけれど、魔力を制御できれば感情を取り戻す子どもが多いと聞いたことがある。
たまたま私と出会った時期がその時期と重なっただけという可能性が高いだろう。
(なるほど。どうしてアルベルトが魔力だけが取り柄の地味な私なんかを好きになったのか、わかってしまったわね……)
偶然が重なったのだ。感情を失うほど大きな魔力を持っていたアルベルトがそれを制御したとき、たまたま目の前にいたのが私だったというわけだ。
アルベルトは初めて感情を取り戻したときに、目の前にいた私のことを好きだと認識してしまったのだろう。
(雛が初めて見た物を親と認識してしまうようなものかしら……)
「何か勘違いしているようだが、俺は君のことを……」
「ふふ。構わないわ」
「え……?」
「運命であり、必然だったということにすれば良いと思うから」
「……」
もちろん、それがきっかけという考えは間違いないだろう。
偶然が重なって、私たちは恋に落ちたのだ。
だから、あのときアルベルトの前に他の女生徒がいたなら、なんて考える必要はないだろう。
もしも、魔力だけが自分の価値だと思っていた、魔力を失う前の私がその事実を知ったなら同じ考えには至らなかっただろうとしても……。
「綺麗な星空ね」
「ああ、君と一緒に見る星空は美しいな」
「そうね。私もそう思うわ……。アルベルトと一緒に見ると、いつもよりも星空が美しく思えるの」
それは幸せな時間だ。
手と手を取り合って空を見上げれば、いつもよりも美しく見える。
なんて素敵なことだろうか。
「ずっといっしょにいてほしい」
「ええ、喜んで」
「結婚してほしい」
「いいわよ」
「えっ……」
なぜ、この場面で驚くのだろうか。
ずっと一緒にいるなら、結婚というのは一つの答えに違いないのに。
ガサガサと音がして視線を向ければ、ジルベルト様が草の影に隠れてこちらに親指を立てていた。
一緒に聞いていたのだろう。ミラベル様がジルベルト様の首根っこを掴んで引きずっていった。
「……く、ふふ」
「あいつら……」
アルベルトがため息をついた。
そっと腕を絡めれば、甘い口づけが落ちてくる。
星空の下で私たちが交した結婚の約束。
それは幸せな日々を約束しているようだった。
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