魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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幸せな家族 1

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 いろいろあったけれど、私たちはそろってローランド侯爵家へと戻った。

「お帰りなさい姉様!」
「お帰りなさい。シェリアお姉様」

 双子のジルベルト様とミラベル様が出迎えてくれる。
 二人は王立学園で一、二を争っているという。アルベルトに似てとても優秀だ。
 二人に笑顔を向けて手を引かれて食堂へと向かう。

 ふと振り返るとアルベルトは表情を消してどこか物憂げだ。

 食堂に並べられた食事、ローランド侯爵夫妻が笑顔で出迎えてくれた。
 ローランド侯爵家の食事は、栄養が考えられて無駄な豪華さがない。
 けれど今日は特別豪華でケーキだけでなく大きなローストビーフまである。

「何かのお祝いですか?」

 席に座りながら質問すると、ジルベルト様が不思議そうに首をかしげた。

「どうして?」
「どうしてって」
「兄様は副筆頭魔術師に、姉様は部屋持ちの魔術師になったんだ。お祝いに決まっている」
「……あ」

 今まで何かを成し遂げても、家族に祝われた経験がなかったからわからなかった。
 まさか私たちのお祝いのためにこの食事が用意されたなんて想像もしていなかったのだ。

 チラリと視線を向けるとアルベルトは少しも嬉しそうではなかった。
 軽く肘で突くと、驚いたように目を見開いてアルベルトはこちらに視線を向けた。

「……少しは嬉しそうな表情できないの?」
「……え?」

 意外なことを言われたとでもいうようなアルベルト。
 こんなふうに家族に祝って貰ったなら、私なら感激で最高の笑顔を見せるに違いない。

「アルベルトお兄様はいつもこんなだから、お祝いしがいがないのよね」

 ミラベル様が苦笑しながら呟いた。
 
(え、でもアルベルトはあんな不細工な刺繍のハンカチ一つでもあんなに喜んで……)

「確かに、兄様には感情がないのかと思っていたけど……。姉様に会うまでは家でもにこりとも笑うことがなかったから……」
「えっ、アルベルトは出会ったときから」

 チラリと視線を向けてみれば、アルベルトは何かを考え込んでいるような表情をしていた。
 顔を上げると、ローランド家の全員が何かを思い出すように暗い雰囲気を醸し出している。

(……え? どういうこと)

 アルベルトは出会った瞬間から感情豊かだった。
 私の知っているアルベルトは、怒りっぽくて、喜怒哀楽がはっきりしていたのだ。

「アルベルトは子どものころから魔法に魅入られたみたいに、それしか興味のない子どもだったの」
「……たまにいるんだ。魔力量が多すぎると、魔力にしか目を向けられず感情が欠落してしまう子どもが」

 魔力過多による感情の欠落。聞いたことがある。そこまでの魔力量を持つこと自体があまりにもまれだから、その症例は少ない。

「アルベルト?」
「……事実だ。君に出会うまで、魔力の霧に阻まれて良く見えないような世界にいた」
「……どうして」
「君に出会った瞬間、霧が晴れた気がした。眩しくて、元の場所に戻りたくても戻ることができなくて」

 出会ったころのアルベルトは、いつも一人だった。
 私に対してはどこか子どもみたいに感情豊かな部分があったけれど、その他では全てが完璧でそれでいてどこか冷たい印象だった。

「君だけが俺に心を与えてくれるから」
「……えっと」

 お祝いの席のはずなのに、微妙な空気になってしまった。
 チラリと助けを求めるように視線を向けると、執事長のビブリオさんがにっこりと微笑んで手を叩いた。

「さあ、祝いの席です。まだまだ食事をお持ちしますので楽しんでくださいませ」

 その言葉と共にグラスが傾けられた。
 ジルベルト様とミラベル様は木イチゴのジュースを飲み、私たちは木イチゴのお酒を口にした。

「と言うわけで、こんな兄様だけど末永くよろしくね」
「こんな、とは何だ」
「だって、姉様がいない間、やっぱり魔術ばかりだったじゃないか」
「……それは」

 楽しい食卓。朗らかな笑顔と笑い声。
 困ったような表情を浮かべたアルベルトは、先ほどまでと違ってどこか嬉しそうにしている。

 その夜、お祝いの食事会は夜遅くまで続いた。

(あれ? 使い魔は魔力だけ食べれば他に食事はいらないはずなのに)

 フィーも骨付きのお肉を貰って嬉しそうに食べていた。
 まるで、本当の犬になってしまったように。

 
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