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闇魔法の研究 2

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 ローランド侯爵家は、筆頭魔術師を輩出する魔術の大家。
 
「研究室……。すごい! 広いし、設備がものすごく良い!」
「何でまだ見に来ていなかったんだ。誰よりも好奇心旺盛なくせに」
「勝手に人の家を見て回るのも……」
「……マスターキーを渡してあったはずだ」
「……そうね。今となっては使用不可能だけど」

 取り出したマスターキー。
 しかし、そこで金色に輝いていた魔石は、今は完全に魔力が空になって透明になってしまっている。

「……魔力がなくなってから、アルベルトに貰った魔石で魔道具を稼働させてきたけど」

 この大陸、とくに魔術が発達してそれらの恩恵を受けている王都では、魔力なしで暮らすのは困難だ。
 もちろん辺境へ行けば今も魔道具なんて整備されていないから、魔力がなくても人力で動かせるものも多いかもしれないけれど……。

「闇の魔力を手に入れてから、魔道具が動かせなくなってしまったわ」
「そうだな……。だが、闇魔法の恩恵は計り知れない。とにかく研究だ」
「そ、そうね!」

 未知のものを研究するのは心躍ることだ。
 とくに、それによって得た知見を話し合える仲間が隣にいるならなおさらだ。

「まずは、他の属性を打ち消してしまうことについて検証しないとね」
「そうだな。まずは仮説を立てるか……」

 闇魔法が他の属性を打ち消してしまう。それについては、文献を読めば最初に書かれている。
 その逆もしかりであり、だからこそ闇魔法を使える人は数少ないのだ。

「……でも、アルベルトはフィーを召喚したわ」
『ふぉん!』
「フィーは無属性だと思っていたけれど、闇属性なのよね……?」

 アルベルトは先ほどから私たちにじゃれついて邪魔をしているフィーに視線を向けた。
 ここまで起こったできごとから考えて、おそらくそれは間違いないだろう。

「そうだろうな……。闇属性の使い魔であれば、俺には召喚できない」
「ではどうして……」
「だが、以前君に召喚されたフィーは君が持っていた他の属性の魔力のせいで闇属性の魔力を打ち消されて、ただの犬と同等だった」
『ふぉ……ふぉん!?』

 フィーがショックを受けたような鳴き声を上げた。
 不思議な空間で出会ったフィーは、真っ黒な毛並みをしていた。
 今、私の中に満たされているのはフィーが持っていた闇の魔力に違いない。

「ただの犬程度、俺が召喚できない訳がなかろう……。痛いぞ、フィー」

 怒ったフィーがアルベルトの前腕に噛みついている。
 
(今のはアルベルトが悪いと思う……)

 フィーとじゃれ合うアルベルトから視線を外して考える。
 アルベルトの言い方は悪いかもしれないけれど、それは一つの事実なのだろう。

(火、水、風、土、そして光……。たくさんの魔力を持っていた私に召喚された闇属性のフィーは色合いが真っ白になって力を失った)

 だからこそ、あの魔法陣を起動させたアルベルトがフィーを再召喚できたのだろう。
 現在フィーは魔力を取り戻し始めているのか、銀色の毛並みになっている。
 今の状態やあの黒い姿だったなら、アルベルトが呼び出すことができなかった可能性は高い。

「でも、あの魔法陣は……」
「使い魔自体は、闇魔法の使い手でなくても召喚できる。あれは、他人の使い魔を召喚できるという内容に書き換えられていただけだ。ただし、闇属性の使い魔を召喚したという例は、初代筆頭魔術師の使い魔以降ない」
「……ん?」

 フィーを見つめると、ものすごく自慢気に胸を反らしていた。
 初代筆頭魔術師とフィー。
 不思議な本と初代筆頭魔術師。
 レイラ様と初代筆頭魔術師の記憶。

(何もかも全てが繋がっているように思えるのは……)

「それについても検証の余地があるが、それよりも今一番なんとかしなくてはいけないのは、君の日常生活だ」
「そうねぇ……。このままではあまりに不便だわ。でも、他にも検討することが山積みなのに私のことを優先してもいいものなのかしら」
「俺は一生そのままでも構わないが……。手取り足取り君の日常生活のあれこれを全て俺が世話してやろうか? それはいいな、そうするか……」
「とても嫌だわ……!?」

 こうして他の属性との共存と、闇魔法を持った私が日常生活をまともに送れることを目標に研究をすることが決定したのだった。
 アルベルトが『手取り足取り』と言った時に、なぜか瞳から光が消えていた気がしたのは、気のせいだったことにしようと思う。

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