魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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筆頭魔術師の席 1

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白い部屋。
幼い頃からユーデットがよく過ごしていた病室だ。
扉を開けて開けるとバタバタと人が走り回っている。
それはそうだ。許された姫が毒を盛られたのだから。
俺は体を支えていた護衛達の手を振り払い、そのまま部屋に足を踏み入れた。
一歩一歩ベッドに近づくとゆっくりとユーデットの顔が見えてきた。
ぐったりとした体に真っ青な顔。
俺の心臓がドクンと脈打つ。
まだ、着替えてもいないのだろう。血のついたドレスを着たままだ。
俺はそのままユーデットのベッドに足をすすめる。
「ユアン王子……」
情けないジェイクの声が聞こえたが俺はユーデットから目を離さない。
そして、ベッドに両手をついた。
ギシッとなったベッドにもユーデットは目を開けない。
「ユアン、君は大丈夫なのか?」
シャール兄上が心配そうに尋ねる。それも無視して俺はユーデットのみを視界に入れる。
今度は間に合わせてみせる。
あの時は遅かった。自分という物を理解するのが遅かったのだ。
だから、俺はここにいる。
俺はユーデットの額に自分の手を当てた。
ビクッとする程冷たい。
「ユアン、一体何を……」
俺は自分の心を研ぎ澄ませる。そして、望みを心から願う。
「俺の望みはユーデットをこの世に取り戻すこと」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で願いを口にする。
「俺の望みはユーデットが目覚めること」
俺の体から何かが溢れるの感じる。
「俺の望みは……」
その時、辺りが眩い光に包まれる。
そして、俺は見覚えのある場所に立っていた。
「また…‥来たの?」
俺の目の前には白に近い金髪を足下近くまで伸ばしている絶世の美女が立っている。
俺は一度目を閉じると覚悟を決めて目を開ける。
「今度は間に合ったはずです」
強い視線に美女はカラカラと笑う。
「そうね。確かに貴方の大切な人はまだ死んでないわね。今度は」
そう言ってニヤリと微笑んだ。
そう。俺にとってこの人の印象はこの顔なのだ。腹黒くて残忍な印象。
「あんた、女神って呼ばれてるよな?」
「まぁ、そうね。勝手にだけど」
「俺は何だ?」
「うーん、そうねぇ。女神様のお気に入り?」
「……」
美女は両手を後ろで組むと俺に顔を近づけてくる。
「でも、貴方は特別ね。いくつかの世界でもお気に入りだったから」
「おい! どういうことだよ!」
「まぁ、いいじゃない? 貴方を見てると楽しいのよ」
俺は美女をキッと睨む。
「あら、怖い。はいはい、わかりましたよ。貴方はお気に入りだからお願いを聞いてあ・げ・る」
「あんた!」
美女が手をくるりと回して空中で丸を描くとその中にユーデットが見える。
まだ、青白く死にそうだ。
「本当はね。私、この子のこと大嫌い」
そう言ってユーデットの顔をピンっと弾く。すると、空中に浮かぶ映像のユーデットも顔を顰める。
「やめろ!」
「貴方と一緒にいるこの子が嫌いなの。でも、貴方のお願いだから仕方なく助けるのよ。よく覚えておきなさい」
美女はそういうと映像のユーデットに手の平を当てる。
するとユーデットの体が鈍く光りを放つ。
「貴方の魂を縛り付けるこの子が嫌いよ。貴方は私の転生者なのに!」
そう言って美女がユーデットの体の光を集めるように手を握り込む。
そしてその手を開けると小さな瓶が現れた。
「これが毒なのか?」
「そうよ」
俺が奪おうと手を出すと美女は一歩下がる。
「俺に渡せ」
美女を睨みつけている横でユーデットの顔色が劇的に良くなったことを確認する。
集まっていた医師達が興奮気味にユーデットの現状を確認し始める。
絶望に包まれていた空気が少しだけ和らいだ。
「そうねぇ。どうしようかしら?」
小瓶を指て挟みながら、美女がニコッと微笑む。
「取り敢えず、これから五年はあの子と離れてよ!」
「何言ってるんだ!」
「だってー、前の時だって貴方の望みはあの子も一緒に生まれたいだったでしょ? いい加減私だって嫌になっちゃうわ」
「それはあんたが望みを聞いたからだろ!」
「それはね。ここまで来ないと貴方は自分が私の転生者だって気づかなかったからよ」
そう言って美女は顔を歪める。
「貴方にはきちんと代償を払う理由があるでしょ? 転生者のくせに妹まで一緒に、転生させてやったじゃない! しかも今回は命まで助けたわ」
俺は何も言えなかった。
確かに俺は前世でもここ来た。そして、あいつの命が尽きていることを聞くと一緒に転生することを望んだ。そして、今回は命を。
「何が望みだ」
「やっと、聞いてくれたのね。今までの転生者でここまで来れた人も少なかったけど私に望みを聞いた人はいなかったの!!」
美女が両腕伸ばしてアハハハハと笑う。
「私の望みは馬鹿みたいな女神信仰を壊すこと」
「なに?」
「貴方は自分が作ったジオラマが、勝手自分を捻じ曲げて崇めたらウザくない?」
美女は醜悪に笑う。
「小さな者はそれだけで生きればいいのに私を引き合いに出すなんて本当にいや!」
「だから、俺はあの国に生まれたのか?」
「そうね。あの国を作ったのも転生者だったわ。あの転生者は生意気だったけど、私を崇めなかった。だから、少しだけ力を貸したの」
くるりと回ると俺の顔にその綺麗な顔を寄せる。
「でも、あいつらをやっけることは出来なかったわ」
躾のなっていない犬を見つめるように空を見つめる。
「それからもあの国に何人も転生者を生まれさせたけど、誰もここには来なかったわ。それなのに、あの世界にいない貴方が来たんだもの。それは運命でしょ?」
女神が運命を語る妙に顔を顰める。
「あの不届き者を壊滅させなさい」
俺が命じられたのは神殿の壊滅だった。

「取り敢えず五年は準備期間よーー」
そんな声を聞きながら俺は戻ってきた。
「ユアン!! 大丈夫? また顔が真っ青よ」
エリー姉上がこちらを見ているが俺の目に入ったのは白い司祭服だった。
そういえば解毒のために司祭を呼んだと言っていたな。
俺がユーデットの額に手を当てていた時間はほんの数秒だったようだが、直ぐにユーデットの容態が好転したのは明らかだ。
そして、誰もが突然顔色が良くなったユーデットの注目している中、この司祭たちは俺を見ていた。
「バレたか……」
自分たちと同じ解毒の力があることがわかったのか、それとも俺が転生者だとわかったのかはわからないが、司祭がユーデットではなく俺に注目している。
「五年は一緒にいるな……か」
女神が言っていた言葉はこういうことか。俺は妙に納得して顔を天井に向けた。
ユーデットを助けたことに後悔はない。前回は間に合わなかったのだ。
それでもこれからこのユアンという人生は大変だろうことは予測できた。
俺はもう一度ユーデットの顔を見る。
呼吸も楽そうだし、顔色も良い。もう大丈夫だな。まぁ、やるしかないか。俺は覚悟を決めた。
あの美女が見せてきた毒の瓶は脅しだ。
もし、俺が言うことを聞かなかったらあの女は絶対にあの瓶を使うだろう。
俺は手を握り締めると覚悟を決めた。
まずはユーデットに毒を盛った馬鹿野郎を捉えて、二度とこんなことが起こらないようにする。その後であの美女との約束を果たす。これでいくか。
俺はどちらにしろシャール兄上に話すしかないなと息を吐き出した。
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