43 / 68
時の魔法 2
しおりを挟む途中から視界を遮るように現れた霧のせいで真っ白なフィーの姿を見失ってしまった。
それでも前に進んでいくと急に視界が晴れる。
気がつけば目の前に一人の美しい女性が立っていた。
(……漆黒の髪と瞳)
微笑んだ女性は強い魔力を持つとわかる。
『ふぉんっ!!』
フィーが嬉しそうに鳴いて、その女性に駆け寄り、そして体をこすりつけた。
「……フィーを以前使役していた人?」
使い魔は人とは違い長い時を生きる。
人に好意的な使い魔の一部は、繰り返し人からの呼びかけに応じるという。
あれだけ懐いているのだ。
思わず唇からこぼれた言葉は、事実に違いない。
尻尾をブンブン振って女性の周りを回っていたフィーは、しばらくして満足したのか私の元に戻ってきて額をこすりつけてきた。
『……』
女性は微笑むばかりで何も口にしない。
「あれ?」
けれど、気がつけば私の手元から例の本が消えていた。フィーから視線を外して女性を見つめる。
パラパラと本を開いて軽く首をかしげていた。
左から右、そして再び左から右へと忙しなく移動していく視線。
(あの本の文字が見えているの……? それなら彼女は魔力を持たないのかしら)
気がつけば、私は再び本を持っていた。
先ほどと違うのは、ページが開かれていることだ。
(……使える、この魔法)
心臓の鼓動に合わせて私の全身を脈打つように流れていく何か。
それは明らかに失ってしまったどの魔力とも違う異質な存在だ。
(……闇の魔力)
他の魔力に打ち消され、共存できないという闇の魔力。
(……だから違う、あの女性は魔力が無いのではなくて)
慌てて顔を上げたけれど、すでに女性の姿はなかった。
今になってわかる、この本の文字は闇の魔力を帯びている。
魔力を持つ人たちがこの本の文字を見ることが出来なかったのは……。
(……闇の魔力が他の属性の魔力に打ち消されてしまうからだったのね)
もう一度、ページに描かれた魔法陣を見つめ、それが発動する魔法を想像する。
――私は正確に魔法陣を再現することはできない。
だから自由に、漆黒の魔力を纏った指先が求めるままに魔法陣を描いていく。
金色の光を時々帯びた魔力は、まるで漆黒の夜と流れ星のようだ。
(……転移魔法。でもこれはほんの少しだけ)
目をつむる。けれどアルベルトのそばに行きたいのに、浮かぶのは違う場面だ。
金の髪の女性が倒れ、筆頭魔術師フール様が乾いた笑みを浮かべ彼女を抱き上げる。
(……だめ、間に合わない)
理由はわからないけれど、手遅れだと理解する。
(……もっと遡って)
次に浮かんだのは、微笑み手を差し伸べるレイラ様。でも、いつもの彼女ではすでに無い。
(……まだ、もっともっと)
魔石を持ったフール様が描いた魔法陣に横たわるレイラ様。
(ギリギリ間に合うかどうか。でも、ここまでが私の持つ魔力の限界)
それにしても、なぜレイラ様がフール様に囚われているのだろう。
ふと思い出したのは、レイラ様の家、デルフィーノ公爵家は初代筆頭魔術師の弟の子孫だということだ。
初代筆頭魔術師は子を残さず、その弟がその全てを継いだ。それが魔力が全てだとされるこの国の始まりだ。
闇魔法を使ったという筆頭魔術師。
今現在、闇魔法を使える人はいない。
(……ううん、私一人しかいない)
魔法陣を描ききる。
(アルベルトのそばにすぐに行ければ良かったけれど)
まだ扱いきれていないのか、これこそが必然なのか。
漆黒、そして流星群のような金色の輝きの魔法に導かれ私は時と場所を移動していく。
定められた運命に抗うように。
12
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
【短編】隣国から戻った婚約者様が、別人のように溺愛してくる件について
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
転生したディアナの髪は老婆のように醜い灰色の髪を持つ。この国では魔力量の高さと、髪の色素が鮮やかなものほど賞賛され、灰や、灰褐色などは差別されやすい。
ディアナは侯爵家の次女で、魔力量が多く才能がありながらも、家族は勿論、学院でも虐げられ、蔑まされて生きていた。
親同士がより魔力の高い子を残すため――と決めた、婚約者がいる。当然、婚約者と会うことは義務的な場合のみで、扱いも雑もいい所だった。
そんな婚約者のセレスティノ様は、隣国へ使節団として戻ってきてから様子がおかしい。
「明日は君の誕生日だったね。まだ予定が埋まっていないのなら、一日私にくれないだろうか」
「いえ、気にしないでください――ん?」
空耳だろうか。
なんとも婚約者らしい発言が聞こえた気がする。
「近くで見るとディアナの髪の色は、白銀のようで綺麗だな」
「(え? セレスティノ様が壊れた!?)……そんな、ことは? いつものように『醜い灰被りの髪』だって言ってくださって構わないのですが……」
「わ、私は一度だってそんなことは──いや、口には出していなかったが、そう思っていた時がある。自分が浅慮だった。本当に申し訳ない」
別人のように接するセレスティノ様に困惑するディアナ。
これは虐げられた令嬢が、セレスティノ様の言動や振る舞いに鼓舞され、前世でのやりたかったことを思い出す。
虐げられた才能令嬢×エリート王宮魔術師のラブコメディ
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる