魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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夜会 4

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 思いの外、疲労を感じることなく、残るのはただ高揚感。
 アルベルトも息ひとつ乱すことなく私に微笑みかける。

 私たちが踊り終えるまで、会場の端で大人しく待機していたフィーのそばに駆け寄る。
 相変わらず、私が近づくとぶんぶんと尻尾を振る姿は可愛らしい。

「フィー、おまたせ!」
『ふぉんっ』

 頭を撫でれば、ご機嫌であると表現して耳がご機嫌に外を向く。
 ある日突然会えなくなったあの日から、再開の日まで何度この感触を夢見たことか。

 そのとき、珍しいことにフィーが小さいけれど響く低いうなり声を上げた。

「どうしたの、フィー」

 すると、私を背中にかばうみたいにアルベルトが位置を移動した。
 そちらに視線を向ければ、そこにいたのは今日の主催者のデルフィーノ公爵だった。

 アルベルトの婚約者であっても、没落伯爵家の娘でしかない私は慌てて口を閉ざし深い礼をした。

「そんなにかしこまらなくても……。シェリア・ウェンダー伯爵令嬢。顔を上げてください。ごあいさつできませんでしたが、娘が学生時代には大変お世話になったと聞いています」
「恐れ入ります」

 ゆっくりと顔を上げる。
 目の前にいるのは、幾分か白髪が交じり淡くなった金髪に、レイラ様と同じ色のエメラルド色の瞳をした男性だった。
 優しそうに微笑んでいるけれと、四角い眼鏡の奥の瞳はいつも何かを見定めているかのように鋭い。

「それに、アルベルト君。久しぶりだね」
「ええ、ご無沙汰しております」
「本当に。君にはレイラと結婚してもらいたかったのに、本当に残念だ」
「……それについては、六年前にはっきりとお断りしたはずです」
「……筆頭魔術師には、なれそうかね?」
「ええ、おかげさまで」

 レイラ様とアルベルトに結婚の話が持ち上がっていたなんて初耳だ。六年前と言えば、王立学園に入学する前のことだ。
 二人にはそんなそぶりは少しもなかった。

「レイラ、来なさい」
「はい、お父様」

 タイミングを見計らっていたのだろう。
 公爵家の騎士にエスコートされてレイラ様が現れる。

 美しい日差しのような金の髪、草原よりも青いエメラルド色の瞳。
 微笑めば、会場中の視線を独り占めにし、誰もが息を呑むのがわかった。

「お久しぶりね。シェリア様」
「ええ、お久しぶりです。レイラ・デルフィーノ様」

 もう一度、丁寧に礼をする。
 学園時代は何度もいじめられる私を助けてくれて、気安く接してくれたレイラ様と私は天と地ほど立場が違うのだ。

 小さなため息が聞こえた。

「顔を上げてちょうだい。それに、あのころのようにレイラと」
「はい、レイラ様」
「私はアルベルト君と話がある。二人で話してくると良い」
「はい、お父様。シェリア様、行きましょう?」
「は、はい」

 あのころみたいに優しく笑うレイラ様。
 けれど、断続的に聞こえてくる小さな小さなフィーのうなり声だけが、私の心に不安をもたらすのだった。
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