31 / 68
夜会 2
しおりを挟むそして翌日は、とても大変だった。
アルベルトは朝食を慌ただしくとると、「健闘を祈る」と不思議な言葉を残して王立魔術院へと出勤した。
なぜかミラベル様に手を引かれて応接室へと向かう。そこには、見知らぬ人たちが揉み手しながら待っていた。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「この度は、ありがとうございます!!」
「!?!?」
にこやかな挨拶とともに、私は応接室から別室に連れ去られた。
そこには大きな鏡とたくさんの布、そしてにこやかな笑顔のミラベル様がいた。
「……これはいったい」
「ドレスを作るのよ」
「えっと、誰の」
「シェリアお姉様のドレスに決まっているでしょう? もちろん、私のドレスもついでに作っていいそうだけれど」
(夜会だからといって、この布の量は一体……)
見渡してみても白から黄色、黄色から緑、そして青に紫、赤と色を変える各種の布。
近づいてみれば、そのどれもが最高級品だ。
「……こちらのドレスは」
「見本品よ?」
「どうしてこんなにも大事に」
「……どうせ人目に触れるなら、最高に美しく着飾らせたい男心ね」
「……」
その言葉に私が着飾ったところでそこまで変わらない、と異を唱えようとしたけれど、手を引かれ鏡の前に立たされて次々と布をあてられていく。
「採用、不採用」
テキパキと指示を飛ばすミラベル様。
私にはどれが良いのかさっぱりわからない。
「お姉様の美しい白銀の髪とアイスブルーの瞳。神秘的に誂えるのも良いし、淡い花々でどこまでもロマンチックに甘く仕上げるのも捨てがたい」
「どれを着ても同じようなものだと」
「そう言っているお姉様の自信のなさを周囲の驚愕の視線で塗り替えてみせるわ! そうそう、知的で大人びた姿も外せないわね」
1時間ほどしてようやくすべての布地が分けられた。採用の布がそれでもかなり多いのは気のせいだろうか。
「そうね。それからレースも布に併せて選ばないと。その前にデザインを決めましょう」
呆然としているうちに、今度は生成りのドレスを次々着せられる。
すでにどれもが私のサイズにピッタリだ。
「もう、このドレスで良いのでは?」
「何を言っているんですか。もちろんこれは見本ですお姉様」
「だってもう完成しているのに!?」
「ここから、布あわせとレースやフリル、装飾品を選ぶのよ!」
「ええ~!?」
今度はすべてのデザインを着てみるのに2時間かかった。
途中、チラリチラリとジルベルト様が部屋をのぞき込んできてミラベル様に追い返されたり、ローランド侯爵夫人が商人たちに怒濤のごとく指示を飛ばしたりあっという間に時間が過ぎていった。
「やっと……決まったのね」
そしてようやく、夜会に着ていくドレスと、何に使うのか分からないドレスの注文を終えた私は、ぐったりとドレスにもたれかかる。
そんな私にミラベル様が笑顔を向けて恐ろしいことを口にする。
「まだよ?」
「え?」
「今回は予算上限なしだとお兄様が言っているのだから、もちろんこのままアクセサリーを選ぶわ!」
「そ、そんな!?」
「ふふ、すべてのドレスにそれぞれのアクセサリー。新進気鋭のジュエリーデザイナーばかり呼んだから、きっと会場の注目はすべてお姉様のものよ! それについでに、お兄様もお揃いの盛装を注文したから……!!」
「ひええ……」
アクセサリーのあとは靴と、夜遅くアルベルトが帰ってくるまで夜会の準備は続くのだった。
19
お気に入りに追加
602
あなたにおすすめの小説

“ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う
棚から現ナマ
恋愛
いままで虐げられてきたから “ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う? 侯爵令嬢のアイリス=ハーナンは、成人を祝うパーティー会場の中央で、私から全てを奪ってきた両親と妹を相手に “ざまぁ” を行っていた。私の幼馴染である王子様に協力してもらってね! アーネスト王子、私の恋人のフリをよろしくね! 恋人のフリよ、フリ。フリって言っているでしょう! ちょっと近すぎるわよ。肩を抱かないでいいし、腰を抱き寄せないでいいから。抱きしめないでいいってば。だからフリって言っているじゃない。何で皆の前でプロポーズなんかするのよっ!! 頑張って “ざまぁ” しようとしているのに、何故か違う方向に話が行ってしまう、ハッピーエンドなお話。
他サイトにも投稿しています。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

幼馴染と結婚したけれど幸せじゃありません。逃げてもいいですか?
鍋
恋愛
私の夫オーウェンは勇者。
おとぎ話のような話だけれど、この世界にある日突然魔王が現れた。
予言者のお告げにより勇者として、パン屋の息子オーウェンが魔王討伐の旅に出た。
幾多の苦難を乗り越え、魔王討伐を果たした勇者オーウェンは生まれ育った国へ帰ってきて、幼馴染の私と結婚をした。
それは夢のようなハッピーエンド。
世間の人たちから見れば、私は幸せな花嫁だった。
けれど、私は幸せだと思えず、結婚生活の中で孤独を募らせていって……?
※ゆるゆる設定のご都合主義です。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる