28 / 68
友人と家族 1
しおりを挟む「あいかわらず、周囲を困惑させるレベルで仲が良いよなぁ」
ディールが小さく呟いた。
仲が良いのだろうか。それにしても困惑とは。
周囲を困らせた覚えがない私は、首をかしげる。
ふと、頭に触れるとミラベル様が折角整えてくれた髪型がぐちゃぐちゃになっている。アルベルトはあとで妹のミラベル様に怒られるに違いない。
そんな私を少しだけ眉を寄せて眺めたあと、ディールは口の端をあげ、それから口を開いた。
「変わらないな」
「え?」
「もっと早く会いに行けば良かったか。それともアルベルトのおかげで元に戻ったのか」
「……ふふ。そうね、私も屋敷に籠もっていないでみんなに会いに行けば良かったわ」
そう言うと、ディールは学生時代を思い起こさせる周囲を明るい気持ちにさせるような笑顔を見せた。
「とりあえず、送っていくよ」
「そうね! 久しぶりに思い出話でも」
「そうだな」
二人並んでゆっくり歩いて行く。
学生時代は、いつも仲間同士集まっては一緒に過ごしたものだ。
(王立魔法院に就職が決まったから、きっとそんな日々がずっと続くと思っていたのに)
「そういえば、レイラ様はどうしているの?」
「……」
「あなたたち仲が良かったものね」
「……レイラ様とは、卒業してから会ってない」
「えっ」
いつも仲良く一緒にいたディールとレイラ様。
レイラ様とは仲が良くしてもらっていたから、彼女がディールのことが好きだったことを私は知っている。
それなのに会ってもいないなんて……。
「もしかして、私のせい?」
「それは関係ない。ただ、学園を卒業すると案外会う機会がなくてな。そんなもんだ」
「そういう、ものなの……?」
職場が同じでもない限り、疎遠になってしまうものなのだろうか。
でも、確かに公爵家の二女であるレイラ様と、伯爵家三男のディールが出会う場は、卒業してしまえばそうないのかもしれない。
「そうね。そうなのかも」
王立魔術院の正門前には、すでにローランド侯爵家の馬車が停まっていた。こんなところまで、アルベルトはいつも完璧だ。
(侯爵家の嫡男で、筆頭魔術師に一番近い人。普通に考えれば、あまりに遠い存在)
私だって、魔力をなくしたことがなくても卒業後は疎遠になっていたかもしれない。
そんなことを思いながら、馬車に乗り込む。
ディールは、周囲を警戒するように確認してから馬車に乗り込み、私の斜め前に座った。
馬車が走り出してややあって、ディールが口を開く。
「アルベルトはようやく願いを叶えたんだな」
「……ディール?」
「俺ももう少しだけ、足掻いてみるかな」
ディールを見上げる。
よく見れば、マントの下、その左胸にはアルベルトに負けないほどたくさんの勲章が輝いていた。
ディールとアルベルトは、今も相棒なのだ。
二人の活躍を私もいつも密かに楽しみにしていた。
「アルベルトが、筆頭魔術師になるなら、俺は筆頭魔術師補佐になる」
「ディール」
「あと少しで、俺たちはその座に手が届くから。……気をつけろ」
「え?」
その言葉の意味を問いただそうとしたけれど、すでにローランド侯爵家の前に馬車は着いてしまった。
一足先に馬車から降りたディールは明るく笑うと、私に手を差し伸べた。
「まあ、今度こそ俺たちが守るけどな?」
その言葉は、まるで何かに誓いを立てるようにも思えた。
ディールと別れた私が、屋敷に入るやいなやミラベル様が駆け寄ってきた。
「その髪……。お兄様ね!?」
「えっ、まあ、うん、そうです」
「もう、お兄様ったら! あとで問いたださなくては」
こうして、アルベルトがミラベル様に怒られる未来は確定したのだった。
17
お気に入りに追加
600
あなたにおすすめの小説

“ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う
棚から現ナマ
恋愛
いままで虐げられてきたから “ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う? 侯爵令嬢のアイリス=ハーナンは、成人を祝うパーティー会場の中央で、私から全てを奪ってきた両親と妹を相手に “ざまぁ” を行っていた。私の幼馴染である王子様に協力してもらってね! アーネスト王子、私の恋人のフリをよろしくね! 恋人のフリよ、フリ。フリって言っているでしょう! ちょっと近すぎるわよ。肩を抱かないでいいし、腰を抱き寄せないでいいから。抱きしめないでいいってば。だからフリって言っているじゃない。何で皆の前でプロポーズなんかするのよっ!! 頑張って “ざまぁ” しようとしているのに、何故か違う方向に話が行ってしまう、ハッピーエンドなお話。
他サイトにも投稿しています。


魅了魔法にかかって婚約者を死なせた俺の後悔と聖夜の夢
鍋
恋愛
『スカーレット、貴様のような悪女を王太子妃にするわけにはいかん!今日をもって、婚約を破棄するっ!!』
王太子スティーヴンは宮中舞踏会で婚約者であるスカーレット・ランドルーフに婚約の破棄を宣言した。
この、お話は魅了魔法に掛かって大好きな婚約者との婚約を破棄した王太子のその後のお話。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※魔法のある異世界ですが、クリスマスはあります。
※ご都合主義でゆるい設定です。

だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました
ララ
恋愛
3話完結です。
大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。
それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。
そこで見たのはまさにゲームの世界。
主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。
そしてゲームは終盤へ。
最後のイベントといえば断罪。
悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。
でもおかしいじゃない?
このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。
ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。
納得いかない。
それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる