魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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友人と家族 1

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「あいかわらず、周囲を困惑させるレベルで仲が良いよなぁ」

 ディールが小さく呟いた。
 仲が良いのだろうか。それにしても困惑とは。
 周囲を困らせた覚えがない私は、首をかしげる。

 ふと、頭に触れるとミラベル様が折角整えてくれた髪型がぐちゃぐちゃになっている。アルベルトはあとで妹のミラベル様に怒られるに違いない。

 そんな私を少しだけ眉を寄せて眺めたあと、ディールは口の端をあげ、それから口を開いた。

「変わらないな」
「え?」
「もっと早く会いに行けば良かったか。それともアルベルトのおかげで元に戻ったのか」
「……ふふ。そうね、私も屋敷に籠もっていないでみんなに会いに行けば良かったわ」

 そう言うと、ディールは学生時代を思い起こさせる周囲を明るい気持ちにさせるような笑顔を見せた。

「とりあえず、送っていくよ」
「そうね! 久しぶりに思い出話でも」
「そうだな」

 二人並んでゆっくり歩いて行く。
 学生時代は、いつも仲間同士集まっては一緒に過ごしたものだ。

(王立魔法院に就職が決まったから、きっとそんな日々がずっと続くと思っていたのに)

「そういえば、レイラ様はどうしているの?」
「……」
「あなたたち仲が良かったものね」
「……レイラ様とは、卒業してから会ってない」
「えっ」

 いつも仲良く一緒にいたディールとレイラ様。
 レイラ様とは仲が良くしてもらっていたから、彼女がディールのことが好きだったことを私は知っている。

 それなのに会ってもいないなんて……。

「もしかして、私のせい?」
「それは関係ない。ただ、学園を卒業すると案外会う機会がなくてな。そんなもんだ」
「そういう、ものなの……?」

 職場が同じでもない限り、疎遠になってしまうものなのだろうか。
 でも、確かに公爵家の二女であるレイラ様と、伯爵家三男のディールが出会う場は、卒業してしまえばそうないのかもしれない。

「そうね。そうなのかも」

 王立魔術院の正門前には、すでにローランド侯爵家の馬車が停まっていた。こんなところまで、アルベルトはいつも完璧だ。

(侯爵家の嫡男で、筆頭魔術師に一番近い人。普通に考えれば、あまりに遠い存在)

 私だって、魔力をなくしたことがなくても卒業後は疎遠になっていたかもしれない。
 そんなことを思いながら、馬車に乗り込む。
 ディールは、周囲を警戒するように確認してから馬車に乗り込み、私の斜め前に座った。
 馬車が走り出してややあって、ディールが口を開く。

「アルベルトはようやく願いを叶えたんだな」
「……ディール?」
「俺ももう少しだけ、足掻いてみるかな」

 ディールを見上げる。
 よく見れば、マントの下、その左胸にはアルベルトに負けないほどたくさんの勲章が輝いていた。
 ディールとアルベルトは、今も相棒なのだ。
 二人の活躍を私もいつも密かに楽しみにしていた。

「アルベルトが、筆頭魔術師になるなら、俺は筆頭魔術師補佐になる」
「ディール」
「あと少しで、俺たちはその座に手が届くから。……気をつけろ」
「え?」

 その言葉の意味を問いただそうとしたけれど、すでにローランド侯爵家の前に馬車は着いてしまった。

 一足先に馬車から降りたディールは明るく笑うと、私に手を差し伸べた。

「まあ、今度こそ俺たちが守るけどな?」

 その言葉は、まるで何かに誓いを立てるようにも思えた。
 ディールと別れた私が、屋敷に入るやいなやミラベル様が駆け寄ってきた。

「その髪……。お兄様ね!?」
「えっ、まあ、うん、そうです」
「もう、お兄様ったら! あとで問いたださなくては」

 こうして、アルベルトがミラベル様に怒られる未来は確定したのだった。
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