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初代の本 3
しおりを挟む「とりあえず、帰るぞ」
フール様に背中を向けて、私の手を引いたアルベルト。
「えっ、用事は」
「君の時間を確保する約束を取り付けたんだ。今日はそれで満足しただろう」
「なあ、アルベルト」
「何でしょうか、筆頭魔術師殿」
「君はこれから仕事だよ?」
「くっ」
肩を叩かれたアルベルトが、露骨に顔をしかめた。確かに、アルベルトは忙しい。今日は私のために時間をとってくれたけれど、仕事の邪魔はしたくない。
「アルベルト、頑張ってね」
「女神の笑顔……」
「え?」
「何でもない、口が滑った」
それでも、アルベルトは手を離してはくれなかった。首をかしげていると、図書室から出ながら後ろを振り返ったアルベルトがあまりに優雅に礼をした。
「それでは、筆頭魔術師殿。先ほどの件、くれぐれもよろしくお願いします」
「えっ、僕が護衛するよ?」
「本日は筆頭魔術師殿より信頼に足る人物に頼んでありますので、お手を煩わせるまでもありません」
「はあ、彼は非番か。仕事を振っておけば良かったなぁ」
そのまま、グイッともう一度手が引かれた。
二人で、一度図書館の外に出る。
いつの間にか日は高くなっていた。
「えっと、誰に……」
「君もよく知っている人だ」
ほどなく、王立魔術院の制服を着た赤髪の男性が現れた。
「ディール!!」
「久しぶりだな。元気だったか?」
そこにいたのは、かつてのクラスメート。
王立魔術院に就職したディール・フィブランシア伯爵令息だった。
卒業式のあの事件依頼、クラスメートたちとは会っていない。けれど、ディールは何も変わっていないようだ。明るい笑顔、気安い雰囲気。彼の活躍は、耳にしていた。
「それにしても、ようやく悲願が叶ったようだな」
「……」
「そんな真面目な顔をしたって、俺たちはもちろんアルベルトの気持ちには気が付いていたからな」
「まさか」
「あれで気付かないのは、シェリアだけだ」
いつもの無表情に戻っていたアルベルトが、耳まで赤くなっている。
顔を隠そうとしたのか、武骨な指先が口元を覆う。
(いつの間にか、大人の男性の手になっている。でも、顔が赤いのを隠せていないわ)
この二人は、学生時代からとても仲が良かった。
きっと二人にしかわからない話もあるのだろう。
長い長いため息、俯いたままアルベルトが私の肩を優しく押した。
「とにかく、ディールは非番だし腕は確かだし、屋敷まで護衛してもらうよう頼んである」
「子どもじゃないから、帰れるわよ」
「君に関連した事実は、魔力をなくしたこと以外すべて3年前から隠していたが……」
「……アルベルト」
「俺が君に近づいたことで、王立魔術院の一部の者には知られてしまった。それに、侯爵家に連なる者は、攫われる可能性がある。頼むからディールに送ってもらってくれ」
「わかったわ」
「良い子だな」
不安に思った気持ちは、アルベルトにはお見通しだったのだろう。
整えられた私の髪をグシャリと乱して、アルベルトは去って行った。
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