魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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王立魔術院図書館 3

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「シェリア」
「しかたがない人ね」

 微笑んだ私と、呆然と目を見開くアルベルト。
 そのまま、スルリと手を滑らせて襟元を掴むとグイッとこちらに引き寄せる。

 耳元に寄せた唇。

「何があっても離さないと言ったのは嘘なの?」
「……」
「私に好きでいてほしいなら、傲慢で不遜で、才能にあふれて、自信過剰なあなたでいなければ」

 本当は、私こそ自信がない。
 アルベルトが好きでいてくれたであろう、努力家で魔力が強く良きライバルだったかつての私はもういない。
 それでも、隣に立ちたいともう一度思えたから。

「それとも、あなたが見ているのは、あくまで過去の私だけなの?」
「違う!」

 アルベルトは、心の奥底をのぞかれたような恐ろしさを感じる瞳で真っ直ぐ私を見た。
 そのまま、噛みつくように口づけされる。

「んっ、んん!?」

 困ったそぶりをされたら傷つくな、と思っていたのにまさか口づけされるとは思っていなかった私は、思わず目を見開く。

「ぷはっ!?」

 ようやく離れた唇。
 空気を求めて勢いよく呼吸する。

「今の君が好きだ」
「アルベルト?」
「もちろん、魔力を持って自信に満ちあふれていた君に憧れていたし、君のことが好きだった」
「……」
「でも、今の君のことが、どうしようもなく愛しい。閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくないし、全部君のことが知りたいし、俺の贈ったものだけ身につけてほしい」
「えっ?」

 アルベルトが私に抱く気持ちは、想定外なほど重いようだ。
 私はアルベルトのことが好きだけれど、閉じ込めたくはないし、もちろんいろいろ知りたいけれど全部でなくて良いし、私が贈ったものだけ身につけて欲しいわけではない。

「……え?」
「ああ、君があまりにも可愛いことを言うから口が滑った」

 なぜかこの場面で甘い甘い蕩けるような笑みを向けてきたアルベルト。
 どうしてかわからないけれど、少々身の危険を感じて後退りたくなる。

 そのまま、肩を掴まれてもう一度近づいてきた唇から目を離せずにいると、大きな大きなため息が聞こえてきた。

「迅速に、最速に、過去最短で国王陛下との謁見を終えて来たらこれか」

 私は思わずアルベルトを突き飛ばしてしまう。
 少しよろけただけでアルベルトが転ばなかったことに安心しながら、手が届かない位置まで後ずさる。

「あー。邪魔したかな?」
「……いえ」
「ところでアルベルト」
「何でしょう」
「性急な男は嫌われるよ?」
「うるさい!!」

 アルベルトは、やはりアルベルトだ。
 先ほどの態度には驚いたけれど、暗い顔でいられるよりはずっと良い。

 まだまだ揶揄うフール様と、顔を赤くして言い返すアルベルト。

(さっきは感情が高ぶっていたのかしら……?)

 いつもと同じアルベルトの様子を見て、私はそんなことを考えた。
 まさか、先ほどの言葉がアルベルトの本音だなんて想像もしないで。
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