魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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王立魔術院図書館 2

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 ***

 王立魔術院図書館は、本館から少し離れた場所に建てられていた。
 本が読みやすいように中心部分は明るくなっているけれど、全体的には薄暗く、ほのかなインクの香りが漂う。

「ここが、王立魔術院図書館」
「……そうだ」
「この蔵書量、素晴らしいわね」
「そうだろうな」

 でも、ローランド侯爵家のお屋敷の図書館の方が、私好みの蔵書が多いようだ。

「……ほら、君はこちらの方が好きだろう」

 手を引かれて図書館の奥へと進んでいく。
 結界が張られた場所に、アルベルトが胸元にさげた魔石をかざすと、一時結界が解かれる。

「ここから先は、王立魔術院の職員でも一部の者しか入室が許されないんだ」
「えっ、私まで入って良いの!?」
「ここに君を連れてくる見返りとして、筆頭魔術師の許可を得ている」

 つまり、フール様のお許しがあるということだ。
 それなら安心だと、アルベルトに手を引かれて入っていく。

「本来なら、君だって今頃」
「え?」
「……ほら、この本なんてどうだ?」

 アルベルトが指さしたのは、使い魔の生態学という本だった。
 ここではない、高次の世界に生きているという使い魔たち。
 そこに行ったことがあるのは、初代筆頭魔術師だけだといわれている。

「……まさか、現存するなんて」

 震える手で本を開く。
 そこに描かれていたのは、大きな白い犬の使い魔だった。

「フィーに良く似ているわ」
「……そうだろうな」
「アルベルトはこの本を読んだの?」
「いや、この本はすでに朽ちかけているから、俺が触れることは許されない」
「……なるほど。私の魔力がないから許されたのね!」

 魔力がゼロになってから、アルベルトから受け取る魔力が込められた魔石なしには日常生活すら不自由になった。
 何もかも失ったように思えていたけれど……。

「ふふっ、読んであげましょうか?」
「っ……」

 アルベルトが、わかりやすいほど激しく喉を上下させた。
 不思議に思って首をかしげていると、アルベルトは口元を大きな手で覆った。

「どうしたの……」
「君のその顔、久しぶりに見たから」
「え? どんな顔よ」
「はは、俺に試験で勝ったときの得意そうな顔だ」
「……もう、また揶揄う気?」

 そのときのアルベルトの表情を私はどう表現していいかわからない。
 まるで、懐かしい思い出に囚われているような、悲しみと苦しみがごちゃ混ぜになったような複雑な表情。
 それは、アルベルトのこの3年間の苦悩を表しているみたいだった。

「アルベルト」

 本を本棚に戻して、両の頬を手のひらで包み込む。そして真っ直ぐ、その金色の瞳を見つめた。

 
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