魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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王立魔術院図書館 1

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 先ほどから、チラリチラリと視線を送ってくるので落ち着かない。
 そんなアルベルトの様子を周囲が驚愕したように見つめている。

(まるで、学生時代に戻ったみたい)

 いつも喧嘩ばかりしていた私たち。
 そして、最終的に私がプンッとそっぽを向いてしまえばソワソワ落ち着かなくなるアルベルト。

「ふふっ」
「……何がおかしい」
「こんな場所では、淑女をエスコートするのがマナーというものよ」
「君のどこが淑女」

 いつもの調子を取り戻しかけたアルベルトが、上から下まで私の姿を見た。
 そして少しだけ口の端を緩めた。

「確かに、どこからどう見ても淑女だな」
「な、なな!?」
「どうか、エスコートする栄誉を与えていただけませんか? ……シェリア嬢」

 王立魔術院の制服に身を包んだアルベルトが手を差し伸べれば、飾りがシャラリと音を立てた。
 怒っていたのも揶揄っていたのも私のはずだったのに、いつもと違って立場が逆転してしまう。

「……では、お願いするわ」
「光栄です」

 そっと手を重ねた瞬間に、私に向けられたあまりに甘い微笑みは、学生時代にも見たことがない。
 思わず頬を染めて見上げる。身長もさらに伸びたらしい。

(それにしても、周囲のざわめきがハンパないわ)

 魔術師が命の次に大切にしている杖を落としてしまったり、重要そうな書類を落としてしまったり、周囲の人たちの驚愕がものすごい。

 そんな周囲を気にしているのは、私だけだとでもいうように甘やかな微笑みを絶やさないアルベルト。
 これは、大人げない態度をとった私への意趣返しなのだろうか……。

(そうだわ、そうに違いない)

 アルベルトが送ってくれたドレスは、動きやすいけれど王立魔術院筆頭魔術師の招きに応じるにふさわしい豪華な物だ。
 黒を基調にしたドレスに金色のチェーンとそこに輝く透明な宝石。

(そういえば透明な宝石なんて、珍しいわね……)

 ざわめきの中、完璧すぎるアルベルトのエスコート。もちろん図書館は楽しみだけれど、それ以上にこの瞬間は心臓に悪すぎる。

 早鐘を打つ心臓に、頬を染めた私。
 そんな私に微笑みかけるアルベルトは、周囲にどんなふうに見えるのだろう。

(恋人に、見えるのかな)

 サラリと流れた長い髪の色に我に返る。
 白銀の髪は魔力ゼロの証。
 きっと周囲の視線には、そんな珍しい色合いの私への好奇心も含まれているだろう。

「何を考えている?」
「アルベルト? いえ、図書館が楽しみだな、と」
「嘘をつくとき君は、右の唇が少し上がる」
「えっ」

 エスコートを受けていない方の手で唇を押さえると、アルベルトがニヤリと笑う。

(だまされた……!?)

「君に何か言う人間は、すべて始末してやる」
「えっ」
「冗談だ」

 アルベルトは、あまり冗談を言わないので、本気に聞こえてしまったのは言うまでもない。
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