魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

文字の大きさ
上 下
19 / 68

筆頭魔術師 3

しおりを挟む

 ――その日の夜は、眠れなかった。

「だって、王立魔術院の図書館に行けるのよ!?」

 寄り添って離れないフィーを抱きしめてつぶやく。アルベルトの許可なく行くことは仁義に反すると思ったけれど、行きたい気持ちは海より深く山より高い。

 ベッドの上でゴロゴロと何度も転がる。
 どんな本があるのかずっと気になっていた。
 それでも、魔力を失ってからの3年間はあえて考えないようにしてきた。

「でも、明日行けるんだ」

 そのとき、ためらいがちに扉が叩かれた。

「どうぞ」

 声をかけると、やはりためらいがちに扉が開いた。
 ドアを薄ら開けてこちらをのぞき込んでいるのは、予想通りアルベルトだった。
 しばらく待ってみたけれど、アルベルトはいつまで経っても入ってくる様子がない。

「アルベルト、あなたの屋敷なのだから堂々と入ってきたら?」
「君は寝間着じゃないか。ここでいい」
「……入ってちょうだい。落ち着かないじゃない」
「……君は人をすぐに信用しすぎる」

 アルベルトなら信用に値するのは間違いないだろう。その手を引いて部屋に招き入れる。

「アルベルトだけよ?」
「それはもっとダメだ」

 なぜか顔を赤くしてアルベルトが抗議した。
 でも、さすがの私でもアルベルト以外の人をこの時間に部屋に入れたりしない。

「平気よ。信頼しているもの」
「くっ、信頼がこんなにも重く感じたことはないな」

 小さな呟きはモゴモゴと口の中で消えた。
 良く聞こえなかったけれど、アルベルトが真っ直ぐ私を見つめてきたので口をつぐむ。

 部屋はしばらくの間、フィーの息づかい以外何も聞こえなくなった。
 ややあって、アルベルトがため息交じりに口を開く。

「――すまなかった」
「え?」

 アルベルトが頭を下げてきた。
 彼が頭を下げるのを見たのは初めてだ。
 驚いてしゃがんで、アルベルトの顔をのぞき込む。

「……どうして謝るの?」
「君にはいつだって王立魔術院へ行く権利があった」
「……フール様の言ってたことと関係あるの?」
「ああ」

 しゃがみ込んだまま見上げたアルベルトの表情には、憂いが浮かんでいた。
 
(間違いなく、理由があるのよね)

「許すわ」
「君はそうやってすぐに」
「アルベルトは、実はいつも私のことを優先してくれている。それくらいわかっているもの」
「……はあ。君には勝てないな」
「一緒に行ってくれるんでしょう?」

 アルベルトがうなずいてくれたから、私も笑顔を返す。それなのに、なぜかアルベルトは何かに気が付いたように目を見開くと視線を逸らした。

「どうしたの?」
「君、その寝間着でその角度だと谷間が見える」
「は?」
「口が滑った」
「……最低!! アルベルトなんて、もう部屋に入れてあげない!!」

 たぶん顔全体真っ赤になっただろう私は、アルベルトを部屋から押し出して、勢いよく扉を閉めたのだった。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...