魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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筆頭魔術師 2

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「おやおや、想像よりも25%ほど早い。どうやったのかな?」
「……ふん。……実力だ」
「……確かに、君の実力は認めている。それにしても早すぎる」
「……」

 まだ、アルベルトの息は、整わないままだ。
 アルベルトはそれでも私のことを背に庇うように立った。

「……本当に君は興味深い」

 微笑んだ瞳は、妖しげな光を宿し、まるで蛇ににらまれた蛙みたいに身動きがとれなくなる。

「さて、それでもシェリア嬢にどうしても用があるんだ。ここ3年間、いつも誰かさんに妨害されてきたけど、時間がないから今度こそ。その本と一緒に来ておくれ?」

 指さした方向に目を向けると、淡い黄緑色の光に包まれて1冊の本がこちらに飛んできた。

「……フィーをもう一度召喚したときの」
『ふぉん!!』

 その時、開かれたままだった扉からフィーが飛びこんできて、そのままフール様の腕にかじりついた。

「うわっ!?」

 慌てたようにフール様がフィーを払いのけようと腕を振るうと、先ほどまでの威圧感が消え、本がバサリと音を立てて床に落ちた。

「あっ、本が……!!」

 慌てて本を拾う。
 貴重な本が破損していないことを確かめてホッと息を吐く。

「おや、本のことになると目の色が変わるんだね」
『グルル』
「まあまあ。忠義に厚い使い魔くん。別に君の主に害をなそうというわけじゃないんだ」
『……』

 フィーは警戒心を消すことなく、けれどフール様のそばから離れて私にすり寄った。

「すごいなあ。使い魔が人と契約するのは、魔力目当てだというのが一般論なのに」

 きらきらと金色の瞳が輝く。
 急に目の前の筆頭魔術師フール様が、子どもみたいに見えてしまい肩の力が抜ける。

「さて、筆頭魔術師として命じるよ」
「断る!」
「……ふふ。いつも従順で完璧すぎてつまらない男だと思っていたけれど、こんな一面があるとは」
「……今すぐその座から物理的に引きずり下ろしても良いんだが」
「……おお、怖い。年寄りのことは労っておくれ? それにしても、世界はまだ知らないことにあふれているなぁ。さあ、未知の世界を探しに行こう」

 次の瞬間、淡い黄緑色の光に包まれる。
 フィーが離れまいとでもいうように、私に額を押し付けてきて、アルベルトが私を抱きしめた。

「でも、本人から同意だけはとっておこう。王立魔術院の図書館に興味はないか?」
「王立魔術院の図書館!!」
「魔術のすべてが集まる知の宝庫だ」

 どれだけその場所に憧れたことか。
 幼い頃からどんなにつらくても、いつかその場所に立つことを夢見て前に進んできた。

(それでも、今の私は……)

「アルベルトの許可なく行くことはできません」
「おや、なぜ?」
「私は、アルベルトの専属司書なので」
「へえ……」

 次の瞬間、淡い黄緑の光が消えた。

「残念、断られてしまったな。アルベルトは満足かい?」
「……」
「魔力があろうとなかろうと、彼女は間違いなく天才だ。凡才の君はそれをよく知っているのに」
「……はあ。だが、今連れて行くのはダメだ。明日の正午に正式な形で訪問する」
「そうこなくちゃ」

 フール様がニヤリと口の端を歪めた。
 そして再び淡い黄緑の光に包まれる。
 次の瞬間、その姿は跡形もなく消えていた。
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