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月とキス 2
しおりを挟むどちらともなく離れていく唇の温もりが、とても名残惜しい。
(何を考えているの!? 今のは事故よ、事故!!)
けれど感傷を否定しようとしたそばからもう一度唇が塞がれた。
チラリと横目に見たけれど、フィーはどこか自慢げに尻尾を振りながらキチンとお座りしている。
停止してしまった思考と再び与えられた温かい感触。思考が動き出す。けれどそれは、グルグルグルグル回るばかりでまとまることがない。
唇が離れていった。
今度も名残惜しい。
思わず縋るようにアルベルトを見つめる。
「そんな顔されたら、期待してしまう」
そっと頬に触れて、アルベルトが微笑んだ。
期待されるようなものなんて、もう何一つ持っていないはずなのに……。
「出会ったあの日、一目で恋に落ちたし、それからも好きになる一方だった」
「え?」
「君に負けたくなくて、好きになってもらいたくて、こちらを見てほしくて必死だった」
「……は? ……え?」
アルベルトと私の距離が離れていく。
この距離は、学生時代のあのころの距離だ。
友達というには近くて、もどかしいほど遠い、かつての私たちの距離。
「もう一度言うよ。ずっと好きだった。……今度、信じてもらえなかったら、生きていける自信がない」
「……アルベルト」
あの日、止まってしまった私たちの時間が、ゴトリと音を立てて動き始めた。
胸の真ん中に残った三年前の古傷が、ズキズキと痛む。
あの事件の日、魔力ゼロになった私はすべてを失った。
それでも、消えることがなかった気持ちがたったひとつだけある。
――それは、永遠に叶うことはないと蓋をした、大切な学生時代のクラスメートへの恋慕だ。
『ふぉんっ!!』
一際高いフィーの鳴き声が聞こえる。
アルベルトは、私の体を強く抱きしめた。
急に近づいた距離と、変わり始める私たちの関係。
「私もずっと好きでした」
「実は、そうじゃないかと少しだけ思ってた」
「えっ!?」
アルベルトが笑った。それは、あの事件で消えてしまったはずの、幸せそうな、そしてどこか自慢げな笑顔だ。
「違ってたら死んでしまうかも、と思ってた」
「え、ええ!?」
「何があっても離さないから、覚悟して」
「っ……!」
こうして私たちは幸せに……。
なるには、二人を取り巻く障害はまだあるのだけれど。
思いを伝え合った二人の距離は、急速に近づいていくに違いない。たぶん。
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