魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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専属司書 1

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「……!?」

 アルベルトの膝の上から飛び起きて、近くの本棚まで後退る。

「えっと、もう目が覚めたの? 大丈夫なの!?」
「……魔力枯渇なんて、日常茶飯事だ」
「は?」

 魔力枯渇を繰り返すと、ときに魔臓が壊れて魔力が暴走し、最悪周囲の臓器を巻き込んで命に関わることがある。
 それは、王立学園でも初級魔術学で習う常識だ。

「どうしてそんな無茶なことを」
「はあ、口が滑ったな……。俺のような凡人が、あの天才だらけの場所で上に行きたければそれくらいしないと」
「あいかわらずね」

 アルベルトは、学生時代から努力家だ。
 けれど、それはときに度を超えていた。

「そこまでして筆頭魔術師になりたいの?」
「……なりたい」

 微笑んだアルベルトは、ソファーから立ち上がりポンッと私の頭に手を乗せた。

「そろそろ王立魔法院に戻らないと」
「……大丈夫なの?」
「ここ最近で一番元気だ」
「それなら良いけど……」
「来たばかりだから、とりあえずのんびり読書でもしていれば良い」

 私の頭を撫でるとアルベルトは背中を向けて去って行った。その背中を見送る。

「……っ、まって!」
「……どうした?」

 振り返ったアルベルトのそばに駆け寄る。

「いってらっしゃい」
「……っ!」

 次の瞬間、アルベルトがあの日差しのような笑顔を見せた。
 それは、私が大好きだったあの日の笑顔だ。

「……行ってくる」

 今度こそアルベルトは出掛けてしまい、私は図書室に一人取り残された。

 ――改めて図書室を見渡す。そして、先ほどの本棚に近づいて1冊の本を取り出した。

「……魔力がなければ、魔術書が劣化しないというのは、事実なのかしら」

 もしそうなら、読めば読むほど劣化してしまうことから厳重に管理されている魔術書だって読み放題、繰り返し読んでも大丈夫ということになる。

「なにそれ……。これだけの蔵書があるのよ? 好きなだけ読めるなんて最高じゃない?」

 読んだところで魔力ゼロの私が魔術を使うことはできないけれど、アルベルトに協力してもらえば研究はできるだろう。

 ――魔力を失ってから初めて感じた高揚感と探究心。

 魔術師になる夢は潰えたけれど、これからも大好きな魔術に関われるのなら、こんなに嬉しいことはない。

「まずは、図書室の蔵書を把握するところからね!」

 もう一度見回した図書室は、本であふれている。
 けれど、その順番は急いで集めて詰め込んだかのように順不同でどこか雑然としている。
 整理するにも、蔵書を把握するにも時間がかかりそうだ。早めに始めるにこしたことはないだろう。

(……筆頭魔術師を目指すアルベルトの役に立てるかもしれない)

 こうして私は浮き立つ気持ちのまま、図書室の探索と整理を開始したのだった。
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