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過保護すぎる旦那様からの溺愛が止まらない 3
しおりを挟む「春の日なたみたいな君のそばで過ごせて幸せだ」
「もう、そういうの良いです……」
「心からの言葉だというのに」
甘すぎる言葉もすぎれば慣れてくるものだ。
そう、普通なら慣れるはずだ、普通なら。
(普通じゃないのだもの!! 美貌の騎士様からのお言葉なのだもの!!)
ただいま私は第三王子マークナル殿下の執務室から騎士団長の執務室まで重要文書を運んでいる最中だ。
――つまり仕事中なのである。
しかし甘い言葉を地味な妻にささやき続ける美貌の騎士団長様は、すれ違った人すべてが振り返って二度見してしまう事態を引き起こしていた。
王族の秘書官は、事務官の中では上級に位置する。それでも騎士団長様が護衛するような相手ではないだろう。
――ましてや私たちは職務に従事中なのだ。
「あの……」
「却下だ」
先ほどの台詞とは打って変わって冷たい表情とともに口にされた簡素な言葉。
そこには明確な拒絶が含まれていた。
「でも、職務中……」
「……実は俺は休暇中だ」
「な、何ですって!?」
真面目すぎる表情でそう口にしたウェルズ様。
よくよく話を聞けば、ウェルズ様は3年もの長い期間戦いに従事したため、本日から長期休暇だという。
「それなら、少しくらい休まれては……」
「休んで君を堪能している」
「言い方!?」
しかし、ずっと寝る間も惜しんで、そして命をかけて働き続けたはずのウェルズ様は、屋敷での休息よりも私のそばにいることを選んだらしい。
「私、仕事中なのですが」
「……そうだな。真面目に護衛するとしよう」
「護衛であれば、フィラス様が」
「実力者のフィラスを君の護衛にしたには理由がある。彼女は魔力が強くマークナル殿下の魅了の影響を受けないんだ」
「そんな方であれば直接マークナル殿下の護衛にした方が良いのでは?」
「……表立ってマークナル殿下の護衛として彼女を置いてしまうと、命を狙われたことを周囲に気が付かれてしまう。それに君の身も守れてこの上なく都合が良い」
確かに社交界では、騎士団長ウェルズ・フリーディルが妻可愛さに女性騎士では1番の実力者であるフィラス様を無理に護衛に指名した、とまことしやかにささやかれている。
「けれど、それではウェルズ様の名誉が……」
「君を守るために名誉など何の役にも立たない」
ウェルズ様は一度だけ微笑むと、騎士としての態度に切り替えてしまった。
そして私の斜め後ろをついてくる。
そうこうしているうちに、騎士団長の執務室についた。扉の前で沈黙を守っていたウェルズ様が口を開く。
「しかし君は自分が安全だと思っているのか? だとすれば、あまりにも危機管理が薄い」
「あ……」
ウェルズ様の言うことはもっともだ。確かにあんなに危険な目に遭っておきながら危機管理が薄すぎたのは事実だろう。
「申し訳ありません。私の安全のために側についていてくださったのですね?」
「半分不正解だ」
「……半分?」
3年前のウェルズ様は、一緒に過ごしていてもいつも無表情で口数も少なかった。
だからあんなにも早く結婚することになったのは、私を好きという以外の何かしらの理由があるからだと思っていたのに。
――続く言葉はある程度予想できる。
「君のそばにいたいというのが8割だな」
「半分超えてますけど!?」
ウェルズ様は私のツッコミに答えることなく騎士団長の執務室の扉を開いた。
「団長……」
そこには書類に埋もれた副団長、ジアス様の姿があった。
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