【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら

文字の大きさ
上 下
12 / 33

過保護すぎる旦那様からの溺愛が止まらない 1

しおりを挟む

 フリーディル侯爵夫人の朝は優雅に始まる。

(朝早く起きたのにウェルズ様はもう出掛けてしまったのね)

 まだ東の空が白んできたばかりだというのに、すでに私の隣はシーツすら冷え切っている。
 私は慌てて起き上がった。

「……」

 そのとき、扉が少し開いていることに気がつく。
 そっと近づいて顔を出してみると、フィラス様がすでに護衛として控えていた。

「朝、早いのですね」
「そうでしょうか。奥様の護衛任務については、夜間はフリーディル卿が一緒におられるので免除されており大変楽なものになっております」

 堅苦しいしゃべり方からは彼女の実直さが想像される。
 
「身支度をしたいから侍女を呼んでもらえる?」
「それでしたら私が手伝いましょう」
「え……?」

 護衛騎士が身支度まで手伝うなんて話、聞いたこともない。

(あれ? でもフィラス様は同性だし、とくに私としては問題ない……かも?)

 混乱覚めやらぬうちに、手際よく部屋着が脱がされて手早くドレスに着替えさせられる。
 予想外にもフィラス様はドレスの扱いにとても手慣れていた。
 軽く化粧も施される。フィラス様自身は全く化粧っ気がないにもかかわらずとても上手い。

(というより、この屋敷の敏腕侍女たちよりも上手いかも……)

 鏡にはハイウェストで切り替えられた動きやすいドレスとキリリとした知的な印象になった私が映っていた。化粧の力は偉大だ。

「すごいわ」
「護衛としてこれくらいはできて当然です」
「そうかしら?」
「ええ、第三王女殿下も、第五王女殿下も護衛の際には私が侍女の役目も務めておりました」
「まあ……王族の護衛を?」
「……少々おしゃべりが過ぎたようです」

 そういいながらフィラス様はにっこりと微笑んだ。
 可愛らしさというよりは凜々しさ、格好良さが際立つフィラス様はとても美しい人だ。

(そういえば、王宮で侍女たちが噂していたわ。とても美しく凜々しい女性騎士様がいると)

 その人の名が、フィラス様だったかもしれない……。
 それにしても、どうしてそんな人が私に忠誠を誓ったのだろうか。

「何かご質問があるようですね」
「……顔に出ていたかしら」
「仕事柄、護衛相手の雰囲気には敏感になってしまったもので。不愉快でしたら申し訳ありませんでした」
「いいえ……どうして私の護衛を引き受けてくれたのかと」
「……そうですね。フリーディル卿には恩がありまして」
「恩?」
「けれど『当然のことをしただけだ』と頑なに恩返しをさせてくれなかったのです」

 それはとてもウェルズ様らしい、と思った。
 私はウェルズ様のことをそれほど知らないけれど、帰還してからの彼はいつだって職務に忠実で、仲間を大切にしていた。

「そんなフリーディル卿が私の前に膝をついたのです」

 なんとなく話の雲行きが怪しくなってきたようだ。

「奥様の護衛を引き受けて欲しいと」
「そうでしたか……」
「第五王女殿下の護衛任務中だったもので、急ぎ辞すのに1週間と少しかかってしまいました」
「えっ、第五王女殿下の護衛任務中だったのですか!?」

 そんな重要任務中のフィラス様を私の護衛にしてしまうなんて……。
 しかもウェルズ様は今回の事件のせいで頼んだのではなく、戦場から帰還してすぐフィラス様に私の護衛を依頼していたらしい。
 
 よく考えれば、すでにドレスがクローゼットルームからあふれそうになっているし、宝石も日替わりだし、化粧品も充実しているし、屋敷の中では至れり尽くせりだ。

(気がつけば完璧に甘やかされている!?)

「でも、王女殿下の護衛を辞すなんてよく許されたわね」
「……第三王子殿下が命を狙われましたから。殿下の秘書である奥様の護衛に私がつけば、勤務時間中は必然的に第三王子殿下もお守りすることになります」
「なるほどね」
「それに……陛下は奥様にとても関心があるようでした」
「……陛下が?」

 ウェルズ様は王家と盟約を結んだという。
 誓約により話すことができないというその内容は、一体どういうものなのだろう。

「質問への答えになりましたでしょうか?」
「ええ、ありがとう……。納得できたわ」

 王家との関わりがこれから色濃くなっていく予感。それはほとんどの貴族にとっては願ってもないことだろう。

 ――けれど私にとっては……。

 このあとすぐ、王家とは私が想像する深刻なものでなく意外な形で関わることになる。
 それは私が登城した直後に起きる出来事なのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

【完結】わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

たろ
恋愛
今まで何とかぶち壊してきた婚約話。 だけど今回は無理だった。 突然の婚約。 え?なんで?嫌だよ。 幼馴染のリヴィ・アルゼン。 ずっとずっと友達だと思ってたのに魔法が使えなくて嫌われてしまった。意地悪ばかりされて嫌われているから避けていたのに、それなのになんで婚約しなきゃいけないの? 好き過ぎてリヴィはミルヒーナに意地悪したり冷たくしたり。おかげでミルヒーナはリヴィが苦手になりとにかく逃げてしまう。 なのに気がつけば結婚させられて…… 意地悪なのか優しいのかわからないリヴィ。 戸惑いながらも少しずつリヴィと幸せな結婚生活を送ろうと頑張り始めたミルヒーナ。 なのにマルシアというリヴィの元恋人が現れて…… 「離縁したい」と思い始めリヴィから逃げようと頑張るミルヒーナ。 リヴィは、ミルヒーナを逃したくないのでなんとか関係を修復しようとするのだけど…… ◆ 短編予定でしたがやはり長編になってしまいそうです。 申し訳ありません。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...