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過保護すぎる旦那様からの溺愛が止まらない 1
しおりを挟むフリーディル侯爵夫人の朝は優雅に始まる。
(朝早く起きたのにウェルズ様はもう出掛けてしまったのね)
まだ東の空が白んできたばかりだというのに、すでに私の隣はシーツすら冷え切っている。
私は慌てて起き上がった。
「……」
そのとき、扉が少し開いていることに気がつく。
そっと近づいて顔を出してみると、フィラス様がすでに護衛として控えていた。
「朝、早いのですね」
「そうでしょうか。奥様の護衛任務については、夜間はフリーディル卿が一緒におられるので免除されており大変楽なものになっております」
堅苦しいしゃべり方からは彼女の実直さが想像される。
「身支度をしたいから侍女を呼んでもらえる?」
「それでしたら私が手伝いましょう」
「え……?」
護衛騎士が身支度まで手伝うなんて話、聞いたこともない。
(あれ? でもフィラス様は同性だし、とくに私としては問題ない……かも?)
混乱覚めやらぬうちに、手際よく部屋着が脱がされて手早くドレスに着替えさせられる。
予想外にもフィラス様はドレスの扱いにとても手慣れていた。
軽く化粧も施される。フィラス様自身は全く化粧っ気がないにもかかわらずとても上手い。
(というより、この屋敷の敏腕侍女たちよりも上手いかも……)
鏡にはハイウェストで切り替えられた動きやすいドレスとキリリとした知的な印象になった私が映っていた。化粧の力は偉大だ。
「すごいわ」
「護衛としてこれくらいはできて当然です」
「そうかしら?」
「ええ、第三王女殿下も、第五王女殿下も護衛の際には私が侍女の役目も務めておりました」
「まあ……王族の護衛を?」
「……少々おしゃべりが過ぎたようです」
そういいながらフィラス様はにっこりと微笑んだ。
可愛らしさというよりは凜々しさ、格好良さが際立つフィラス様はとても美しい人だ。
(そういえば、王宮で侍女たちが噂していたわ。とても美しく凜々しい女性騎士様がいると)
その人の名が、フィラス様だったかもしれない……。
それにしても、どうしてそんな人が私に忠誠を誓ったのだろうか。
「何かご質問があるようですね」
「……顔に出ていたかしら」
「仕事柄、護衛相手の雰囲気には敏感になってしまったもので。不愉快でしたら申し訳ありませんでした」
「いいえ……どうして私の護衛を引き受けてくれたのかと」
「……そうですね。フリーディル卿には恩がありまして」
「恩?」
「けれど『当然のことをしただけだ』と頑なに恩返しをさせてくれなかったのです」
それはとてもウェルズ様らしい、と思った。
私はウェルズ様のことをそれほど知らないけれど、帰還してからの彼はいつだって職務に忠実で、仲間を大切にしていた。
「そんなフリーディル卿が私の前に膝をついたのです」
なんとなく話の雲行きが怪しくなってきたようだ。
「奥様の護衛を引き受けて欲しいと」
「そうでしたか……」
「第五王女殿下の護衛任務中だったもので、急ぎ辞すのに1週間と少しかかってしまいました」
「えっ、第五王女殿下の護衛任務中だったのですか!?」
そんな重要任務中のフィラス様を私の護衛にしてしまうなんて……。
しかもウェルズ様は今回の事件のせいで頼んだのではなく、戦場から帰還してすぐフィラス様に私の護衛を依頼していたらしい。
よく考えれば、すでにドレスがクローゼットルームからあふれそうになっているし、宝石も日替わりだし、化粧品も充実しているし、屋敷の中では至れり尽くせりだ。
(気がつけば完璧に甘やかされている!?)
「でも、王女殿下の護衛を辞すなんてよく許されたわね」
「……第三王子殿下が命を狙われましたから。殿下の秘書である奥様の護衛に私がつけば、勤務時間中は必然的に第三王子殿下もお守りすることになります」
「なるほどね」
「それに……陛下は奥様にとても関心があるようでした」
「……陛下が?」
ウェルズ様は王家と盟約を結んだという。
誓約により話すことができないというその内容は、一体どういうものなのだろう。
「質問への答えになりましたでしょうか?」
「ええ、ありがとう……。納得できたわ」
王家との関わりがこれから色濃くなっていく予感。それはほとんどの貴族にとっては願ってもないことだろう。
――けれど私にとっては……。
このあとすぐ、王家とは私が想像する深刻なものでなく意外な形で関わることになる。
それは私が登城した直後に起きる出来事なのだった。
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