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旦那様には理由があったのかもしれません 3

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 本当に衝撃的なプロポーズだった。
 普通であれば、求婚というのはお付き合いして、あるいは婚約して受けるものだろう。

「ずっと不思議に思っていました。どうしてあのとき、いきなり結婚を申し込まれたのかと」
「すぐに結婚を申し込まなければ君を永遠に失うような酷い焦燥感に駆られていた。口をついて出てしまった言葉に、俺自身とても驚いたよ」
「それはそうでしょう。私とウェルズ様は、下級事務員と騎士団の隊長として、重要文書を届けた折に二言三言交わすくらいの関係だったはず」

 ウェルズ様は眉を寄せてどこか困ったように微笑んだ。
 その表情からは、私の言葉への否定を感じた。

「……君は俺の初恋の人だ」
「えっ?」

 こんな時に冗談なんて、そう思えたのはほんの一瞬だった。真っ直ぐに私を見つめる瞳は真剣そのものだ。

(そもそもウェルズ様は、こんなに大切なことで嘘をつく人ではない)

「そして、あの日の俺の直感は正しかった」
「どういうことですか?」
「あの日、あの場所で求婚していなければ、君は今頃第三王子妃として、手の届かない人になっていただろう」
「マークナル殿下の?」

 なぜか不機嫌な表情になったウェルズ様が、私から視線を逸らした。

「……どうして唐突にマークナル殿下の話が」
「……俺が求婚する直前、マークナル殿下にお会いしただろう?」
「ええ、確かに……」

 私には魔法が効かないことに気が付いたマークナル殿下は、私との結婚が決まったウェルズ様にそのことを話した。
 魔法が効かないことは、周囲に知られてはならないと厳命され、その秘密を守るために私はマークナル殿下の秘書官に任命された。

(もちろんマークナル殿下の魅了の力が効かない私が、そばに仕えるのに便利だったということもあるけれど)

「でも、3年前に何があったのかという答えとしては」
「ああ、不十分だな。……3年前、俺は君にすでに求婚したことを盾に」

 そのとき、バチンッと紫色の魔力が私たちの眼前ではじけた。

「ここまでか」
「……どういうことですか」
「君を手に入れるために王家と盟約を結んだ。盟約の内容については、誓約によって話すことが許されない」

 あの求婚のあと、少々強引なほどのスピードで私たちは結婚した。
 もちろん、ずっと憧れていた騎士様に結婚を申し込まれたことが嬉しくて、私はそのことに疑問を抱かなかった。

(……私のことをずっと好きでいてくれたのに、きちんとした説明もなく戦場へ行ってしまったのは)

 その理由をウェルズ様は話すことが出来ないという。

「……もう遅い。君も明日は仕事だろう」
「そうですね。ウェルズ様も明日は早いのですか?」
「そうだな……。夜が明けるころには行かなくてはならないだろう」

 すでに空は藍色から淡く色合いを変え始めている。

「いっそ、王宮の執務室に泊まれば、睡眠時間が少しでも取れたのでは」

 その言葉を口にした瞬間、私はソファーに押し倒されていた。

「ウェルズ様!?」
「君に会いたかったからだと思わないか?」
「……」
「カティリア?」
「私だって、ずっとずっと、お会いしたかった」

 続く言葉は告げることが出来なかった。
 3年越しの口づけは、甘くてほんの少し塩辛い味がした。
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