そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら

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幸せな結婚生活を目指しましょう。旦那様?

第三十二話 魔眼に魅入られたんですか。旦那様?

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 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 観劇から帰ってきて、ようやく一息つく。
 リーフェン公爵と離れて、黒いローブを脱いだ。

 途端に鏡の前には美しく着飾った公爵家の奥様が現れた。

「せっかく着飾ったのに。少し勿体無いわね」

 そんなことを呟いてくるくると鏡の前で回っていたら、侍女長のマリーと侍女のリンが現れて無言のまま私をバスルームへと連れ去る。

 さっさと綺麗なドレスが脱がされていく。もう少しだけ着ていたかったような気もする。少し残念だ。

「あれ? お出かけはもう終わったのよ?!」

「これからが本番です!」

 なぜか私は、磨き上げられる。
 香油まで、いつものよりさらにランクが上の最高級のものだ。

 そして、部屋着に着替えさせられてさらに黒いローブを上に被せられ、夫婦の寝室に押し込まれた。

 ――――ご飯も食べていないのに?

 そう思ったけれど、不思議なことに寝室には軽食が用意されていた。

「ルティア……。魔眼の、いや聖なる瞳の乙女の加護を俺にくれ」

 ――――心から、せめて魔眼に魅入られし者の方でお願いしたいと願いながら、おずおずとリーフェン公爵に近づいていく。

「ところでルティアは、魔眼の力を相手に与える方法わかっているの?」

「え? そういえば知らないわ」

「やっぱり……。俺としては、そんな理由でこんなことになるのは納得いかないんだけど」

「え?」

 なぜがどんどん距離を詰めてくるリーフェン公爵。魔眼の力を抑えるローブをまとっているからか、リーフェン公爵に全く遠慮が感じられなくて戸惑う。

「魔眼の力のためなんかじゃない。俺が望んでいるんだって……これだけは覚えていて?」

「え? 魔眼のためじゃないって」

 魔眼の力を渡すのと、リーフェン公爵の望みは、なぜか一致するらしい。

「好きだよ。ルティア。この後、俺の名前をたくさん呼んでね?」

 名前を呼ぶことと、魔眼の力を与えることには、どうも関連があるらしい。

 その意味がわかった時には、すでに私は逃げられない状態になっていた。

 その夜、私は一生分かと思うほど、リーフェン公爵の名前を呼ぶ羽目になった。
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