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幸せと波乱の結婚式 1

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 アンとディグノが去った室内には、シルビアとライナスの二人だけが残された。
 白いドレスに身を包んだアンの姿と、ディグノの白い正装姿がチラリと見えた気がして、シルビアは色を深めた紫色の瞳でにこりと微笑んだ。

「ライナス様、ところで二人きりですね?」
「……ん?」
「お忙しい中、来て下さったことは理解してますが、もう少しそばにいて下さいますか?」
「ああ」

 見上げれば、美しく輝く金色の瞳。
 白銀の髪は、まるで最高級の絹糸のようだ。

「たぶん、このあとは、さらに忙しくなる」
「そうですか……。残念ですが、疲労が回復するお茶を作りますね」
「…………感謝する。だが、忙しくなるのは、シルビアもだぞ?」
「え?」

 紫色の瞳を瞬いたシルビアに、金色の瞳をいたずらっぽく細めたライナス。
 その手に握られたのは、美しい金色の宝石がはめ込まれた華奢なブレスレットだ。

「近く、俺たちの結婚式が行われる。王弟であり将軍である俺と、聖女であるシルビアの結婚式だ。盛大なものになるだろう」
「まあ……」

 そもそも、シルビアとライナスは、期間限定の契約結婚のはずだった。
 だから、結婚こそすれ結婚式を挙げることになるなど、シルビアは思ってもいなかった。

 どこか人事なシルビアの様子に苦笑しながら、ライナスは腕輪を差し出した。

「手をこちらに」

 差し出された華奢で細い手首に、腕輪がはめられる。

「シルビア、覚悟しておけ」
「え? 忙しくてもがんばります。ライナス様にお会いできる時間が少なくなるのは残念ですが」
「ふふ、そうか。だが、忙しさのことではない」
「……では、いったい」
「……結婚式が終わったら、本当の夫婦になろう」

 今もシルビアは、ライナスの妻であり、二人は夫婦のはずだ。
 そんなことを思いながら、首をかしげたシルビアと、犬歯を覗かせて笑ったライナス。

「君のことを守り切る。そして、きっと君に似た家族は可愛らしいに違いない」
「えっと、御子の誕生に関して、長老様の仰っていたことは、半分真実で残りは虚偽だったと認識していますが」
「……そうだな。いつどうなるかわからないからと、言い訳をするのはもうやめる。たとえ何が起ころうと、俺たちは夫婦だ。ずっと一緒にいよう、シルビア」

 うるうると紫色の瞳が、涙で満たされる。
 苦しさや悲しさでは、泣いたことがほとんどないシルビアだが、嬉し涙は押さえることが出来ない。

「ずっと、ですか?」

 その直後、色を深めてしまった紫の瞳には、どんな未来が映っているのだろうか、とライナスは思う。
 アンとディグノが生き残った今、きっと未来は不確実に変わったのだろう。

 二人が一緒にいる未来。それは戦いの象徴である将軍と平和の象徴である聖女が手を取り合う未来だ。
 そこには緩やかな流れはなく、急流のような日々が待っている、そんな予感がする。

「それでも、離してやる気はないが」
「……嬉しいです」
「……シルビア」
「ライナス様のそばにいたいです。だから、ライナス様こそ覚悟してください」

 潤んでいても幸せそうな瞳が、細められた途端、ポロリとこぼれた一筋の涙。
 涙は、軽く拭われて、シルビアが満面の笑みを見せる。その笑顔をただ守りたいと思いながら、ライナスは続く言葉を促した。

「俺は何を覚悟すれば良い?」
「ふふ、置いていこうとしたら追いかけますし、危険なときも守ります」
「それは、俺も同じだな」
「ライナス様に嫌がられても、本当の夫婦なら片時も離れません!」

 きっと、いざとなったら全力でシルビアを守ろうとするだろうライナス。
 だが、ただ己を犠牲にして守るだけでは、ダメなのだと、少しだけライナスは理解し始めている。

「……真綿に包むように、大切に屋敷の中にしまい込んでおきたいが」
「……そんな奥さんがお好みですか?」
「いや、屋敷に留まってくれない妻が、可愛くて愛しいし、それ故に目が離せないんだ」

 そう言うと、ライナスはシルビアを抱き上げた。
 シャラリと涼やかに揺れたブレスレットには、彼の気持ちを表すようにその瞳の色をした宝石が輝く。

「愛している。そばにいてくれないか」
「ええ、ずっとそばにいます」

 抱きかかえられたままだから、ライナスの顔はシルビアよりも下にある。
 少し背中を丸めて口づけする様は、二人の立場が逆転したようだ。

「愛しています、ライナス様。期間限定なんて言わず、私と本当の夫婦になってください」
「ああ、喜んで」

 微笑んだシルビアをしばらく見つめるライナス。
 大切なものを失うのが怖いから、大切なものを作らないと無意識に決めていた二人。
 けれど、結末を考えて離れた距離を保つには、お互いが恋しすぎるから。

 二人の唇は、もう一度重なる。
 まるで、ただ離れないと誓い合うように。
 
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みんなの感想(9件)

アリアンロッド

何故かニコニコがニヤニヤしながら読んでいて あっという間に読んでしまいました。2人のやりとりも楽しいし周りの人たちも個性的で面白かったです。 次を楽しみに待っています。

氷雨そら
2023.02.13 氷雨そら

アリアンロッドさん、嬉しい感想ありがとうございます。
早速、更新しましたのでぜひご覧いただけるとうれしいです。

解除
にゃあん
2023.01.19 にゃあん
ネタバレ含む
氷雨そら
2023.01.19 氷雨そら

にゃあんさん

感想ありがとうございます。
ジレジレの二人ですが、
夫婦ですのでそろそろ(*´人`*)

解除
クパ^ - ^
2023.01.18 クパ^ - ^
ネタバレ含む
氷雨そら
2023.01.19 氷雨そら

クパさん
感想ありがとうございます。
続き、がんばります(^-^)

解除

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