77 / 77
幸せと波乱の結婚式 1
しおりを挟むアンとディグノが去った室内には、シルビアとライナスの二人だけが残された。
白いドレスに身を包んだアンの姿と、ディグノの白い正装姿がチラリと見えた気がして、シルビアは色を深めた紫色の瞳でにこりと微笑んだ。
「ライナス様、ところで二人きりですね?」
「……ん?」
「お忙しい中、来て下さったことは理解してますが、もう少しそばにいて下さいますか?」
「ああ」
見上げれば、美しく輝く金色の瞳。
白銀の髪は、まるで最高級の絹糸のようだ。
「たぶん、このあとは、さらに忙しくなる」
「そうですか……。残念ですが、疲労が回復するお茶を作りますね」
「…………感謝する。だが、忙しくなるのは、シルビアもだぞ?」
「え?」
紫色の瞳を瞬いたシルビアに、金色の瞳をいたずらっぽく細めたライナス。
その手に握られたのは、美しい金色の宝石がはめ込まれた華奢なブレスレットだ。
「近く、俺たちの結婚式が行われる。王弟であり将軍である俺と、聖女であるシルビアの結婚式だ。盛大なものになるだろう」
「まあ……」
そもそも、シルビアとライナスは、期間限定の契約結婚のはずだった。
だから、結婚こそすれ結婚式を挙げることになるなど、シルビアは思ってもいなかった。
どこか人事なシルビアの様子に苦笑しながら、ライナスは腕輪を差し出した。
「手をこちらに」
差し出された華奢で細い手首に、腕輪がはめられる。
「シルビア、覚悟しておけ」
「え? 忙しくてもがんばります。ライナス様にお会いできる時間が少なくなるのは残念ですが」
「ふふ、そうか。だが、忙しさのことではない」
「……では、いったい」
「……結婚式が終わったら、本当の夫婦になろう」
今もシルビアは、ライナスの妻であり、二人は夫婦のはずだ。
そんなことを思いながら、首をかしげたシルビアと、犬歯を覗かせて笑ったライナス。
「君のことを守り切る。そして、きっと君に似た家族は可愛らしいに違いない」
「えっと、御子の誕生に関して、長老様の仰っていたことは、半分真実で残りは虚偽だったと認識していますが」
「……そうだな。いつどうなるかわからないからと、言い訳をするのはもうやめる。たとえ何が起ころうと、俺たちは夫婦だ。ずっと一緒にいよう、シルビア」
うるうると紫色の瞳が、涙で満たされる。
苦しさや悲しさでは、泣いたことがほとんどないシルビアだが、嬉し涙は押さえることが出来ない。
「ずっと、ですか?」
その直後、色を深めてしまった紫の瞳には、どんな未来が映っているのだろうか、とライナスは思う。
アンとディグノが生き残った今、きっと未来は不確実に変わったのだろう。
二人が一緒にいる未来。それは戦いの象徴である将軍と平和の象徴である聖女が手を取り合う未来だ。
そこには緩やかな流れはなく、急流のような日々が待っている、そんな予感がする。
「それでも、離してやる気はないが」
「……嬉しいです」
「……シルビア」
「ライナス様のそばにいたいです。だから、ライナス様こそ覚悟してください」
潤んでいても幸せそうな瞳が、細められた途端、ポロリとこぼれた一筋の涙。
涙は、軽く拭われて、シルビアが満面の笑みを見せる。その笑顔をただ守りたいと思いながら、ライナスは続く言葉を促した。
「俺は何を覚悟すれば良い?」
「ふふ、置いていこうとしたら追いかけますし、危険なときも守ります」
「それは、俺も同じだな」
「ライナス様に嫌がられても、本当の夫婦なら片時も離れません!」
きっと、いざとなったら全力でシルビアを守ろうとするだろうライナス。
だが、ただ己を犠牲にして守るだけでは、ダメなのだと、少しだけライナスは理解し始めている。
「……真綿に包むように、大切に屋敷の中にしまい込んでおきたいが」
「……そんな奥さんがお好みですか?」
「いや、屋敷に留まってくれない妻が、可愛くて愛しいし、それ故に目が離せないんだ」
そう言うと、ライナスはシルビアを抱き上げた。
シャラリと涼やかに揺れたブレスレットには、彼の気持ちを表すようにその瞳の色をした宝石が輝く。
「愛している。そばにいてくれないか」
「ええ、ずっとそばにいます」
抱きかかえられたままだから、ライナスの顔はシルビアよりも下にある。
少し背中を丸めて口づけする様は、二人の立場が逆転したようだ。
「愛しています、ライナス様。期間限定なんて言わず、私と本当の夫婦になってください」
「ああ、喜んで」
微笑んだシルビアをしばらく見つめるライナス。
大切なものを失うのが怖いから、大切なものを作らないと無意識に決めていた二人。
けれど、結末を考えて離れた距離を保つには、お互いが恋しすぎるから。
二人の唇は、もう一度重なる。
まるで、ただ離れないと誓い合うように。
11
お気に入りに追加
2,710
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(9件)
あなたにおすすめの小説
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
人間嫌いの熊獣人さんは意外と優しい 〜病院で一生を過ごした少女は健康に生まれ変わってもふもふに会いに行きます!
花野はる
恋愛
生まれつき病弱で、一生のほとんどを病院で過ごした舞は二十歳の誕生日を前に天に召された。
......はずだったが、白いお髭のおじいさんが出て来て「お前の一生は可哀想だったから、次の生ではお前の望みを叶えてやろう」と言う。
そこで舞は「健康な身体になりたい」と、好きだったファンタジー小説の中の存在である「もふもふの獣人さんに会いたい」の二つを願った。
そして気づけば舞は異世界にいたのだが、望んでいた獣人たちは、人間の「奴隷」として存在していた。
そこで舞は、普通の獣人とは違うフルフェイスの熊の獣人と出会って、一緒に暮らすことになる。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす
みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み)
R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。
“巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について”
“モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語”
に続く続編となります。
色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。
ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。
そして、そこで知った真実とは?
やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。
相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。
宜しくお願いします。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
何故かニコニコがニヤニヤしながら読んでいて あっという間に読んでしまいました。2人のやりとりも楽しいし周りの人たちも個性的で面白かったです。 次を楽しみに待っています。
アリアンロッドさん、嬉しい感想ありがとうございます。
早速、更新しましたのでぜひご覧いただけるとうれしいです。
にゃあんさん
感想ありがとうございます。
ジレジレの二人ですが、
夫婦ですのでそろそろ(*´人`*)
クパさん
感想ありがとうございます。
続き、がんばります(^-^)