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聖女、運命と役割 4
しおりを挟む室内訪れる沈黙。
カチャリと小さくカップを置く音が響き渡る。
「……つまり、お互い様なので聞かせてください」
「シルビア様……」
シルビアは無邪気ではあるが、人の気持ちが分からないわけではない。アンの恋心に踏み込んだのも、ただその心の負担を除くためだ。
「……ありがとうございます。シルビア様のお母上は聖女に仕える神官、そしてお父上は騎士だったそうです」
「……神官と騎士」
シルビアは、父と母について何も知らない。
けれど、最近夢に見るのだ。
微笑んでいる母と、シルビアを抱き上げる父の大きな手を。
「……聖女の力が、次世代に受け継がれるとき、先代の聖女はその力を失います。その時期は、誰も知らない」
「……それは」
「そして、その原理は隣国で永きにわたり研究されていたようなのです」
「では、公爵家令嬢に聖女の印が現れたのは……」
そう、想像通り、シルビアの印、そして魔力は奪われたのだ。
「けれど、妨害に遭い、公爵家令嬢は聖女としての力を完全に奪うことは出来なかったようです。……聖女の印は消えず、魔力はほとんどなくても精霊からの加護はシルビア様のものだった。殺してしまうと、聖女の力は消えてしまうから」
「生かされて、いたのですね。でも、妨害とは?」
シルビアの質問に、アンは少しだけ肩を震わせた。
それだけで、その妨害をした人物たちが誰なのか、シルビアにも察することが出来た。
「お父さんと、お母さんですね……」
「そうです。聖女と力を奪う儀式は、あとはシルビア様を殺せば完成しました。けれど、一人の神官が命を捧げて魔法を壊し、一人の騎士が命を捨て本当の聖女を守った」
あの時、シルビアを守ってくれた背中と、向けられた微笑みは実際に起こった出来事だった。
ポタリ、とほんの少し残された紅茶に涙が落ちて波紋が広がる。
「そうでしたか」
愛されていたことには、気がついていた。
守られていたことにも。
「でも、私は守ってもらったのに、何も出来ていません」
そんなことはない、とアンは思う。
シルビアの作り上げた魔法薬で多くの人が救われた。そして、きっとこれからも救われる。
少なくとも、アンは救われている。
それは、ディグノもライナスも同じだろう。
「不敬かもしれませんが、運命の荒波の中では、聖女様も小さな1枚の葉でしかないのでしょう」
「え?」
「出来ることは少なく、それでも懸命に足掻く、それだけの存在なのだと思います」
「アンさん……」
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「……妹さんに?」
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そう言ってアンは、静かに微笑んだ。
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