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女性将校と大聖女 3

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 口の中が苦いのは、お茶の後味のせいなのか、それとも……。
 アンは、知らずに汗をかいた手のひらを強く握りしめる。

「シルビアちゃんの母は、ガロン王国の神殿の神官だった……。シルビアそっくりで、天真爛漫で誰にも慈愛の心を持っていた」

 長老様は、語る。
 それは、一組の夫婦の幸せと、破滅と、希望の物語だった。

 * * *

「……さて、これで年寄りの話は終わりだ」
「つまり……。シルビア様のお父上とお母上は」
「ああ、シルビアちゃんのために命を落とした。本来であれば、聖女の印、それだけではなくシルビアちゃんの力全てを奪おうとしたのだろう。だが、二人に阻まれて完全に奪うことは出来なかった」
「……シルビア様から、聖女の印を奪った公爵家令嬢は」

 何でもないように、目の前のお茶を口にして、長老様は、口を開く。

「……大聖女になれず、精霊の加護も聖女の印も、元から持つ魔力さえ、全て奪われたものは、死ぬ」
「……そうですか。シルビア様が生き延びたのは」
「シルビアちゃんは、魔力のほとんどと、聖女の印の一部を奪われたが、精霊の加護とその命は、両親が命がけで守った。今、印の一部は隣国の姫が持ち、シルビアちゃんの魔力と精霊の加護を奪おうとしているのだろう」

 黙ったままアンは、もう一杯入れられてしまった苦いお茶を一息に飲んだ。

 愛し合い、幸せに過ごすはずだった、元神官の女性と年若い平民上がりの騎士。
 二人の間に生まれた子どもは、三歳になった日、左肩に聖女の印を授けられる。

 泣く泣く彼女を神殿に預けた二人。
 しかし、シルビアの力は公爵家の姫に奪われる。
 娘を助けるために助けるために、二人は……。

「……話してくださって、ありがとうございます。ところで、ローランド王国にご一緒しませんか?」
「……聖女が離れ、大聖女までいなくなれば、この国の加護は全て消えてしまうだろう。貴族や王家は腐っていたが、この国は大切な場所だからね。いつか、二人に渡す日までは、守ってみせるさ」
「二人、とは……」
「……さて、年寄りなのに魔力と加護を使いすぎたようだ。寝ようかね」

 長老様は、アンから視線を逸らす。
 これ以上聞き出すことは、出来ないのだとアンは察する。

「……それでは、失礼致します」
「あ、そうそう。これだけは伝えておこうか」
「……? 何でしょうか」

 ニヤリとその口が、楽しそうにゆがんだのを見て、アンはこの場からすぐに逃げ出したいと思う。
 理由は分からないが、聞いてはいけない気がする。

「…………アン、守れなくてすまない。本当は、ずっと君を守りたかった」
「えっ!?」
「ディグノ様……。あなたに救われたあの日から、お慕いし、守りたいと」
「えっ!? ま、まさか!」
「アン、俺は君を愛し……」
「わ、わあああ!」
「……何てね。神託で見た悲劇の恋人たちの物語など、変わってしまった今となっては、意味のないことか」

 今度こそ背を向けた長老様。
 一度、自覚してしまった恋心というものから、目を背けるなんて人には出来ない。

「ふむ。老婆心から少々余計なことをしたかな?」

 深くフードを被り、気配を消して走り去る後ろ姿を、長老様は、見送ったのだった。
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