最下層暮らしの聖女ですが、狼閣下の契約妻を拝命しました。

氷雨そら

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嫉妬と寝物語 4

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「ライナス様……」
『がぅ』

 見つめ合う二人。
 寝室なのだから、もちろん他に誰もいない。

「私はまだ、誓っていないのに、ズルいです」

 シルビアは、脱げてしまった服を拾い上げて、すぐ着られるようにベッドの枕元にたたむ。
 そのあと、何故か座ってまての姿勢でこちらを見上げているライナスの前にしゃがみ込み、その太いフンワリした首筋に抱きつく。

「……そうですね。とりあえず、寝ましょうか」
『がぅ』
「どうして?」
『がぅ、がぅ!!』

 シルビアからライナスの鼻先に落とされた口づけは、柔らかくくすぐったい。
 人の姿をしたライナスは美しく、勇敢で、きっと多くの人に愛されるけれど、この瞬間だけは、彼はシルビアだけのものに違いない。

「さあ、ベッドに入りましょう?」
『……がぅ!』

 首をぶんぶん振っているライナスは、そのままシルビアに尾を向けて、何故か逃げ出そうとする。

「行かないで……。一人は嫌です」
『がぅ……』

 その言葉を聞いたとたんに、走り出すのをやめたらしいライナス。シルビアは、その体を有無を言わさずに抱きあげる。

「今夜は、眠り込んでしまわないのですね? 魔力の消費量の問題でしょうか」
『……がぅ』
「うーん、とっても可愛らしくて温かいのですが、何を言っているか分からないのが困りものです」
『……』

 実際、ライナスは自分の魔力が、最近日に日に強くなっているのを感じている。
 先日、シルビアを助けようと久方ぶりに使った魔力は、予想以上の出力だったため、コントロールを間違えて眠り込んでしまったが……。

 半ば無理矢理連れ込まれたベッドの中、ライナスは当然のようにシルビアに抱きしめられる。

「ライナス様、愛しています」
『がぅがぅ』

 今のは、「俺もだ」といったように聞こえた。
 それはたぶん、シルビアの気のせいなどではない。

「……誓います。聖女としても、妻としても、あなたを守る盾であり続けることを」
『……』

 温かい光は、オレンジ色をしている。
 聖女には捧げる剣がないから、代わりにシルビアは、布団の中でもう一度、ライナスの鼻先に口づけを落とした。

 オレンジ色の光は、ライナスから淡く漏れ出した金色の光と混ざり合い、まるで黄昏のように光り輝く。

 次の瞬間、シルビアの視界は、バサリという音とともに闇に覆われた。

「後悔するなよ?」
「え……?」

 暗闇の中で落ちてきたのは、濃厚でシルビアが知らなかった口づけだ。
 暗闇の中で抱きしめてくる腕は、いつの間にかどこか頼りなくて細い狼のものではなく、明らかに鍛え抜かれたたくましいものへと変わっている。

「ライナス様?」
「予想できなかったのか? 聖女と聖女の騎士が、互いに交わす誓いの効力」
「えっ?」
「こうなると分かっていたから、離れようとしたのにな……。仕方ない、夫婦というものについて、少しだけ教えてやろう」
「えっ、え?」

 もう一度落ちてきた口づけは、やはり甘く。
 シルビアは、夫婦というものについて、長老様がいっていた言葉は、真実であり、真実ではなかったのだと、その夜思い知らされたのだった。

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