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二人の距離 4
しおりを挟む――――まるで、作戦会議みたい。
シルビアの隣には、いつものようにライナスが座っている。
向かいには、ディグノが。
そして、ディグノを歓迎しているのだろうか。今朝の朝食は、いつもよりものすごく豪華だ。
朝食の席で話し合うライナスとディグノの様子を眺め、シルビアはとりとめもなくそんなことを思った。
食事というのは、かつてのシルビアにとっては、ただ生きるために毎日口にするものだった。
おそらく、長老様のおかげなのだろう、シルビアが毎日かろうじて生き延びるだけの食事は与えられていた。
水をくみに行けば、石を投げられ、火を焚くことすら地下では難しかったから、いつでも冷たい食事を食べていた。
シルビアが生まれたガロン王国から、ローランド王国にもどる野営では、シルビアにはきちんと温められた食事が渡された。
『こんな物しか用意できなくてすまない』
そんな言葉とともに申し訳なさそうにライナスが差し出したのは、こんがりとあぶられたパンと、干し肉だった。
そこで初めて、食事がおいしいと思ったのだ。
「このお屋敷においてもらってから、ライナス様と食べるごはんは、とても楽しいものでした……」
けれど、ディグノとライナスは、食事に目を向けることもなく、真剣に何かを話し合い、必要に迫られて食事をしているようにも見える。
シルビアの考えは、間違ってはいない。
彼女がこの屋敷に来てから、出来る限り一緒に食事をする時間を捻出しているライナスだが、元々彼にとっても食事というのは、必要に迫られてするものだった。
パチンッと手を叩く音が室内に響き渡る。
驚いたように、ディグノとライナスの二人が音の方向に目を向ける。
そこには、手を合わせ珍しく少し怒ったような表情を浮かべたシルビアがいた。
「シルビア?」
「ライナス様、ハイエル様。私が申し上げるのもなんですが、楽しく食べましょう? さきほどから、あまりにも会話の内容が食事にそぐわないようです」
それもそのはず、作戦会議に近いライナスとディグノの会話は、どの貴族が裏切っているのか、そして今後起こりえる水面下の戦い、誰を処罰するか、暗い内容ばかりだ。
少しだけ、頬を膨らませているようにも見えるシルビア。
ディグノとライナスの二人は、顔を見合わせて思わず吹きだした。
「そうですね。では、あの話の続きを致しましょうか?」
「……っ! それは、楽しそうですね!」
「おい、あの話とはなんだ? 二人で何を話していたんだ」
もちろん、ディグノとシルビア、二人だけに分かる会話といえば、ライナスが幼い頃の可愛らしい思い出話だ。
シルビアは、急いで手に持っていた小さいサンドイッチを口に入れて咀嚼した。
「ライナスが、初めて剣を持ったのは三歳の頃でした」
「おい、その話は……!」
「当時から、豊富な魔力を持っていたライナスは、初めて稽古してくれた騎士の制止を振り切って……」
「ええ、それで?」
ライナスは、どこか恥ずかしそうにしている。
三歳の頃は、まだ人の姿をしていたというライナス。きっと、天使のように可愛かったに違いない。
「……その話は、ここまでだ」
「えー」
不満げなシルビアの鼻を苦笑したライナスがそっとつまむ。
「ディグノに話をさせると、妙な脚色をされる可能性があるからな……」
「出来れば、ライナス様の子どもの頃が知りたいです」
「そうか……」
ディグノの前にもかかわらず、横に座ったライナスは、そっとシルビアの耳に唇を近づけた。
かすめるように触れ、鼓膜を揺らすのは大好きな低くて甘い声だ。
目をそらしてくれたディグノの配慮に感謝しつつ、シルビアの耳がひどく熱くなる。
「……今夜の、寝物語で教えてやろう」
「う、あの!」
なぜなのだろう、シルビアの耳元に集まってしまった熱が広がって、顔全体が火照っているのは。
たぶん、今までだったら何も感じなかっただろう言葉が、今はひどく恥ずかしい。
――――ご遠慮します!
その言葉は、意地悪げに口の端を歪めてとても楽しそうなライナスが、小さなタルトをシルビアの口に押し込んできたので、伝えることが出来なかった。
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