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二人の距離 1

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「やはり、ご迷惑を掛けていたようです」

 俯いたシルビアは、モゴモゴとそれだけ呟いた。
 それを聞いたライナスが、シルビアを無言のまま抱きしめる。

「……そういえば、御子についての話が途中だったな」
「え? そういえば、そうですね」

 首をかしげたシルビア。
 人の姿に戻っても、ライナスの白く輝く鋭い犬歯はのぞいたままだ。

「俺の気持ちが、なかなか伝わらないようだから、教えてあげよう」
「ライナス様の、気持ち?」
「ああ、知りたいか?」

 金色の瞳は、今は高温で燃えさかる焚き火のようだ。
 ライナスのことが怖いなんてあり得ないはずなのに、シルビアはなぜか後ずさりたくなってしまう。

「怖いか」
「……こっ、怖くなんてないですよ!!」
「……そうか」

 サラサラと金色の細い髪をすくい上げて、指の間からこぼれる様子を見つめているライナス。
 少し切なげな吐息は、シルビアの心の臓をなぜか締め上げる。

「ライナス様こそ、何かを怖がっているみたいです」

 何を恐れているのかも分からずに、シルビアは思ったことを口にした。
 それでもライナスは、シルビアの髪をもてあそんだまま、顔を上げることがない。

「ライナス様?」
「……そうだな、怖い」

 次の瞬間、シルビアは大きく目を見開いた。
 そっと髪に寄せられた唇と、切なげに見上げてきた視線。
 どうしてこんなにも、心臓が高鳴るのだろうか。

「シルビアの全てを手に入れて、嫌われてしまったらどうしようかとか」
「そんなはず……」
「清らかなシルビアを血で汚れた俺なんかが穢していいのかとか」

 その時、シルビアの瞳がアメジストのように煌めいた。
 少なくとも、ライナスにはそう見えた。

「よく分かりませんが」

 手を離してしまったライナスの代わりに、今度はシルビアがその白銀の髪にそっと触れる。
 唇を寄せた姿は、まるで子犬同士がじゃれ合っているようにも見える。

 フワフワした髪に頬をすり寄せながら、シルビアは呟いた。

「赦します」
「え?」
「きっと私、ライナス様のことなら全部許してしまうに違いありません」
「…………そうか」

 結局ライナスは、シルビアに軽いキスをしただけだった。

「えっと、いつもと変わらないですね?」
「ああ、シルビアに先に言われてしまったふがいない俺だが、ただ」
「ただ?」
「そう、ただシルビアのことなら俺もきっと全て許すのだろうな、ただそう伝えたくて」

 シルビアが、そのぬくもりを本当の意味で知るには、まだ少しの時が必要なのかもしれない。
 けれど、二人は、まるで幼い兄妹のように、体を寄せ合ってその日一緒に眠った。
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