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聖女と副将軍 1

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 * * *

 屋敷に帰り着いた二人を使用人たちが、勢ぞろいで出迎える。
 シルビアにとって、ここは確かに自分の家だ。

「お帰りなさいませ」
「ただいま帰りました!」
「留守の間、変わりなかったか?」
「それが……」

 一列に並んだ使用人たちの後に、騎士服が見える。
 アンは、見当たらず代わりにいたのは、薄い茶色のくせ毛に、少し垂れた青い瞳が優しげな副将軍、ディグノ・ハイエルだ。

「ティグノ……。珍しいな」
「……珍しいも何も」

 目の下のクマがすごいな、というのがシルビアが最初に抱いた感想だ。
 帰還途中に紹介されて以降、出会うことがなかったが、いったい何があったのだろうか。

 突然、険しい表情を緩めて甘く微笑んだディグノが、シルビアの前に膝をつく。

「……失礼致しました。聖女様、ご無沙汰しております」
「ハイエル様、こちらこそ。ところで、だいぶお疲れのようですが」
「まあ、少々フィラー国境付近まで、そしてそのあと書類に忙殺されておりました。どこかの誰かのおかげで」
「それについては、感謝している」

 ふいっと、ライナスがディグノから視線を逸らした。
 その様子、そしてもう一度ディグノの疲れ切った表情を見た見たシルビアは、答えに行き着いてしまった。

「ま、まさか、私のために軍のお仕事を放っておかれたのですか?」
「……いや、王宮での王族の仕事もいろいろと」
「ローランド閣下、いや、ライナス」
「……ディグノ」

 狼頭ではない今日のライナスの頭に、ペタンと垂れた耳の幻影が見える。

「事情が事情だ。文句を言う気はない」
「……すまない」
「すまないと思うなら、お前でなければ処理できない案件を片付けてこい!」
「アンに休暇を与えている。シルビアの護衛が」

 いつもの威勢が嘘のように、モゴモゴと言葉を濁すライナスを見つめ、逆らってはいけない人がいるのだと、察したシルビア。

「ご心配なく。シルビア様の護衛は、俺が務めます。実力、信頼、ともに申し分ないかと」
「そ、それはそうだが」

 ディグノがパチンと指を鳴らすと、ライナスの背後には二人の騎士が現れた。
 諦めたらしいライナスは、「はぁ。まあ、確かに潮時か」と呟くとシルビアを抱き上げたまま屋敷に入り、執務室のソファーにシルビアを座らせた。

「無理をしないように」
「……いってらっしゃいませ」
「それから、ディグノは信頼が置けるが、あまり近づきすぎるな。男性なのだから、距離を置いてだな」
「おい、時間がない。閣下をお連れしろ」

 ディグノがもう一度指を鳴らすと、屈強な騎士二人がライナスの腕を掴み、引きずっていく。

「ライナス! 全部終わるまで帰ってくるなよ!」

 部屋には、ディグノとシルビアの二人が残されたのだった。
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