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国王と妃 2
しおりを挟む幼い頃から食事をほとんど与えられなかったせいなのか、シルビアの腰は折れそうなほど細い。
そんな腰をさらにコルセットで締め上げられる。
艶やかなドレスは、竜を素材にしたものとまではいかないが、上質で艶やかだ。
だが、白一色では味気ないと、ピンクや薄紫の花で飾られ、その装いに会わせるように、そっとピンク色の口紅が引かれる。
今日のシルビアは、聖女というよりは妖精のようだ。
「……ライナス様」
「緊張しているのか? 兄と義姉だと思えばいい。実際にそうだからな……」
「そ、そんな、恐れ多い」
「人間が決めた身分など関係なく、頂点に立つ存在だ、聖女こそ」
自分が聖女なのだと、認めることにしたシルビア。
もちろん聖女としての振る舞いは身につけている。必要であれば、国王を前にしたってそれらしい振る舞いをすることだって出来る。
でも、それとこれとは話は別だ。
「――――国王陛下として会いにいらしたのであれば、それ相応の対応をすればよい。だが、今回は先触れもなく訪れたのだ。珍しく、家族として訪れたのだろう」
「……ライナス様のお兄様として、ですか?」
「そうだ……」
そう言いながらも、狼顔のライナスは浮かない雰囲気だ。
幼い頃に狼姿になり王位継承争いから身を引いたというライナスと、黒と赤というその色合い故に国王にはふさわしくないという人間がいまだにいる国王陛下。
母が違うとは言っても、血を分けた兄弟だ。
だが、素直にそのことを受け入れるには、彼らを取り巻く出来事はあまりにも複雑すぎる。
それでも、ライナスは一定以上の信頼と、揺るぎない忠誠を国王陛下に捧げていることをシルビアはもう知っている。
「……身重で体調が優れないという王妃様」
扉を開けると、応接間には仲睦まじい様子の男女が座っていた。
王妃は、茶色の髪とグリーンの瞳。とても美しいが、この国では一般的な色合いだ。
腹部やウエストを締め付けないゆったりとしたドレス。膨らんだお腹につい目がいってしまう。
「急に訪れてすまない、ライナス。そして、先日はご苦労だったな」
「……いいえ。兄上が、あのようなことに関わっていないこと、よく存じ上げております。それに、いつでもいらしてください。たった二人の兄弟なのですから……」
シルビアは、国王陛下を兄上と呼んだライナスの横顔に視線を送る。
兄上と呼びながらも、その声音は少し固く、視線も鋭い。
「ありがたい申し出だ。だが、今日は聖女シルビアに用があって来た」
少しだけ細められた深紅の瞳。
すくんでしまいそうなほど威圧感があるが、笑うと少しだけ幼くも見える。
「……違和感の正体」
身重だという王妃は、だからといって体の具合が悪いわけではなさそうだ。
けれど、周囲にはシルビアの気配と対極に位置するような気配が漂っている。
そう、まるでそれは太陽のようなシルビアの魔力に対して、月のようだ……。
シルビアは、制止しようとしたライナスを振り切って、王妃のそばで膝をつく。
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