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国王と妃 1
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王太后は、罪なくライナスを拘束した罪に問われ、国王陛下より謹慎を言い渡された。
「以前であれば、もみ消されたのだろうが」
「……そうですか」
今ならシルビアにも分かる。
王弟殿下であっても、聖女であっても、周囲の評価によって不当な評価を受けることがあるのだと。
だが、人の姿に戻ることが出来て、聖女を妻にした今、ライナスの王国内での扱いは変わりつつある。
「陛下が、そんなことを許すはずないと思っていたが、やはり独断での行動か。だが、大国フィーラをないがしろにしたと問われれば、陛下の立場も厳しいものになるだろう」
「――――ライナス様、これからどうされるのですか?」
「……王女がどうやって聖女の印を手に入れたのか、さらに詳しく調べる必要がある」
「そうですね……」
ライナスの姿は、いつでも狼から人に戻ることが出来る。
聖女であるシルビアさえいれば。
その気になれば、ライナスのこの国での発言力は、今以上に増すだろう。
「……公爵家令嬢、ようやく行方が分かった。やはり、王太后の母国フィーラ、その手引きにより国内を脱出したようだ。だが、そのあとの消息は……」
「そうですか……」
おそらくすでにこの世にはいないのだろう公爵家令嬢。
しかし、シルビアにとってもたった一度会話をしたのは、公爵家令嬢に薔薇の印が浮かんだ直後、幼いあの日だけだ。
「――――ところで、思い当たることはないのか?」
「……私の魔力が急に元に戻ってきたことと関係がありますよね。でも、私が公爵家のお姫様にお会いしたのは、たった一回なのです」
そう、そのたった一回の邂逅の直後、シルビアの魔力は徐々に減少し、ついには魔法薬に魔力を込めるたびに眠り込んでしまうようになった。
「――――公爵家のお姫様の瞳は、淡い水色をしていました」
シルビアは、胸元に手を入れると、聖女の証であるネックレスを引き出してライナスに見せた。
今、淡い水色はほんの少ししか残っておらず、ほとんどがシルビアの瞳の色、紫色へと変わっている。
「公爵家のお姫様に出会ったあと、眠り込んでしまったから詳細は分からないのですが、あの時に何かがあったのだと思います」
その後は、辛い毎日、自分が本当の聖女だなんてとても思うことが出来ず、生き残るだけで精一杯だった。
けれど、シルビアが本当の聖女なのだとしたら……。
「長老様なら、何か知っているのかもしれません」
「大聖女様か……。だが、行方が分からない」
「彼の国を見捨てることが出来ないと仰っていました。だから、間違いなく旧ガロン王国にいるはずです」
功績を認められたライナスの領となっている、シルビアの生まれ故郷。
悲しく辛い思い出ばかりのその場所、ほんの少し前まで暮らしていたのに、ずっと昔のことのように思える。
「そうか……」
その時、来客を告げるベルが鳴った。
続いて扉が叩かれて、ほんの少し顔色の悪いアンが現れる。
「――――ライナス様、陛下がいらっしゃるそうです」
「自ら……? 呼び出しではなく、か?」
「はい。それに、王妃殿下も。……シルビア様、着替えをお手伝いいたします」
ふと、謁見したとき国王陛下が見せた陰りのある表情と、身重の王妃は体調不良であることを思い起こしたシルビア。
しかし、相変わらずに力強いアンに手を引かれ、慌ただしい準備が始まってしまい、違和感の原因に行き着くことは出来なかったのだった。
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