最下層暮らしの聖女ですが、狼閣下の契約妻を拝命しました。

氷雨そら

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聖女の銀色狼 3

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 食事を食べ終わった二人は、ライナスの部屋に戻る。
 フワフワと胸元から切り替えられたドレスに着替えたシルビアは、考え込んでしまったライナスの膝の上になぜか座っている。

「ライナス様……。この体勢は」
「いいだろう? 昨日、シルビアは俺のことをこんな風に抱きしめていたじゃないか」
「え? それは……。というより、起きていたのですか?」
「時々、夢うつつに」

 その姿から気にしていなかったが、昨日の狼はライナスなのだ。そのことにようやく合点がいったシルビアは、おもわず頬を染める。
 だが、それよりもシルビアにとって、ライナスが浮かない表情をしていることの方が重要だ。

 小さな体をくるりと膝の上で回転させて、正面を向く。
 ライナスの姿は、人のままだ。
 だから今は、その表情がハッキリと分かる。

「……何をどこまで見た」
「……お姫様の肩に、私と同じ薔薇の花が浮かんでいました」
「そうか。……おそらく、すでにシルビアがいた国の公爵家令嬢は生きていないだろう。聖女の印を簡単に奪えるはずがない」

 ライナスはそのまま、シルビアの肩にそっと額を預けた。
 シルビアが持つ気配は、とても清浄で、狼の姿でなかったとしても、魔力の放つ甘い果実の香りを強く感じる。

「……ライナス様」
「……あの姿を見てどう思った?」

 シルビアの肩に顔を埋めたままのライナスは、掠れた声で問いかけた。

「可愛かったです」
「そう……。母上と同じことを言うんだな」

 軽く肩を押されて、二人の距離が遠ざかる。
 その力は本当に弱いのに、抗いがたい壁のようなものが二人の間にあるようだ。

「ライナス様、悲しいのですか?」
「俺が? いや、とっくに受け入れたはずだ」
「そうですか」

 そっと触れた髪は、思っていたより柔らかくて絹糸のようになめらかだ。
 シルビアはそのまま、髪を撫でていた手を下ろし、ライナスの頬にそっと口づけをした。

「お母さんが、小さい頃こうしてくれたことを思い出したんです」
「……シルビア」
「ライナス様は私の旦那様で、私はあなたの妻です。つまりそれは、家族ということでしょう?」

 とても温かくて、柔らかいその距離感は居心地がいい。しかし、なぜなのだろう。今はその距離が少し物足りなく思える。

「そうか……。だが、それではもう足りないようだ」
「……不思議ですね。私もそう思っていました」

 ライナスの顔が近づいてくる。
 シルビアはそっと目を瞑った。

 残念ながら、その直後に押し当てられたのは、やわらかい唇ではなく、少し冷たい狼の鼻先だったけれど。
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