最下層暮らしの聖女ですが、狼閣下の契約妻を拝命しました。

氷雨そら

文字の大きさ
上 下
26 / 77

狼閣下と聖女 8

しおりを挟む

「ライナス様! 会いたかったです」
「……そうか、心配をかけたな」

 ギュウギュウとすがりつくシルビア。その金色の髪をひと撫でしてライナス様は、笑った。

「ところで、先ほど打ち据えられていましたが、大丈夫なのですか?」
「どうしてそれを……。いや、聖女の力か」

 シルビアは、抱きついたまま治癒魔法を使った。
 オレンジ色の光がライナスを癒やすが、それくらいのことでシルビアが眠り込んでしまうことはもうない。

「そうです……。私と同じ、聖女の印を持つお姫様を見ました」
「……シルビア、俺は」

 この国のことを思うなら、大国の提案を受け入れるべきなのかもしれない。
 ましてや、国王陛下と血縁関係にある姫だ。
 両国の繋がりは、より強固なものになるだろう。

「ライナス様のそばにいられるなら私は……」
「……それについては、ゆっくり話したほうがよさそうだ。シルビアは何も分かっていないようだから。だが、その前にここから抜け出すか」
「そうですね。でも、今来た抜け穴は、狭くて……。わっ!?」

 ライナスが、足で蹴ると穴はとたんに大きくなった。

「崩れたらどうするんですか」
「壁を壊して現れたシルビアが、それを言うか。……だが、加減しているから問題ない」

 そのまま、手を引かれて階段の前に二人で立つ。

「しかし、先ほども不思議に思ったのだが、なぜ素足なんだ」
「……階段の上に、脱ぎ捨ててきてしまいました」
「なぜ……」

 それは、ライナスが心配で、一刻も早く駆けつけたかったからに決まっている、そう告げようとしたシルビアの両足が宙に浮く。

「帰るか……。どちらにしても、面倒なことになったのは間違いない」
「歩けます」
「ふふ、マントを巻き付けてやりたいところだが、あいにく剣を奪われていてな」

 そのままライナスは、一段飛ばしで階段を駆け上っていく。
 肩に担ぎ上げられたままのシルビアは、浮遊感におもわず目をつぶってその首元にすがりついた。

 あっという間に階段を上りきったライナスは、シルビアを今度は横抱きにすると、落ちていた白い靴を拾い上げる。

「ほら……。ちゃんと履いておけ」
「自分で履けますよ」

 シルビアの小さな抗議に答えることなく、ライナスは口元だけを歪める。
 そして、小さな足に似つかわしい、小さなハイヒールをそっと履かせた。

「……そろそろ、戻りそうだな」
「え?」
「なんとなく狼と人間の姿を行き来する体内の魔力の流れが、分かるようになってきた」

 唇は合わさる。誰もいない寒い場所が、シルビアにとってとても暑く感じる。
 彼女が目を開けたとき、目の前には見慣れた狼頭の男性が、金色の瞳を細めて、たぶん微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。 全11話

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!

屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。 そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。 それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。 その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。 突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。 その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

完結)余りもの同士、仲よくしましょう

オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。 「運命の人」に出会ってしまったのだと。 正式な書状により婚約は解消された…。 婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。 ◇ ◇ ◇ (ほとんど本編に出てこない)登場人物名 ミシュリア(ミシュ): 主人公 ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者

処理中です...