最下層暮らしの聖女ですが、狼閣下の契約妻を拝命しました。

氷雨そら

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狼閣下と聖女 1

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 * * *

 闇の王子と光の王子。
 それが、正妃の御子である第一王子リーベルトと側妃の御子である第二王子ライナスの俗称だった。

 それは、彼らの見た目によるものだった。
 二人は、母が違うと思えないほどに似ていた。

 しかし、第一王子リーベルトの見目は、人を恐れさせる黒髪と深紅の瞳。
 一方、第二王子ライナスは、美しい銀の髪と金色の瞳をしていた。

 通常であれば、正妃の御子で第一王子であるリーベルトの王位継承は、揺るぎないものだったはずだ。

 しかし、その見た目と幼い頃から強い魔力をライナスが持っていたことから、ライナスこそ王位にふさわしいとする貴族が一定数存在していた。

「……ライナス様?」
「……シルビア」
「どうされたんですか?」

 手を引いて歩いていたが、人目がなくなったとたん抱き上げたシルビアに、ライナスは、ぎこちなく笑いかけた。
 馬車を目の前に、少し早く退席してきた二人の周囲には、誰もいない。

 今もまだ、ライナスは人の姿のままだ。
 少し俯き額にかかる銀の髪は、月光が反射しているかのようにキラキラと輝いている。

「シルビアは、この姿をどう思う?」
「えっ、姿……ですか?」

 シルビアは、改めてライナスを見上げた。
 少し不安げに揺れる瞳は、いつものライナスらしくない。
 目の前にいる人は、絶世の美貌を持つ。
 けれど、シルビアには、いつもの姿とそれほど変わらないように思えた。

 だから、それを正直に伝えることにする。

「ライナス様は、どんな姿でもライナス様です」
「……それは」
「うーん。確かにとても素敵な見た目だと思います。でも、もし同じ姿の人がいたとしても、他の見た目だとしても、私が好きなのはライナス様なのです」
「好き?」

 シルビアは、ほんの少しのめまいを感じながら、抱き上げるライナスにしがみついた。
 あの時、この手を取ったときには、こんな気持ちを抱くなんて、思いもしなかった。

「……どんな姿でも、ライナス様が一番好きです」
「……陛下の御子は、まだ生まれていない。王位争いから退いたのだとしても、それまで俺の王位継承権は1位だ」
「……そうですか。その姿にしてしまったことで、不都合なことが起こったのですね。……でも、その姿もライナス様のものです」
「俺の、もの?」

 ライナスが、息を詰めた。
 シルビアが、目覚めたときにライナスがつぶやいた言葉。
 側妃であるライナスの母の死と、その姿には関連があるのだろう。

「ライナス様、でもごめんなさい。眠いんです」
「ああ、俺をこの姿に変えるには、膨大な魔力が必要だ。……いつの間に、こんなに魔力量が増えた?」
「先日から。……あの」
「シルビア?」
「……ちゃんと、目を覚ましますから」

 その言葉とともに、ライナスの姿は、元の狼顔へと変わった。
 シルビアは、どこか安堵したようにフニャリと笑いかける。

「ああ、だが、そばにいてもいいか?」
「……そ、ですね。一緒に寝てください」
「……お前な」

 ライナスは、まだ知らない。
 そのまま眠り込んだシルビアが、しがみついたまま離れないせいで、結局一緒に眠ることになるなんて。
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