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聖女、王宮に招待される 3
しおりを挟むライナスは、凱旋パレードを終えて、国王陛下に謁見しようとしたところ、すでに部屋に誰もいなかったため慌てて屋敷に戻ってきたという。
「陛下には、幼い頃から、そういうところがあった……」
疲れた声でそれだけ言うと、ライナスはシルビアのことを上から下までなぜか真剣な視線で眺めた。
「美しい……」
「本当に! こんな美しいドレスや髪飾りを用意していただいて、ありがとうございます」
「……ああ。シルビアに似合うと思っていた。……ドレスもそうだが、今日のシルビアはことさら美しい」
「あっ、ありがとうございます!」
着飾った姿を、周囲の人たちは全員褒めてくれた。
シルビアには、ほとんど褒められた経験がないから戸惑いながらも、嬉しかった。
「――――皆さん褒めてくださいました」
「そうか、よかったな?」
ライナスは、いつものように頭をぐしゃぐしゃ撫でたりしない。
もちろん、そんなことをすればせっかく整えてもらった髪が台無しになってしまう。
でも、おそらくライナスがそうしないのは、髪型を気遣ってのことではないのだろう。
「……でも、不思議なことに、ライナス様に褒めていただけたのが、一番嬉しいのです」
「――――本当に、シルビアは」
サイドの髪を一房すくい上げたライナスが、そっと唇を押し当てた。
そして、そのまま上目遣いにシルビアを見つめて微笑みかける。
「……可愛いな」
「……えっ」
多分、にこりと笑ったライナスに、なぜがあの新月の夜、人の姿で見せた表情が重なる。
シルビアは、未だかつてなく頬に熱が集まるのを感じて、慌てて両手で押し隠そうとする。
「見せてくれないか」
細い手首を掴んだフワフワした感触のライナスの力は弱く、すぐにでも振りほどけそうだ。
けれど、シルビアにはそれが出来なかった。
「……あの」
「巻き込んですまない。もしかすると、シルビアがいた場所よりもこの場所は」
眉間にしわが寄るのを見て、シルビアは、それだけは違うと思いっきり首を振る。
だって、シルビアにとってライナスは、冷たくて湿った場所から、光の当たる場所に連れ出してくれた恩人なのだ。
でも、もしこの場所が、今までより過酷で残酷なのだとしても、シルビアは構わなかった。
「そう思うのなら、一つだけお願いです」
「そうだな、俺に出来ることなら全て」
「一緒にいさせて下さい」
どんなに辛くて危険な思いをするのだとしても、ライナスに必要としてもらえるなら、シルビアは構わない。
――たとえ、1年間の期間限定だとしても。
ライナスから返答はなかった。
けれど、きっとシルビアを手放す選択など、もうライナスにだって出来ないに違いない。
「後悔するなよ」
「しませんよ」
抱き寄せられ、首筋をくすぐる毛先。
なぜか、シルビアは、魔力が急に湧き上がってきたように感じた。
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