最下層暮らしの聖女ですが、狼閣下の契約妻を拝命しました。

氷雨そら

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聖女、契約妻を拝命する 4

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 ***

 次の街に着いたとき、雨が降ってきた。
 見知らぬ街並みは、それでも真っ白な壁とお揃いの家々のせいか明るく輝いているようだ。

「見たことのない景色……」
「そうだろうな? 気に入ったか」
「はい……。美しいです」

 神殿の地下三階は、珍しい壁画やレリーフがあって、考えようによっては美しかった。
 けれど、どこか暗くて、さみしくて……。

「今日は、宿屋に泊まる。連日、馬車の中に泊まっていたのは辛かっただろう?」
「え……。とっても快適でしたよ?」
「……どんな生活をしてきたんだ」

 シルビアは、いつだって冷たい石造りの神殿の床に、一枚だけの毛布を敷いて眠っていた。
 哀れに思ったのか、細い体を気の毒に思ったのか、意外にもライナスは過保護だった。
 暖かい毛布を敷いてくれた上に、さらに自分のマントまで掛けてくれたので、とても温かく過ごせた。

「さ、降りるんだ」
「はい」

 トンッ、と馬車を降りたシルビアは、ライナスと共に凱旋する軍人たちから、注目されていることに気がついた。

 昨晩、正式にシルビアを嫁に迎えた、と宣言したときの周囲の驚愕は、今も脳裏を離れない。
 そう、それは昨晩。焚き火を囲んでいた本隊に紹介されたときのことだ。

 ***

「おいで、シルビア」
「え? ライナス様?」

 今日も馬車の中で毛布を敷いて寝る準備をしていたシルビア。
 扉が開いたため振り向くと、そこにはライナスがいた。

 当たり前のように抱き上げられて、そのまま連れていかれた場所では、焚き火が赤々と燃えていた。
 それを取り囲むようにいるのは、軍服を身に纏った少々厳つい人たちだ。

「……ようやく本隊が合流したからな。シルビアを紹介しようと思う」
「紹介?」

 シルビアを抱き上げたまま現れたライナスを周囲が信じられない、ということを隠せない驚愕の視線で出迎える。

 時々、「お、おい。閣下が、女性を抱き上げているぞ!?」「笑いかけている……だと?」などの言葉が聞こえてくる。

「……もふもふしている方は、ライナス様しかいないのですね」
「……こんな姿、早々いてたまるか」
「ちょっと、残念です」
「は?」

 抱き上げていたライナスの腕から地面に降り立ったシルビアは、スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀をした。

「シルビア、と申します。以後お見知りおきを」

 背が低く細くて幼く見えるシルビアのお辞儀は、とても可愛らしい印象だったが、それでいて、どこでも通用する洗練されたものだった。
 意外に思ったのだろう、周囲だけではなく、ライナスまでその金色の瞳を見開いている。

 そんなとき、一人の淡い茶色いくせ毛と丸くて大きな青い瞳をした、周囲に比べて細身で優しい印象の青年がシルビアの前に立ち、同じく優雅に礼をする。

「これはご丁寧に。聖女様、ディグノ・ハイエルと申します。ローランド閣下の直属部下です」
「そうですか。……ハイエル様、どうぞよろしくお願い致します」

 にっこりと微笑んだシルビアに周囲が息を呑む。
 美しいが、どこか幼さが残るその笑顔は、あまりに神秘的だった。

「ところで、閣下。聖女様をお連れしたということは聞きましたが、抱き上げていらっしゃるなど。……説明していただけるのでしょうか」
「ああ。三日前、嫁にした」
「は?」

 もちろん、その後の混乱は、筆舌に尽くしがたかった。
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