4 / 77
聖女、契約妻を拝命する 4
しおりを挟む***
次の街に着いたとき、雨が降ってきた。
見知らぬ街並みは、それでも真っ白な壁とお揃いの家々のせいか明るく輝いているようだ。
「見たことのない景色……」
「そうだろうな? 気に入ったか」
「はい……。美しいです」
神殿の地下三階は、珍しい壁画やレリーフがあって、考えようによっては美しかった。
けれど、どこか暗くて、さみしくて……。
「今日は、宿屋に泊まる。連日、馬車の中に泊まっていたのは辛かっただろう?」
「え……。とっても快適でしたよ?」
「……どんな生活をしてきたんだ」
シルビアは、いつだって冷たい石造りの神殿の床に、一枚だけの毛布を敷いて眠っていた。
哀れに思ったのか、細い体を気の毒に思ったのか、意外にもライナスは過保護だった。
暖かい毛布を敷いてくれた上に、さらに自分のマントまで掛けてくれたので、とても温かく過ごせた。
「さ、降りるんだ」
「はい」
トンッ、と馬車を降りたシルビアは、ライナスと共に凱旋する軍人たちから、注目されていることに気がついた。
昨晩、正式にシルビアを嫁に迎えた、と宣言したときの周囲の驚愕は、今も脳裏を離れない。
そう、それは昨晩。焚き火を囲んでいた本隊に紹介されたときのことだ。
***
「おいで、シルビア」
「え? ライナス様?」
今日も馬車の中で毛布を敷いて寝る準備をしていたシルビア。
扉が開いたため振り向くと、そこにはライナスがいた。
当たり前のように抱き上げられて、そのまま連れていかれた場所では、焚き火が赤々と燃えていた。
それを取り囲むようにいるのは、軍服を身に纏った少々厳つい人たちだ。
「……ようやく本隊が合流したからな。シルビアを紹介しようと思う」
「紹介?」
シルビアを抱き上げたまま現れたライナスを周囲が信じられない、ということを隠せない驚愕の視線で出迎える。
時々、「お、おい。閣下が、女性を抱き上げているぞ!?」「笑いかけている……だと?」などの言葉が聞こえてくる。
「……もふもふしている方は、ライナス様しかいないのですね」
「……こんな姿、早々いてたまるか」
「ちょっと、残念です」
「は?」
抱き上げていたライナスの腕から地面に降り立ったシルビアは、スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀をした。
「シルビア、と申します。以後お見知りおきを」
背が低く細くて幼く見えるシルビアのお辞儀は、とても可愛らしい印象だったが、それでいて、どこでも通用する洗練されたものだった。
意外に思ったのだろう、周囲だけではなく、ライナスまでその金色の瞳を見開いている。
そんなとき、一人の淡い茶色いくせ毛と丸くて大きな青い瞳をした、周囲に比べて細身で優しい印象の青年がシルビアの前に立ち、同じく優雅に礼をする。
「これはご丁寧に。聖女様、ディグノ・ハイエルと申します。ローランド閣下の直属部下です」
「そうですか。……ハイエル様、どうぞよろしくお願い致します」
にっこりと微笑んだシルビアに周囲が息を呑む。
美しいが、どこか幼さが残るその笑顔は、あまりに神秘的だった。
「ところで、閣下。聖女様をお連れしたということは聞きましたが、抱き上げていらっしゃるなど。……説明していただけるのでしょうか」
「ああ。三日前、嫁にした」
「は?」
もちろん、その後の混乱は、筆舌に尽くしがたかった。
16
お気に入りに追加
2,711
あなたにおすすめの小説

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす
みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み)
R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。
“巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について”
“モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語”
に続く続編となります。
色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。
ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。
そして、そこで知った真実とは?
やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。
相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。
宜しくお願いします。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話

召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる